第9話一人の少女を追いかけて。
竜の町からしばらく歩いて、一週間ほどの場所に虎の町がある。
荷車を引きながらローブを着た三鶴はその繁華街を渡っていた。
そこは竜の町ほどの大きさは無いにしても、流れる人並みは倍以上ありそうだ。
繁華街の中心を通りながら、右、左、前の獣人たちを眺める。
「違う。 違う。 違う。 ・・・・・・ネルじゃあ、ないな」
三鶴は荷物運びをして至る所を回り、あの少女を探していた。
もうこの街で見つからなければ諦めることも考えた。
だが、どうしても彼女を見つけないといけないような気がするのだ。
思えば、ずっと彼女を見つけるために「仕事」をしてきた気がする。
今の自分にあるのはわけも分からない「強さ」だけなのだから。
「でも、礼だけはしとかねーとさ。」
三鶴は一人でそうこぼして、配達先まで荷物を運んだ。
この店だな。と三鶴が確認した途端、
ズドンッという音が店の中から響いてきた。
そっと半開きになっているドアを開けると、
「勘弁してくれ! 頼む、もうそれだけしか残ってないんだ!」
羊の老人が、身長は軽く3メートルはあろうかという猫の獣人に縋り付いていた。
「っけ。しょうもねえなあ、爺さん。 たったの3000ノア無くなっただけで
そんなこと言うのかよ」
「それだけでも、わしらにとっては大事な金なんじゃ! どうか今回は・・・」
「ふざけたこと抜かしてんじゃねえよ。なあ、死にたくないなら俺から離れろ!
俺のグループだったらな、こんな店すぐに潰せる。なあに、ちょっと金がいるんだよ。・・・わかったならさっさとどけ!」
猫の獣人が軽く脚を振っただけで、その老人は壁に叩きつけられた。
「ぐあ!?」
するとその老人に、赤い髪をした人型の子供が駆け寄り、
「なあ! 頼むよ、もうこれ以上俺の恩人をいじめないでくれ!! もういいだろ
この人だってあんたに逆らえるほど強くないんだ、弱いんだよお!」
三鶴は、ゆっくりと「その場所」へと歩き始める。
猫の獣人は彼らのしつこさが頭にきたのか、
「ガキが、減らず口を叩くんじゃねえよッ!!!」
と、その子供に拳を振り上げて・・・・・!
「待てよ。」と
後ろからその腕をつかまれた。
「・・・・・!!!!! 」
(こいつ、気配がわからなかった? いや、この俺が半径10メートル以内の獲物の存在を感じ取れないはずが・・・)
猫の獣人は自分の腕を掴む手を払い抜けようとしたが、離れない。
単純な腕力であれば獣人の中でも上を行くその男が。
全く体を動かせないでいる。
「て、めえ」とこちらをみた獣人は、その男の瞳にこもる殺気を感じた。
ヤラナイトコロサレル、そう思った獣人はもう片方の腕の先を尖らせて、
思いっきり振った。
「へ」
腕をその男に向けた瞬間、猫の大男は、
壁にめりこんでいた。
そこにいた人間全員、呆然としていた。もちろんそれは、赤髪の少年に関しても同じで声も出せずにいたが、
三鶴がその子供に近づいていくと、子供は後ずさりした。
「・・・その、爺さん。お前の何だって? 」
「え、えと、恩人、です。」
「そうか。」と三鶴は頷いて、
「だったら『弱い』なんて言葉をつかうんじゃねえ!!!! 」
そこら中に響くほどの大声で、そう言ったのだった。
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