第17話紬の回想
私は「何もない」ということが嫌いで仕方が無いこどもだった。
意味も無く空いたコップが嫌いだし、意味のない文章が嫌い。
いや、それどころかこの世界そのものが嫌いだった。
だって世の中は、私が生まれた世界は『私』を排除するから。
普通にやっていくだけで私という人間は『はみ出し者』になっていることが
幼少期の私にとっては、生きる上での重大な欠陥に感じられた。
勿論、学校は苦痛でしかなかった。
本来生徒に学びを与えてくれるはずのその場所は、私にとっては、
ただ単純に生きる楽しみを奪う場所でしかなかったのだ。
およそ小学生の時、私は一つの事実に気づいた。
それは、通い詰めていた公園の木陰で漫画を読んでいた時のこと、
「ん、
声に反応して、顔を上げると通っていた小学校の先生が立っていた。
先生は背の高い女性で、いつも不遜に笑っている人だ。
「誰かと遊ばないのかい?」
「……つまんないから。」
「そっかあ。む、ムム?」
そういって私が持っていた漫画の表紙をのぞき込んできた。
「……、めーわく」
「ありゃ? ゴメンゴメン。ふーん、紬ちゃんもそういうの読むんだなあ。」
「まあ、」
「小説とかは読まないのか? 児童書とかあったろ?」
「そんなのより、これに書いてあることのほうが私には大切なので。」
「へー。まあ、どうでもいいんだけどさ。」
どうでもいいって、、この人、ちょっと失礼じゃないのか?
「ん? ああいやそういう意味じゃなくてね。そうだよな。うん。」
「なんですか?」
「うん。好きなものは何でもいいんだよな。そりゃあそうだよ、うん。」
「?」
意味が分からなくて首をかしげていると、先生はへへっと笑って、
「漫画だって、見方さえ変えればお前にとって指標にだってなるわな。」
と言った。
指標という言葉がどういう意味だったのかよく分からなかったけれども
不思議と、その言葉を言われて私は嬉しかったことを覚えている。
その日、私は学んだんだ。いや気づいた。
世の中には、すごく明るい物語があって、すこぶる面白い展開があって、
とても悲しい結末が待っていたりするものなのだ。
だったら。それを知っているだけで自分はすごく誇らしいと思っていい。
たとえそれが自分の人生に関係が無かろうとも、決してまやかしでは無いのだから。
夢ままごとであったとしても、信じる者は救われる。
ああ、なんだあ。この世界にはまだまだ知りたいことがたくさんあるじゃないか。
幼いながらに少女はそう思った。
それから、私は自由に生きることにした。
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