第33話無気力な人外

 えへへ! 君は、同じ失敗ばかりだね! 全く面白くないよ! 面白くなさ過ぎて、もう目も当てられないんだ!

 へへ! だからね! もう決めたんだ! 君をのは、もうやめたよ!


ん? 何の話だって? アハハ! 何だと思う??

ゆっくりと考えてみなよ! きっと。

きっとわかるはずだから!


ちゃんと、自分で考えてね!! だれかのたすけをかりちゃだめだよー!?

アハハハハハ!!!

もう、キミはね!

子供じゃ、ないんだから!


♦♦♦


 ミツルネルが世界を旅していたころのこと。

ネルという少女は、夜道を歩きながら戸惑っていた。

……といっても、やはり仕事はしないと食いっぱぐれてしまうから、

荷台運びという、ミツルの仕事を手伝いながら。


 夜道をからからと、各地方の土産物をたくさん抱えた荷車を引きながら歩く。

二人ともずっと無言で。


 ネフィリムの少女はたくさん考えた。

『どうしてこいつは、アタシと一緒にいるんだろう?』

これまで自分の力だけで生きていくしかなかった彼女には、

彼と一緒にいるという状況が、どうしても慣れなかった。


『……話しかけづらい。』ミツルの隣で、死ぬことのできない彼女は悩んだ。

ネルは意外と口下手であるのだ。

だって、誰とも交流を続けてこなかったから。

あまり他の奴を困らせたくないから。

こいつは。

淡白な男だけれど、優しい奴ではあるから。

余計に。

「……なー、ミツルゥ? お前ってなんでそう愛想が無いんだぁ?」


「……ほっとけ」


 これである。せっかく一生懸命当たり障りのない話題を振ったのに。

まあ、いい話題とも言えないのだろうが。

……もどかしい!

ネルが頭を抱えていると、


「ねえ、ネル」

おもむろに、彼のほうから話しかけてきた。

少し面食らったネルは、

「お、おう? 何だってんだこんちくしょー」

言葉が少しだけ乱れた。

ミツルは、毎日のように話す独りよがりの話題を口に出した。


「人生は、退屈だな」


 寂しそうに、彼女がそばにいるというのに。

何故か知らないが、気がめいってくる。


「ずっと孤独」みたいな顔をするのだ。こいつは。

どう答えればいいのだ? こんなしょうもない質問。


「……うーー。 知るか、そんなこと! じゃあお前はさあ!!」

考えすぎで頭が痛くなったネルは、逆に問いかける。


「お前は! アタシを! 殺してくれるのか!!??」


ミツルの顔がぐにゃ、となる。

まるでそんなことを聞かないでくれというかのように。

ふざけるな。自分で聞いておきながら。


「いいか! お前はな、お前だけで生きてるんじゃないんだ!!

今お前の目ん玉の前にいるのは誰だ!? 石ころでも転がってんのか!!」

ネルはミツルの着るローブの首元をたくし上げて、

こんなことを言ったのだ。



「死にたい奴は死ねるだけ幸せなんだ!! いっちばん不幸なのは!」

言葉を区切り、動揺する彼の目を見て。


「自分が幸せだってことに気づかずに!! 命を燃やさない奴のことだよ!!」


♢♦♢


「……ふむ」精神世界にて、ミカエルは『外』の様子を見ながら嘆息する。

面倒なことになったな、これは。

……まさか、あの悪魔が、あそこまで人間にかぶれていようとは。

だが、しかし。

「これも一興かな」


ネルは使から目を離すことができない。


「なんで、あんた、こんなことしてるんだ?」


「ん? 面白いからに決まっているじゃないか。ほかにどんな理由があるというのだ?」天使はくつくつと笑う。


ネルと会話をする天使は、

真っ白だった。


「ミツルが戦ってんのは、誰だ?」

冷や汗をかきながら、彼に問いかける。


「私だよ、私だとも。私の一部さ。」

天使は狂人のような笑みを暗がりで浮かべる。


狂ってる。

「ああ、そうか。だから、あんたにはあの『悪意』の匂いがしねーのか」

彼女の頭の中のパズルが埋まっていく。


「あんたは」


「自分の穢れを、引きちぎったのか……!」

なんて恐ろしいことをするんだ。


きれいすぎる白色は、何物にも染まらない。

誰も触ろうとしないから。


「最初は実験のつもりだったんだけれどね、『人格分離』の、ね?」

彼はくつくつと笑う。


「こころを、魂を。どれくらいに分ければ、私は私でいなくなれるのか、とね」

天使は物思いにふけったように、顎に掌をつける。


でも。と彼は冷静に、


「もうあの男は、崩壊するだろうさ。すぐに、ね?」


「……それだけ、か?」


「んん??」


それだけなら、いいか。

あいつも、ちゃんと、終われるのなら。

何も言うことなんて無い。


「心も、突き詰めりゃ、些細なことってことだよ」


ネルは、そう言うと。


目の前まで来ていた天使の、自分の頭をつぶそうとする掌の強さを、

諦めとともに、受け入れたのだった。


















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