第8話どこかの化け物

 町の外れ、焼けた森を眺めている一匹の化け物がいた。 

化け物は叫んでいた。朝も、昼も、夜も、耳をつんざく声で叫んでいた。

「------------------------------!!!」

時に怒り、時に笑い、時に泣きながら化け物は叫び声をあげている。

いや、違う。それでは語弊があるだろう。

それではこう言おう。

化け物は『苦しくて』、苦しみたくなくて、叫んでいた。

はるか遠くに向かって、未だに見えぬ、光を求めて。

 時間は三か月前まで遡る。

 鉄の部屋にて。

女が言ったことがネルは何のことかわからなかった。

「死ねないって、どういうことだよ?」

ネルは動揺していることを隠そうとして、女に言った。

「・・ふうん。神様も罪なものなのね・・・・」

女はここにきて初めて人間らしい顔になった。

「ここに来る前、あなたにかけた『フラン』は即死呪文だったわ。」

「は。」

呪文って、、呪いってことか。

「何を驚くことがあるのかしら、私はパンドラさま、『災厄の乙女』のお力を授かっているのよ? あなた一人くらいこのの量でどうにでもなると

思っていた。でも、。」

女はさっきとは違う、興味深そうな表情になって、

「本来呪いというものは、生者にかかる。つまり、あなたは生者ですらないの。」

「じゃあ! 何だってんだよ!!」

「知らないわ。さっき言ったでしょう? あなたは『異物』なのよ。

この世にいてはいけない存在だってこと。」

「・・・・・・・!」

イテハイケナイ。

『あんたなんて生まなきゃよかった』。

「嘘だあッ!! ふざけんなよ! あたしが、あたしがあ!」

ネルは自分のとても長い過去を振り返る。

「今まで、かあさんに会うために、許してもらうために、

 どれだけ、どれだけ頑張ったと思ってる……!!??」

母さんは優しいヒトだった。

でも、アタシはずっといたずらばっかりしていた。

だからーーーーーーーーーーーーー

アタシには、お母さんとは違う角が生えたんだ。

だから、困ってる人には優しくするんだ。

いつか「許してもらうため」に。

「はあ、でも? 人間なんだから。」

その言葉は、ネルの心をつんざいた。

女は一人叫ぶネルの言葉など一切聞く意味も持たない様子で、

「あなたには、『竜』を殺す手伝いをしてもらうわ。」

竜? 町の守り神の?

「それで、今度は私が世界を変える。」

女は笑って言って、手に持った「箱」の中身を外に出した。


「なん、だこれ・・・・・か、はっ」

ネルの周りに『黒い霧』が漂っている。

変な圧力がネルをついばむ。

「ねえ、お嬢さん? 生き物が絶望するものって『何』かしら。」

それはね、と女は区切って、

「他人の幸福を知ることだと思うの。」


けひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃーーーーーー

その日。

ネルは、数百年生きた時間を思い返しながら、

壊れた。


たった数分、たった数時間、たった数日でネルは誰が見ても魔物が見ても

日の打ちようがないほどの「化け物」になった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る