第22話『生きる意味』

 『できうることなら、外で死にたい。』

確か、子供だった頃に『誰か』にそんなことを言った。

外のほうが、世界が見れるから。


 ずっとずっと続いてきた長い長い、「ただ生きるだけ」の時間が早く終わってくれることを、きっと心のどこかで、私は願っていたのだろうか?

 もう、今となっては、さんざ生き続けてきて、そんなたわいもない夢想さえも

私は、思い出すことができない。

 

 ずっと死にたかった。

あの感情が乏しい、の真似をするつもりはないけれども、

『生きる意味』は、今の私にもないのではないだろうか。

その意味では、ずっと「生きている」ように演じてきたという意味では、

私は、欠落者と同じだった……のかもしれない。



 希望の反対は、絶望ではなくて、無気力。前にそんなことを本で読んだ。

 つまり。まだ、そんなことが考えられるということは。


 私は、たとえ振りであっても、

 「ただ生きている」べきなんだろう。


 三鶴ちゃん。

あなたなら、そういうのかしら?



 竜が死んだと、魔物たちの誰もが理解していた時。

突如として、「空の上」にいた女の声が、あたりに轟く。


「ああ!! 哀れな哀れな子供たち!! 自分たちが生きていることにさえ

 何一つ、気づけない、子供たち!! 心配でしょう!? そうでしょう! 」


黒い雨が降る中で、ツムギは上空で、両手を広げて叫ぶ。


「あなたたちは! これから!! とてもとても、価値あるものを受け取ることになるでしょう!! 」


何を? 受け取るとは、何のことだろうか?

それは、どんなものなのだろう?

声を聴く魔物たちは、ぼんやりと、そんなことを考える。


「ああ、なんと慈悲深い! こんな時でさえも、パンドラ様は、あなたたちを

欲して下さっているわ!」

自分のわきに抱えた黒い匣が、今か今かと、動き出そうとしている。 

それは、本当ならば、彼女の、ツムギの意思ではなかった。

だが、もうそんなことはどうでもいい。


「世界が、あなたたちを、望んでいる。」


その一言が聞こえた瞬間、辺りにいた魔物たちが突然苦しみだした。

「アア」「アア」「アア」「アア」「アア」「アア」

彼らの声が、ぼやけているせいか、途切れ途切れに聞こえてくる。

肌が黒く黒く染まっていき、邪悪な空気を発するようになっていった。


上空で、ツムギの隣にいたピレネーは呟く。

「楽しまねえとなあ。」


彼の言葉を聞き、眼下の光景を見ながらツムギも独り言を発した。


「これから、よろしくね。 


あ? というピレネーの疑問は「黒い雨」の降る音で掻き消えた。




 

   

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