5-5 カキ入りカレーと迫る身体と意志の伝達

 見事にカキの入ったシーフードカレーを食し、アボカドのサラダを平らげた後。かなめしずくは、ちゃぶ台を挟んで向き合った。


「どうしたの、要兄ようにい。急にかしこまっちゃって」


 要の表情は、渋い。いつもに比べて、眉間に寄るシワが深くなっていた。口ごもりながらも、話題を切り出す。


「ああ。いや、その。雫ちゃんの、大目標はどこかな、って。聞こうと思って、ね」


 次の瞬間、雫の顔が曇った。分かってなかったのかと、言いたげな顔。そうなることは、予想していたけど。


「要兄と一緒に暮らしたい。これは今、かなってる。本音を言えば、結婚前提で交際したくて。その先も、当然あって。それを目標にして、色々覚えてきたつもり」


 要の表情に、普段と違うものを感じているのだろう。興奮するでもなく、顔を赤らめるでもなく。商品を揃えて並べるように。静かに言葉を差し出してきて。

 そのしぐさに、要はバツの悪さを感じてしまう。


「ありがとう」


 だから、まずは軽く頭を下げた。言わせてしまったことには、謝意を述べて。更に続ける。


「でも、必要だった。前向きに考えていくためにも、受け止めていくためにも。ハッキリと耳にしたかったんだ」


 真意を、明らかにする。追い返したりする気はない。安心して。そう伝える。当然。微笑みも添えて、だ。


「あ……。良かった……」


 すると雫も、表情を和らげた。それまでのどこかこわばったような顔が、一気に明るくなったのだ。確認した後、要は言葉を続ける。今後を決める、大事な言葉。


「雫ちゃん。正直に言おう。俺は確かに。雫ちゃんの思いを受け取りたい。受け取りたいけど。まだ好きかどうか、自分で納得していない」


 今更過ぎる、と要は自分をあざ笑う。だけど、正直な感想だ。様々なことがいっぺんに起きてしまったり、既成事実を狙われたりして。

 袖ヶ浦そでがうら雫という女性の有用性はともかく、雫そのものの素晴らしさを。要が冷静に判断できているのか。それが分からないのだ。


「えー……」


 雫が頬を膨らませる。その下には、年に似合わない、豊かな山がある。両腕に挟まれて、やや強調されていた。


「それはないでしょ。要兄」


 膝立ちで、スルスルと。雫が近付いてきて。十五歳の、みずみずしい肉体が。要を目指して這い寄ってくる。


 相変わらず整った顔。

 口は小さく、唇は光を反射してにわかに輝く。

 重力に従いつつも、主張を隠さない胸。

 胸を挟み込み、より凶暴性を引き立てる両腕。

 形の歪められたシャツもまた、危険な凶器で。

 その奥には細い腰。

 更に奥には。ホットパンツに包まれた、女性という性の極致。

 その下、太ももはありのままが晒されていて。


 劣情。要が今、一番抱いてはいけないもの。なのに。こみ上げそうで。たっぷりとしたズボンを履いていたのが、救いだった。

 答えを、間違えたか。要は思う。だが、事実を曲げてどうする。要は事実を言ったまでで。それに対して気を悪くしたのは、雫である。


 では、どうするか?


 要は、一歩近付いた。要なりに、作戦はあった。現在選ぶことの出来る、最良の選択肢。困らせたくはない、と言ってくれた雫なら。きっと。


 近付いてくる顔に、要はそっと自分の顔を近付けて。腕で肩を捕らえ、引き寄せる。


「よう……にい?」


 自分の狙っていた展開とズレたのだろう。雫の声が、かすかに震えていた。身体も抱いてみたい。男の本能が、うずく。しかし、抑え込んで。耳元に、口を添える。


「俺は雫ちゃんを離さない。悪いようにはしない。これはいつかも言ったよね」


 うん、と。小さい声が返って来た。要からは、雫の表情が見えない。見てしまえば、この後の発言が。怖くなってしまいそうだった。


「約束しよう。雫ちゃんの誕生日には、必ず決着をつける」

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