第22話『生きる意味』
『できうることなら、外で死にたい。』
確か、子供だった頃に『誰か』にそんなことを言った。
外のほうが、世界が見れるから。
ずっとずっと続いてきた長い長い、「ただ生きるだけ」の時間が早く終わってくれることを、きっと心のどこかで、私は願っていたのだろうか?
もう、今となっては、さんざ生き続けてきて、そんなたわいもない夢想さえも
私は、思い出すことができない。
ずっと死にたかった。
あの感情が乏しい、欠落者の真似をするつもりはないけれども、
『生きる意味』は、今の私にもないのではないだろうか。
その意味では、ずっと「生きている」ように演じてきたという意味では、
私は、欠落者と同じだった……のかもしれない。
希望の反対は、絶望ではなくて、無気力。前にそんなことを本で読んだ。
つまり。まだ、そんなことが考えられるということは。
私は、たとえ振りであっても、
「ただ生きている」べきなんだろう。
三鶴ちゃん。
あなたなら、そういうのかしら?
♦
竜が死んだと、魔物たちの誰もが理解していた時。
突如として、「空の上」にいた女の声が、あたりに轟く。
「ああ!! 哀れな哀れな子供たち!! 自分たちが生きていることにさえ
何一つ、気づけない、子供たち!! 心配でしょう!? そうでしょう! 」
黒い雨が降る中で、ツムギは上空で、両手を広げて叫ぶ。
「あなたたちは! これから!! とてもとても、価値あるものを受け取ることになるでしょう!! 」
何を? 受け取るとは、何のことだろうか?
それは、どんなものなのだろう?
声を聴く魔物たちは、ぼんやりと、そんなことを考える。
「ああ、なんと慈悲深い! こんな時でさえも、パンドラ様は、あなたたちを
欲して下さっているわ!」
自分のわきに抱えた黒い匣が、今か今かと、動き出そうとしている。
それは、本当ならば、彼女の、ツムギの意思ではなかった。
だが、もうそんなことはどうでもいい。
「世界が、あなたたちを、望んでいる。」
その一言が聞こえた瞬間、辺りにいた魔物たちが突然苦しみだした。
「アア」「アア」「アア」「アア」「アア」「アア」
彼らの声が、ぼやけているせいか、途切れ途切れに聞こえてくる。
肌が黒く黒く染まっていき、邪悪な空気を発するようになっていった。
上空で、ツムギの隣にいたピレネーは呟く。
「楽しまねえとなあ。」
彼の言葉を聞き、眼下の光景を見ながらツムギも独り言を発した。
「これから、よろしくね。 ノアの子供たち」
あ? というピレネーの疑問は「黒い雨」の降る音で掻き消えた。
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