第31話命の唄

 どうしては、こんなことをしているんだろう。

脳裏に疑問が浮かんだ。

ずっとずっと、ことあるごとに、自分を苦しめてきた、生きづらくしてきた疑問。 

 これまでの人生、どんなことを望んでいただろうか。

……。もう、人間だった頃の記憶が曖昧だ。

何があったんだろうか、昔の自分には。


何かがあったことは分かっている。だが、それが果たしてどんな感情を抱くものだったのかまでは、思い浮かばない。

 

 一体、虐げられていたころの自分は、

 どんな結末を望んでいたのだろうか。


……分からない。思い出せない、もう何も。


 ああ。

 あまりに、あまりに、意識が薄い。


 おれは、他人のことを、大事に、出来たのかなあ。


 『……キミは、何も知らないみたいですねえ?』

……? 誰だ? そこにいるのは。

 『ネフィリムでもあるまいし、キミは世界でも救うつもりなのかい?

遠くを見すぎだよ。依り代』

 

 違う。遠くなんかじゃ、ない。俺はただ、諦められないんだよ。

 『何を諦められないっていうんだい?』


 そんなの、決まっている。

 俺は、……あれ? 

可笑しいな……うまく思い出せない。……あれ!?

俺って、何をしようと……?


 『昔の君は、もっと強かったよ』

ため息をつくように、そいつは言った。


 俺は、何のために生きているんだ?


すると、そいつは、しょうがないなぁとばかりに、

俺を、そそのかす。


『         』


…………、そりゃあ、良い、答え、だ。

俺は意識の中で、ゆっくりとそいつに歩む。


『こっちに、おいで』

そういったそいつは笑っていた。

 


 ♦♢♦♢

 嬉々として、堕天使は世界を壊す。

 ネルと対話していないほうの、現実の堕天使の姿である。

もはや、には意識というものが欠けていた。

ただひたすらに破壊を繰り返している。

あたかも、自らが裁きを与えているのだと言わんばかりに。


「?」

ミカエルは思う。

『悪意』というものはそもそも理不尽性そのものを力としたものだ。

本来ならば、肯定的な感情を持つ者、もしくは、

人間に対して、『心を侵食する』ために作られた厄災の一つ。


であるから、それらを超越した存在である堕天使の攻撃など、

長く耐えることはできないはずなのだ。

それなのに、自分の攻撃がほとんど通らない。

影が、これほど強いものであるはずが無いというのに。


光の矢を止め、ミカエルは欠落者を見る。


時間の経過とともに煙が晴れる。

視界に飛び込んできた、一人のを確認するとともに、、

彼は、本当に不思議そうな顔で、首を傾げた。


「……なぜ、お前が来るのだ?……


何故か、本当に何故か。

天使の目の前にいたのは、

翼もなく。

怪物でもなく。

不死でもなく。

魔物でさえない。


一人の、人間にそっくりな、


「  」


邪気たっぷりに笑った、

がいた。



 









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