第2話さまよう男と・・・・

  拝啓、いかがお過ごしでしょうか?

 ひたすら弱い者いじめばかりやっていたサトシくん。

 親が金持ちで、いつも威張ってたクニツカくん。

 未だに中二病全開の、ハルトくん。

 そして、中学の時好きだったカエデちゃん。

 俺はあれからいろいろあって、

 魔物になってしまったぜ、こんにゃろー。


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「……な、ん、で ?」


 俺は鏡に映った化け物、「自分」を見た。

 ヒト型の体に鋭くとがった耳や爪。犬歯は獲物を喰らうためだけに存在するか

 のごとく、禍々しいほど発達している。

 だが、自分であることはギリギリ識別できた。

 背丈は、変わらないようだ。平均。

 俺の後ろでずっと楽しそうに笑っている少女は頭の後ろで手を組んで、


「いやーー、嬉しいぜ!こんなとこに遊びに来る奴がいたなんてなあ!!! 」


 ガハハハッと笑いながら姿勢を正して、自分の名前を言った。


「アタシは『ネル』だ。よろしくな、クソヤロー」

「あ、ああ、よろしく俺は……ってそうじゃねえ!! 」

「うおっ!?急に大声出すんじゃねえよ、どうした!」


 耳に指を入れてネルと名乗った少女が抗議する。


「なんで、俺はここにいるんだ?ってかどうして」


 俺が自分の体が手当てされていることに気づいた。

 全身に包帯のようなものが巻かれている。

「んーー? 変だな、あんた。まさか『欠落者』じゃねえだろうなあ……?

 いや、んな天文学的なことあるわけねえけどさ。」

 欠落者…?

「いいか、あんたはなあ、ここのちょうど手前にあるワームの洞窟って場所で倒れ てた。運がよかったよ。あのまま放置してりゃ今頃は魔獣どもの糞だぜ。」

 ま、いいか。とネルは俺の腕をとって、

「とりあえず、街まで行こうぜ? 魔境石使ったから生命力は元通りだし。

 あ、あんたが着てた変なのならそこにあるから。」

 ケケケと笑ってネルは俺を町まで連れて行った。


  街は、活気に人と物が行きかっていた。

 街を通る人は例外なく、人間にはない動物のような特徴があった。

 猫、犬、トカゲ、鳥、豚、そしてもちろん俺のように「人間」の姿をした

 人々。皆、「これ」を当たり前に過ごしていることがみたら分かる。

 肩身が狭い。

 前を歩くネルは俺より頭一つ分小さかった。

「なあ、ネル……どこへ行くんだ?」

「ひ・み・つ」

「……なあ、どこに行くんだ?」

「ひ・み・つ」

「……どこ行ってんの。」

「ひ・み・つ!」

 にぱっと笑う。

 それしかいえねえのか!!と思ったが、自分を助けてくれたことは確かなようだ

 から、胸に抑えておく。

 それにしても、なんでネルは俺を拾ってくれたのだろうか。

 こんな意味の分からない世界で。

 助けてくれたのは、なんでなんだろう?


  しばらく歩いていくと一際大きな建物が見えた。

 まるで城だ。

 レンガ造りのかなり格式の高い家のようだった。

「ここ」

「……」

「ここが、元々のあたしの家」

「は」

「ここでずっと過ごしてた。」

 目を懐かしそうに細めながらネルは呟いていた。

 彼女の目が、なんだかすごく寂しそうなものを抱えているように

 感じて俺は目をそらせなかった。

 

「一度みてほしくてさ。大事な場所なんだ、ここ……」

ここがこいつの家?じゃあ、あの家はなんなんだ。

「ま、いいや。」

カラッと笑ってネルは、

「急に連れてきて悪かったな。一人で来るには、ちょっとばかし

 心細くてな。あんたなんも知らなそうだから。」

少しだけ間をおいて、

「……あんた、『ネフィリム』って知ってるか」

「……いや、わからねえ。」

ケケケとネルが笑って言った。

「そりゃあ、よかった」

 そのあとギルドという場所に行った。

ネルによれば、ここで職業をあてがってもらえるらしい。

特に「あんたは図体でかいから力仕事してもいいな」なんてことを言われた。

流れるままにここで暮らすことになりそうだが、とにかく

働かないと生きてはいけないのはこれまでの人生からとっくに

学習していた三鶴はとりあえず仕事をすることに決めた。

ネルとはここで別れて(世話になりすぎている)、

「じゃあ、なんか困ったことが有ったらウチに寄んなよ。

 飯くらいは食わせてやるぜ。約束してやんよ。」

「ああ、ありがとうな。俺なんかのために。」

「いんだよ、そんな言葉はよお。」

ネルは殊更に笑顔を作って

「また、会おうぜ。」

と言った。


♢♢♢


嬉しかった。

誰かの助けになれたんだよな?

「ありがとう」ってそういう意味だよな?

これで、母さんもあたしのコトを許してくれるかな。

また、あたしと会ってくれるのかな……。


街を歩いていると、ぎゃはははは!!!!!っていう笑い声が聞こえた。

路地裏から聞こえる。おそらくはまた、「あいつら」だろう。

小綺麗な格好をした、育ちのよさそうな女性が小汚い男どもに囲まれている。

「けへへ、その服、売ったら結構な額になりそうだなあ、、5000ノアくらい  か? へへへそれくらいありゃあ三日は困らねえ。」

「や、やめてください。困ります。私はこれから行かなきゃいけない場所があるん です。どうか見逃してください。ああ、今手持ちで600ノアあります。

 これで見逃してください、お願いしますから」

「お前、馬鹿か」

一際背のでかいリーダー格らしい男が女性の胸倉をつかんだ。

「目の前にお宝があんのに、てえ出さねえ奴がどこにいるんだよ !」

女性は今にも泣きそうになっていた。


 ネルは叫んだ。

「キキャああアああああアああああああああああああッ!!!!!!!」

汚れた路地裏に轟音がとどろいた。

単純な音によって、当たりの地面や壁がひび割れる。

当然のように、男たちは鼓膜をつぶされた。

「ぎゃあああ!!」

小汚い男たちはのたうち回って耳を抑えている。

しかし、女性は音の範囲にいたはずなのに、「無傷」だった。

「・・・・・え?」

女性はおろおろして何がおこったのかわからないようだ。

ふん。

アタシは倒れた男どもを踏みながら女性に近寄り、

えへへと笑って言った。


「その600ノア、あたしにチョーだい!!」














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