第六話 大島要、押しかけ従姉妹と決着を付けること
6-1 突き詰めと門前の会話と渋い顔
二週間が過ぎた。
自分を追い詰めるためとはいえ、あれでよかったのか。
あのやり方は、ある意味では卑怯ではないのか。
突き詰めれば突き詰めるほど、疑問は出る。しかし時は巻き戻らない。出来ることで、結果を出すしかないのだ。
「
ドアの向こうから、
「あ、後ちょっと……」
力むこと数秒。やがて、虚脱が訪れて。そのまま急いで後始末を済ませるのだった。
トイレで少々遅れた分、急いだのがかえって失敗だったのだろうか。気が付けば、定刻より三十分も前に
「あっちゃー……。近くに喫茶店とかあるんかね」
門前、呆然として立つ要。いや、この状態がもう不審者なのだが。辺りを見ても、閑静な高級住宅街が広がるばかりで。下手に休める場所を探そうとしたら、逆に迷って遅刻しかねない。
仕方ない。ひとまず一周、ぐるりと回ろう。要がそう決めた所で。門が開いて。
「なにやってんだお前」
「あ……」
仕立てのいい肩までのシャツに長いコート、スカートを履いた
「……呼び鈴、押していただいても構わないのですが」
「いえ、少し早過ぎましたし……」
やり取りは、あまりにもビジネスライクに過ぎて。しかし要は、今更元には戻せず。
「服、似合ってますね」
「あら、ありがとうございます」
素直な気持ちを出しつつも、差し障りのないやり取りが。
「……無駄に感情を出すまいと思ったが、やめだ。私には合わん」
三分と続かなかった。
「やめるんです?」
要は思わず尋ねてしまう。若干のおちょくりもそこにはあったが。
「殴るぞお前。ビジネスライクはともかく、ここまで距離を置く必要はないだろ」
「それはまあ、確かに」
実際の所違和感もひどかったので、助かるといえば助かるのだった。
「ったく。そういう部分を身に付けようと思った私も私だが、お前もお前だ。この間の時点でツッコミぐらい入れろよ」
「俺の性格考えろよ……。ただでさえ罪悪感があったんだぞ……」
なにを、なにをと。互いの顔が近くなる。にらみ合う。昔なら、ここから殴り合いにまで発展したものだ。だが、今回は。輝から、視線が切られて。
「いいか、私は時間がない。ここまで付き合ってやっただけでも感謝しろ。感謝ついでにこれを持ってけ」
間合いを取り、目線をそらしたまま。ぶっきらぼうに突き出されたのは、チケットとかを入れるタイプの袋だった。
「元々は母さんの再婚相手からプレゼントされていたんだが、私には使う時間も用もない。お前が使う方が、有意義だと思う」
「お、おう」
中身が気になる。見てしまおうかとも考えたが、この場で開けるのは失礼だ。下手にケンカの材料を増やす必要はない。
「頂いておくよ」
「ああ、そうしてくれ。じゃ、私は行く。時間がなくなる」
迎えの車でも待たせているのだろうか。輝は表通りへと向けて歩き出した。要はそれを、そっと見送る。以前とは異なる、品の良い歩き方が。先日よりも更に磨かれていた。
休憩時間。要の前に座る少年は、コーヒー片手にやや渋い顔をしていた。
「で。結局もらってしまった、と」
「うん。……なにか、まずかったかな?」
浮かない顔をした雇用主に注意を払いながら、要は聞く。まずいのなら、忘れ物を装ってでも、返してしまった方がいい。そう考えていた。だが、雇用主は軽く首を横に振った。
「いや、そういう訳ではありません。……せめて、大切に使ってやって下さい」
要の頭には、疑問符が浮かんでいた。
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