第13話悪意から善意は生まれる。

 三鶴とネルとの奇妙な再会を、雲の上から見ていたものがいた。

「へー、なるんだ。」

まさか、あの状態のネフィリムに拮抗できる魔物がいるとは思わなかった。

たとえ、あの少女が「完全」に変化していなかったとはいえども、

堕天使と人間の子供である存在に地上の生物が敵うなんてことは、この数千年の中でも「何回」無かったか。いつもいつもこの世の危機とやらになったというのに。

いや、それはそれで面白いのかな。本当にこんなことは初めてだ。

「ネフィリムの『孤独』を救った魔物、か。」

そう、大天使ミカエルは呟いた。


すると、後ろにいた初老の男が、

「いいえ、あれは魔物ではありません。」

「魔物じゃない…? まさかあれが『欠落者』とでもいうつもりか?」

ただの人間はこの次元にさえ来ることもできないのだ。ましてや、過去に

起こった大戦のときでさえ、世界のバランスが崩れてもそんなことは起こらなかった。

「断定はできません。ですが、あの者のあの力は、」

こほん、と息を整えて。

「古の、悪魔のものでございます。」

「悪魔? 」

「ええ。それも、もう存在ごと抹消されたはずの大悪魔、『マモン』のものでございました。」

「・・・・・・」

大悪魔、『あの』人間に似た・・・・。ゼウス様が戦争の後で無限牢獄に閉じ込められたはずだ。いくらあのようなものでも、あそこを抜け出すことなど不可能だと思うが、妙だ。

「もし、本当に欠落者がいたとすれば。」

「ああ、分かっている。あの悪魔は『強欲』を司る存在だ。もしも、

のようなものが来たとすれば、心に入り込むことも有り得る。」

いったい、何が起ころうとしているのだろうか?


「まだ分からぬ事ばかりでございますが、もしかすると

 『何か』が目論んだことやもしれません。どうぞ、お気を緩めぬよう」

わかった、と言うと男は姿を消した。


大天使は昔を思い返す。

『悪意から善意は生まれ、抑圧から解放は生まれるのだ。』

あの、魔界と天界との間で起こった大戦で、対峙した魔物が言っていた言葉。

「…滑稽なものだ。命というのものは。」

そう言ったミカエルの瞳は、悲しみに満ちていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

魔界にて。

魔獣に乗った三鶴はネルを抱えていた。

理由はよく分からないが、元の姿に戻ってから急に気を失っているのだ。

それに、事情が事情だったから早く移動しなければならなかった。

「虎の町」に行けば、ライネルが宿を貸してくれるかもしれない。

「‥‥…」

無言で街まで向かう。

後悔は、ない。

また、勢いで行動してしまったふしもあるが。

『責任を取れ!!』

過去に言われた言葉が甦ってきた。

「言われなくても。」


全速力で魔獣を走らせて、半日ほどでライネルのところにたどり着いた。

「・・ああ、三鶴さん、どうしまし、、・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「寝床を貸してくれないか」

「あの。助けてもらっておいてこんなこと言うのもあれですけど。」

「なんだ、早く言ってくれ。」

「・・・・・・、そのぼろきれを着た女の子はどこで?」

「拾った。」

じっと、真剣な目で見つめられたから、同じように見つめ返す。

ネルが元に戻った後、当然のように着ていただろう服は形を成していなかったので

自分のローブを破いてかぶせているのだ。

「・・・、はあ、信じます。信じましょうとも!」

「あ、ああ」

一体何を勘違いされたのだろうか?全く分からない。

ライネルの店にある部屋の一つにネルを寝かせた。


ここにしばらくいてもらおう。

そう思って三鶴が部屋を出ようとすると、

「、、まってく、れ」

と青髪の少女の声が聞こえた。

「……起きたのか、よかった。」

「な、」

「な? どうしたんだ。」

「な、まえ、、お、しえ、ろ」

「ああ、言ってなかったな。」

三鶴は一呼吸おいて、

「俺は、ミツルだ。」

「みつる、?」

「おう。」

「へんななまえだな。」

「わるくはねえよ」

くすっと二人で笑った。





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