第26話欠け落ちたもののために。
今俺は、どこまでたどり着くことができたんだろうか?
物部三鶴は、立ち止まった場所から、どれくらい進むことができたのだろうか?
人間として生まれて、それなりに大事にされて生きてきて、
……そして、いつからか、他人からゴミのように扱われるようになって。
いくらやっても失敗しかできなくなって、立ち直ろうと、必死になっていたのに。
一歩だって、前に進むことができなくて。泥沼に足をとられて。
人間として壊れて、自分すら受け入れなくなった。
他人を壊すという選択を選んでしまった。
自分のためなら、他人を傷つけても構わないと、思ってしまった。
そして、とうとう人間をやめて、怪物になった。
♦♦♦♦
ズズズ……
ズズズ……
巨大な影から、人の姿が浮かび上がってきている。
「……もう、これで、本当に最後なんだよなあ? ツムギ」
ピレネーは、大きな悪意の渦をそばで見やりながら、《彼女》に呟く。
”アアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!”
彼女は、自分を包み込む影と、もうほぼ同じ存在になっていた。
ピレネーの瞳に映る『彼女』はもはや人間じゃなかった。
パンドラ。
ああ、心配だ。
「俺は、最後まで、お前の味方でいてやれるのかね」
不死者に負け、欠落者に負け、そして。
「己にすらも対抗してしまった、敗北者よ。」
ピレネーはその何もかもを知っているような視線を、
もはや、人ですらない、彼女に送る。
「死してなお、その魂は果てず、朽ちず。」
ピレネーは呟く。
「どこまでも、進み続け、」
彼女の、いや、パンドラの体がゆっくりと盛り上がる。
「いつまでも、壊し続け、壊れ続くのであろう。」
生きとし生けるものを喰らい続けるのだろう。
黒い化け物は、邪悪に伸ばした翼を大きく広げる。
「なあ、ツムギ。お前は一体、本当は何がしたかったんだ?」
自分を犠牲にして、他人を犠牲にした。
その罪を、自分に問うているのだろう?
黒くなる、黒くなる、黒くなる。
ネフィリムを、目覚めさせるためだけのために。
化け物となってしまった彼女は、叫ぶ。
世界を闇に変えながら。
グラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラ、と、
大地を震わせながら。
風を強く吹かせながら。
化け物は叫ぶ。
恐らく、その中には怒りも憎しみも有れども、
少しだけの後悔も混じっているのかもしれないけれど。
何物でもない存在は、呟く。
「欠落者が落とした、願望以外の、二つ目のもの。……それがきっと、」
呟く。
「きっと、
そう独り言を話して、全てに劣った存在は、
化け物が高く飛び立っていくのを見送った。
どうか、彼女がちゃんと終われますように。
そう願った。
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