2-6 酒盛りと意気投合と濡れ場

 結局、「ここでは周りの迷惑になる」ということで。春野はるのの借りているオフィスの一室へと、場を変えることになった。


 なお。かなめ本人にとっては、悪夢のような展開であることには変わりなく。美女二人に挟まれているのに、ちっとも喜べないという悲しい状況である。

 率直に言って、逃げたい。逃げたいが、しずくを連れて行く必要がある。なのに、雫は対抗意識満々にふんすふんすと鼻を鳴らしている。


「流石に部屋にはこだわったからな。半分住居だが。今日は秘書も居ないから、ゆっくりしていけばいい」


 そこそこいい感じの外装のビルの中。ジュウタンが三人の足音を吸収していた。春野がドアを開けると、要の部屋よりも広く、事務所然とした場所が姿を現した。


「わあ……」


 雫が感嘆の声を漏らす。内装は味気ない方だと思ったのだが。後、対抗意識が吹っ飛んでる。


「パソコン……。二台……デスクトップ……。ネットし放題……」


 なんか別の方角から喜んでいた。そうだよな。元がつくとはいえ、学生はギガがしんどいものな。


「ハハハ。まあ二台とも仕事用だがな。身一つでの仕事に憧れた時期もあったが、オフィスはあった方が気楽だった。上がってくれ」


 既に春野は靴を脱いでいて、サングラスやシャツを片付けていた。要は圧倒されたまま、オフィスに上がり込む。

 春野が奥の扉を一つ開けると、そこにはソファと冷蔵庫に、テーブル。普通の部屋が存在していた。


「ま、休憩室兼私室だよ。で、そっち。右隣が仮眠室だ」


 春野は髪を一つにくくると、冷蔵庫を開ける。缶チューハイが、半分近くを占めていて。


「大島、今日は飲もう。お連れさんはこっちだな」


 要には缶チューハイが、雫には缶ジュースが投げ渡された。



 約一時間後。


「ハハハハハ! それでな、大島の奴……」

「そんな事があったんですか。色々とご存知なんですねぇ」

「うむ、楽しかったぞ? ……それにしても」


 すっかり出来上がってしまった春野。

 なぜかすっかり、春野と仲良くなっている雫。


 意外な光景から逃げるため、要の手は止まらない。缶チューハイをグイグイ飲み、おつまみもバクバクと食べていく。

 美女二人との飲み会なのに、なんでちっとも喜べないのか。春野の未成年への気配りはありがたい。しかし、意気投合したのは想像の斜め上だった。


「どうした大島、もっと会話に参加せんか」

「そうだよ要兄。せっかくなのに」


 雫を隣に侍らせ、春野が言う。だが、その言葉は逆に要の飲みっぷりに拍車をかけて。九缶目を空けた所でついに、意識を手放してしまい……。



「だ、ダメ、です……っ」


 透き通った声に耳を打たれて、要は覚醒する。


「なぜだい? 君は小さくて可愛いし、持ち物も良い」


 女性にしては少し低い声が、要を叩く。春野と、雫だ。そういえば、春野先輩は。同性も。


「んあっ……。でも、わたし、は」


 吐息がかすかに聞こえた後の、雫の喘ぎ。艶のある、小さな声。止めなければ。

 なのに。目の前がぐるぐるして動けない。飲みすぎだ。体が重い。そしてこんな状況でも。下半身は素直過ぎて。

 

 しかし、コトは唐突に止む。


「……うむ。コレだけ極上の光景があっても起きないのなら、完全に寝こけたな」

「ほにゃ……?」


 雫の、とろけたような声。要にとっては危険だった。

 聞こえてくる、春野の足音。

 狸寝入りがばれないように、要は寝返りをする。


「済まない。少々手荒なことをした。私が、君と。もっと深い話をしたかったのだ」

 

 聞こえる声。どこまでが予定だったか、分からないけど。無駄にエロかったのは、本人の趣味だったのか。

 

「袖ヶ浦雫、君は大島要を好いているな?」


 問いかけ。要は答えを知っていて。


「はい。とっても」

 

 きっぱりとした声は、まさしくその通りだった。

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