第27話絶望の足音

 魔物たちとともに、才能ある少年、ライネルは王国に逃げていた。


(……暑苦しい。)ライネルは数万という魔物たちの中でもみくちゃにされていた。

辺り一帯でひっきりなしに誰かが怒号を上げている。

「--------!!!」「---------!?」「-------!!」

ああ、苦しい。

ここまで来る途中で、一緒に来ていたトールともはぐれてしまった。

この世界が、だんだんおかしくなっているのが肌で分かる。

だって。


バアアアアアアアアアアアンッッ!!!!!!

大きな銃声が聞こえるとともに、誰かがどさりと倒れる音がした。


周りが一斉に静まる。

そして、その銃を撃った白い魔物は、一瞬呆然とした顔になり、

またすぐに、

「アハハハハハハハハはハハハハハハはハハハハハハはハハハ!!!!!」

笑い始めた。

「可笑しいや可笑しいや、可笑しいやあ! 周りに《虫》しかいねえ!!」

そういって、また持っていた銃を乱射し始めた。

それまでずっと逃げまどっていた魔物たちは当然抵抗することもできないから。

みんな、黙って殺された。


なのに、だれもなにも言わない。

血が飛び散る。

自分ではない誰かの命が、簡単に消え去る。


それどころか、所々からこんな声が聞こえる。

ハハハ」

誰も、簡単に死んだ彼らを見舞うものはいないようだ。


ライネルはその光景を見て恐怖を感じる。

彼はまるで、自分が違う世界に来ているかのような感覚を覚えた。

急に、世界から色が消える。

孤独を、感じる。

ライネルは、唐突に、周りに自分と同じことを考えている魔物がいるかどうか、

視線を巡らせて探した。

きっと、誰か、いるだろう?

そうじゃないと、おかしいから、ね?


けれど、彼と同じ魔物はいなかった。

どれだけ目を凝らしても、いなかった。

どうして?


周りを巡る魔物たちに体を流されながら、それを考えていると、


「おい!!! ライネル、ライネルじゃな!?」

ハッとその声に気づいたライネルは、現実に戻された。


「トールさん!? こ、こっちです!!」

ライネルは腕を必死に出して、その老人に手を振る。

それを見たトールは酷く安心した表情をして、


「ああ、ライネル、ひとりにさせてすまなかった。すぐ、そっちに行く。」


そうやって、老人が来るのを一秒一秒と待っていた。


その時。


「けひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! ……お前らも死んでしまええ!!」


ライネルたちの声を聴いたのであろう、その白い魔物は、

銃を、《ライネルのほうに向けて》、


「ひっ」


気管支が狭まって、声も出せない。ライネルは逃げようとするが、

逃げられない。


銃口が自分の眉間をさしている。


怖い。


そして、男が引き金を引こうとし、思わず目を閉じると、

 

パキュン。


乾いた銃声。

痛みが無いことから、撃たれたのは自分ではないことが分かった。

じゃあ、誰が?


目を閉じたまま、嫌な予感がする。そうであってほしくないと強く思う。


ゆっくりと瞼を開けて、地面を見る。

土、地面、何も見えない。

ゆっくりと頭を持ち上げて、ライネルは、


『それ』を見た。


「…………ぇ?」


彼の両目がとらえたのは、自分ではない誰かの死体でもなく、

トールの死体でもなく。


銃を乱射していた男のだけがゆっくり持ち上がる。

その大きな黒い掌は、男の首を持っている。

胴体から離れた首を。


「あ……、か、、、、は」

叫びたい衝動に駆られながらも、ライネルの喉が言うことを聞かない。

それまで魔物たちを殺していた魔物の胴体もぐちゃぐちゃになっている。


ぐちゃぐちゃ?


ライネルは、急速に動く自分の心臓を押さえつけながら『それ』の姿を見た。

見てしまった。


今。

彼の目の前に。

黒。

それも、よどんだ黒が。

この世の悪をすべて詰め込んだような。




絶望ぜつぼうが、笑って立っていた。


視線を横に流すと、自分が目をつぶっている間に、

自分の周りの魔物たちも、同じように、殺されている。


「やっぱ、、り、、おか、、、し、い、よ……! ミツルさん……!」

ライネルは、恐怖で固まってしまって動けない。


悲鳴が聞こえる。


この世界は、おかしいや。

少年がかすかにそう思うと、

『それ』は揺らめく影とともに、頭を彼の眼前まで近づけ。


絶望は、ささやいた。


「ねえ、、、? 
























  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る