第7話わけも分からず。

 明るい物語が好きだった。

幼少の頃の三鶴は、非常に素直な子どもで人の言うことならなんでも信じた。

まだそのころには一緒に遊ぶだけの友達もいたし、おまけに彼の両親は本当に

愛情を与えていたから、彼も同じように「優しい」人間に育っていた。

 当時、三鶴に出会う大人は「まるで、天使みたいだ」なんてことを彼の両親

含めて、かなり本気で思ったものだ。


 今思い返せば、三鶴が「壊れてしまった」原因はそこにあったのかもしれない。

生まれたころから、物も分からない頃から、彼の心を支配していたのは

 「人にやさしくなければ、自分に生きる価値なんかない。」

 「言いつけを守らなければ、生きる意味が無い。」

なんて、泣きたくなるくらいに自信のない人生観だった。

まるで「自分から人形になろう」としているみたいに。

物部三鶴は自分自身を、ちっぽけな世界に閉じ込めていた。


  三鶴は、殺し合いが終わった後で自己嫌悪に苛まれていた。

「やらないと、殺された」から、やられる前に殺した。

・・・正当防衛? ふざけるな。

「俺は、俺を、誰かに認めてほしくて・・・それ、だけだったのに、」

自分に襲い掛かってくる魔物たちを見て、まず最初に考えたのは

「どれだけ殺せるか」、だった。

これまで散々経験してきたはずなのに。

誰かの優位に立ったって、どれほどの意味も無いというのに。


「こんな場所に来て、姿形すら変わっても、考えることは同じなんだな。」

俺は、俺が嫌いにしかなれなれないみたいだ。


 大会の賞金を貰った。しばらくはそれで食うには困らなそうだった。

だが、あの場にいた50数名の魔物たちの命を考えれば高いなんてことは言えない。

それでも、生きていたいから、今日も生きる。


 たとえ、生きる意味なんてなくても。


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「・・・・・・」

朝焼けに照らされながら、ローブを着た三鶴は隠れながら街を歩く。

もう、この世界に来てから体感で3か月は経っている。

幸いなことに、身元の証明はちょっとした経費を払えば用意できたのだ。

それで、今は荷物運びの仕事をしているのだが、

今日は別の要件でこの街を歩き回っていた。

「ネルは、どこにいるんだ? 」

最初に自分が寝かせてもらっていた家は見つかったが、肝心の少女に会えないでいる。

生活もある程度は安定してきたから、あの時の礼をしに来たのに。

三鶴は目の前の「ネル」の家の前で、立ち尽くしていた。

それにしても、

「この家・・・・・・、あいつが一人で住んでたんだよな? 」

まるで、家族が三人くらいで暮らしていそうな一般家庭の家みたいだ。

街の外れに建てられていたが、誰が建てたんだろう?

まさか、あの少女が? いや、ありえないか。

また、あの笑顔を見たかったんだけどな。

なぜだか、ネルと話していたときの記憶が脳裏から離れてくれないのだ。

少しだけしか話さなかった上に、ネルが一方的に話しかけて「くれた」だけの時間

が、不思議と三鶴の小さなころの僅かばかりの「楽しい思い出」と重なっている。


 俺は、お前みたいな笑い方、いつかできるようになるのかな。

三鶴は今ここにいない魔物の少女に、笑みをこぼした。










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