第二章 冒険の旅

第12話三鶴という名前

 物部三鶴の名前を付けたのは、彼の母親だった。

物部 つむぎ。彼女のお腹の中にまだ、三鶴がいたころの話。

彼女は動物が大好きで、よく動物園に行っていた。

確か、その時は外国からパンダが輸入されていて、

「見に行きたいっ!」

「駄目だ。」

と、三鶴の父親、物部 かなでは彼女を止めていた。

「なんで? ちょっと見るだけよ、ちょっとだけ。」

「駄目なものは駄目だ。・・・何人がいると思う? 子供に何かあったら、」

「今なら、電車もあるし、うん! 行こう!!」

「おい、本当に、」

「行こう!!」

「・・・・・・」

「行こう!!」

「・・・・・・でも、」

「いいから行きましょうよ!! 私が楽しくなったら、きっとこの子も

 楽しくなるわ!!」

「・・・・、ちょっとだけだぞ? 」

「うん。ちょっとだけ!」

はあ、と奏は嘆息し、二人で動物園に行った。


動物園は大盛況だった。あたり一帯がすべて人、人、人。

奏はうわあ、と顔をしかめた。

あれだけの人数の中に入り込めば、どれだけ圧がかかるか・・・!

「なあ、もうやめ、」

と紬のほうを向いたとき、もうすでに紬はいなかった。

「紬!?」

奏はすぐさま園内に飛び込んだ。


結婚する前から、紬は変わった女性だった。

一度何かをしたいと思ったら最後、もう歯止めが利かなくなるのだ。

正直、彼女と一緒になったのには「独りにしておくと危ないから」という理由も

あったりする。

「どこだ…?」

パンダのコーナーには、、いない。ギリギリ全体がわかるが、あんな短時間で

この人混みを突破できるとは思えない。彼女だって大きなお腹を抱えているのだから。

じゃあ、他のコーナーに? どこだろうか?


動物園スタッフが話しているのが聞こえた。

「いや~、良かったですね。お父さんの病気が治って」

「ほんとだよ。一時はどうなるもんかと思った。」

ガハハ、と恰幅のいい男が笑って言っていた。


「今さっき外から、運ばれてきたから、これで、、」

奏はその言葉を聞いて、すぐさま駆け出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はあ、は、はあ、、見つけた。」

奏は、とある動物のコーナーに見入っている紬に近づいて

「何、見てるんだ?」

あれ、と紬が指をさした先には三羽の鶴がいた。

「今さっき、お父さんが帰ってきたの。」

三羽の鶴は、どことなく体を寄せ合っているように見えて、

「家族なのか?」

「うん。」

紬は三羽の鶴を愛おしそうに見つめながら、

「これで、家族一緒ね。」

その日、自分たちの生まれる子供の名前を紬たちは決めた。


幸せになってほしい。暖かい人になってほしい。

そして、あわよくば、ずっと家族一緒に・・・。

そんな願いを込められて、


物部 三鶴はこの世に生を受けたのだった。

紬は綿の服を非常に気に入っていたから、『フランネル』の服を着せて。


もっとも、一緒にいられた時間は短かったのだけれど。

それは、また別のお話。

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