第10話そうして青年は出会う。

 「だったら、『弱い』なんて言葉をつかうんじゃねえ!!! 」

狭い店内に、三鶴の声がビリビリと響く。

赤髪の子供はその声に震えるでもなく、怯えるでもなく、

ただ黙って自分を助けた男の瞳を見ていた。

似てる・・・、少年は思った。

確かにこの男は強いのだろう。間違いなく。だが、

自分の知っている「強者」の目ではなかった。

寂しそうでもあり、気が弱そうでもあり、また、

ようにも見える。少なくとも、先ほどまで

自分と老人を脅かしていた大男のような威圧感はない。

だから言うなれば、「不思議な人」だと思った。

男が言った言葉の意味も、正直まだ子供である赤髪の少年はわからなかったが

意味が分からなくても、意味はあるのだということは理解できた。


 そんなことを考えていると、男は急にハッと何かに気づいたみたいに

「また、やっちまった……」とぼそりと呟いて、

「俺は運搬屋のミツルっていうものだ。ここの店主さんに用があるんだが、、

どうしようか、爺さん倒れているし……」

ミツルは壁にもたれている老人を見てそう言うと、商談自体を諦めたのか、

、そんなことよりも」

男はポケットから一枚の魔法紙をだし、そこに描かれている下手くそな絵に

映る女の子を指さして、

「ネルって、やつ、知らねえか? 」

「ネル……? 」

「ほら、こう髪が青くて、なんか擦れてて、二本、小さな角がある、」

「いえ、ごめんなさい。見たこともない。」

そっか、と少年の返事を聞いた三鶴はうなだれた。

どこに行っても見つけることができないのか。



「でも、『青の巨人』みたいな格好している魔物がいるんですね」

「……青の、巨人? 」

「知らないんですか? この前、街一つを丸々滅ぼした化け物のことですよ。」

「……」聞いたことが無い。

「なんでも、そいつは異様なほどの体格を持ち、、体と長い髪は青色で

禍々しい角が二本、生えていたらしいです。」

少年は詳しそうに語った。

「詳しいんだな、まだ小さいのに。」

「ん? ああいえ、」

少年は両手を左右に振って

「僕、このお店の店主なんです。」




少年、もといライネルと名乗ったその魔物は三鶴に

「化け物」がどこにいるのかを教えてくれた。

あとで聞いたところ、ライネルは自分の店で酒屋を営む傍らで、

情報屋をやっていたらしい。

どうも、三鶴が倒した猫の獣人はずっと金をせびっていたようで

三鶴が店を出ようとしたときにお礼だとばかりに「地図」までくれた。

これで、もう迷うことはない。中々、この世界で地図が出回ることなど

そうそうないのだ。

三鶴は貰った地図をローブのポケットに入れて

「なあ、一つだけ聞いてもいいか? 」

「はい、なんでしょうか? 」

店奥で寝かされている老人のほうを見やって、

「あの爺さんは、誰なんだ? 」

ああ、とライネルは笑って

「言ったじゃないですか、ただの恩人です」

と言った。


 ♦♦♦♦♦♦


移動には魔獣を持たせてくれた。外見は馬に似ている。

それに乗って走ること、実に三日。


物部三鶴は、空に強烈な「光」を見た。

夜中の夜空に浮かぶ、この星の衛星である「イブ」という星を眺めていた時、

青い光が、近くの森林に「落ちた」。


「あからさまだな、おい・・・・・・!?」

すぐ轟音が聞こえたかと思ったら、

「--------------------!!!!」

という破裂音にも近い音が聞こえてくる。

「ああッ!!??」

衝動がここにまで伝わってきている。三鶴も三鶴で耳の痛みに耐えていたが

数秒で、それは止まった。

「はあ、はあっ」と心臓の動機を抑えながら、三鶴はゆっくりと「音のした方」を見て、愕然とした。

話に聞いていたよりもずっと凶悪で。

想像していた姿よりも遥かに「人に似て」。

余りにも化け物で。


禍々しいという表現でも、表しきれない存在。

そしてその、木々を焼く黒い炎の中でゆらゆらとたたずんでいる「存在」は

三鶴の知る、「鬼」のようで、

そして。


あの少女と同じ目をしていたのだった。



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