第三章 それでも夢を見る

第23話回帰

腐らない死体はない。腐ることのない心もない。

しかし、誰に教わらずとも、誰もがことに抵抗する。


本当に、不思議だ。と思う。


♦主人公たち


 自分嫌いの青年が魔界に落ちてから、もう数年が経過したようだ。

彼の怪物としての姿は心なしか、人間らしく見えるようだが。

 

 二人が夢の扉での再会を果たしてから、間もないころのこと。

ネルと三鶴は、「竜の町」に来ていた。


「…………なんだ、こりゃあ。」


眼前の異常な光景に三鶴は肩の力が抜けるような思いをした。

彼は本来ならば、たとえ目の前で動物が死のうと動揺しないはずだった。

そんな彼が驚いたのは、単純に自分の予想が大きく外れたからである。

だって、彼らの良く知っている「竜の町」は、

大きく、いくつもの集落が集まっていたはずの、「町」は、

瓦礫が辺りに散乱するでもなく、死体があちこちに転がっているわけでもなく

本当に。


「何も、、残って、ないじゃないか」


影一つ残さず、消えていたのだから。


 二人は、黒ずんだ地面を並んで歩く。

闘技場もない、民家もない。当然のごとく魔物もいない。

三鶴は、隣で歩くネルを見る、がやはり落ち着きがないみたいだ。

無理もないだろう。元々、この街は彼女の故郷だったのだから。

黙々とある場所に向かっている少女についていくと、

「あの家」の敷地の場所についた。

もぬけの、から。


三鶴は少女を心配して、

「……大丈夫か、ネル」

ネルは目を細めて、

「……うん、だいじょぶ。」

その声質で、多少なりともショックを覚えていることが感じ取れた。


「は、はは。変だな。不思議だな? ずっと『どうでもいい』ことだって思ってた

ってのに、おかしいや。」

 ネルはその場にへたり込んで、


「あたしは、この期に及んで、居もしない人のこと、きにしてた。」


その言葉を聞いて、三鶴は、


「なあ、お前の母親って……」


「ああ、ニンゲンだよ。ミツルと同じ。」


「……もしかして、と思うんだが、その人も俺と同じように……」

欠落したのか?

「……あー、いや、そりゃあねえと思うな。『あの人』は容姿からすべてが人間のそれだったから。いっつもローブ着てたし、それでばれないようにしてたのな。

全く、知らないことが多くて困るぞ。本当」

うなだれて、しなだれかかってくる少女を半身で受け止めながら、三鶴は、思案する。

辺りを見回しても、一帯に「黒」がある。

十中八九あの人の仕業だろうな、と彼も、ネルも考えてはいたが口にも出さない。

一体何のために?


「ミツル。」


「ん? どうした。」


「あたしの家に行ってもいいか?」


あたしの家? ここではなく、別の……。

「ああ、思い出した。一番初めに、俺がいた場所か。」

この世界に転移して、最初に目覚めた場所。

……。


「あそこって確か、『ワームの洞窟』って場所の近くの、竜の町の外れだったよな。何か、有ったのか?」

いや、と首を振った少女は、

、けど、」

そこで言葉を区切ると、ネルはすごく久しぶりに、


がいるみたいだから。」

と、悪そうに笑った。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る