第28話物部三鶴
魔物たちの王国にて。絶望は蠢く。
『ねえ、あなたのしあわせをうばわせて?』
そう言った黒い化け物は、ライネルの顔を覗き込んだ。
思考が恐怖で停止したかのように思えた彼だが、不思議と、
『少し前』の出来事を思い出していた。
『弱いなんて言葉を使うんじゃねえ!!』
「どこかで、会ったことがありますか?」
ライネルの口から出たのはそんな言葉だった。
『…………それはわたしじゃない』
黒い化け物は、そう言うと、黒い掌を彼の頬にピタ、とつけた。
『こわくはないのかしら?』
「……あなたの、その、雰囲気、は。
僕を助けてくれた人に、似ているから。」
『……へ、、え、。』
化け物は首をかしげるようなしぐさをして、何かを考えている。
『…………ひかり、が、あ、る、の、、ねえ、、?』
黒い化け物は、急にそんなことを呟いた。
「ひかり?」
『………あな、、たは、ころ、せな、いみた、いね』
何を言っているのだろう?
『……じゃあ、せい、ぜい、それを、大事にしていなさい。
……それを忘れて、しまった、誰かさんのために』
化け物がそんなことを言っていると、
パキュン。パキュン。パキュン。
誰かがまた、銃を撃ったようだ。
化け物に向かって。
見ると、撃たれた場所からはちゃんと赤い血のようなものが流れていた。
痛いのではないのだろうか?
ライネルは、尋ねる。
「あなたは、、誰なんですか?」
すると、彼女はニタっと笑って、
口だけ動かした。
誰でもないわ
ブワっと、竜巻のような風が吹きおこる。
化け物を包む風を浴びながら、魔物たちは歓喜する。
「効いているぞ!! ぶっ殺せ!!」
リーダー格の魔物がそう叫ぶと、兵士が集まって向かってくる。
『あのこたちをまたないといけないのに、』
彼女の瞳が大きく歪む。
『……じゃまがはいってきたみたいねえ?』
そして、彼女はゆっくりと体の向きを変え、
空を見た。
「え」
空から来た翼に、王国中の狂った魔物たちが串刺しにされる。
化け物の胸も、大きな翼で貫かれた。
空から来たそれはとても冷たい眼で地上に降りた。
「……ふむ。茶番はもう終わったのか? ニンゲン」
化け物は、目を血走らせて、
『ミ、カ、、エ、、ル、ゥ……!!』
すると、その天使は、
「目的は果たせていないのではないか? 出来なかったわけでもなかっただろう?
……なあ、ニンゲン。お前、わざと負けたな?」
『なん、の、こと?』
「とぼけるな。……結局のところ、お前も創造主の作った匣の中にいたということだな……」
天使はつまらなそうに、愚痴をこぼす。
「がっかりだよ。これでは。」
彼はそのきれいな右手を彼女にかざして、
「何のためにお前を殺したのかわからないではないか」
ぎゅっと、握りしめた。
化け物の左腕が、ぐにゃりと曲がる。
『グぬ』
化け物は顔をしかめる。
「やはり、ネフィリムを利用する方が効率が良いな。」
握りしめた拳を回転させて、
曲げた腕を引きちぎった。
『ギャがあ!!』
化け物は腕の付け根をもう片方の腕で抑える。
「災厄の力を授けてやってもまだなお、倒せぬような相手ではないだろう?」
そう言い切ると、天使は目を細め、
「あの、悪魔に憑かれていた、お前の子供。欠落者は、ハハハ!」
天使は嘲笑う。
「よっぽど、会いたかったのだろうなあ? まさか私も、
自分で自分の子供を、人間の道から外れさせるとはおもいもしなかったぞ!」
『……おか、、し、い、か、しら?』
化け物は、自嘲しながら天使に敵意を向ける。
「ああ! 可笑しいともさ!! 」
天使は今度は化け物の右足をぐにゃりと曲げた。」
化け物は立ちあがれなくなって、跪く。
「無様だよ。本当に!!」
同じように、右足も引きちぎる。
『があぐ』
「人間を動かすことができるのは人間でしかないからな、お前の咎を、
息子に背負わせるか。なあ、ツムギとやら!」
天使は昂る。
だんだんと、彼の翼が黒くなっていく。
『い、や、、よ。もうすこし、待たないと、まだ、伝え、たいことが、たくさん、あるのに……、』
もう少し、生きていたいのに。
化け
「もう、お前に生きる価値はないよ」
そう言うと、彼は彼女の心臓を、掴み、
「待て!!!」
ライネルの声に動きを止められた。
「……ほう? 私の前で口を動かすことのできる魔物がいたか」
天使は不思議そうに少年を見つめる。
少年は、この日初めて、自分の考えを外に発した。
「そんな、ふうに!、、命の終わり方を、他人が決めていいはずがないだろ!!」
ライネルは叫んだ。
すると、彼の視界から天使の姿が消え、
「……!! か、、っは」
自分の首が絞められていることに、数秒遅れて気づいた。
「私に指図するか、魔物よ。」
「な、、に、を言おうと、僕の、考え方は、 変わらない。」
「ああ、そうか。じゃあ消えろ。」
天使は腕に力を込める。
ライネルの呼吸が、かすかになり始める。
ゆっくりと意識が遠のいていく。
「……」ライネルは消えかかった意識の中で、
自分の首を絞める天使の後ろに、
一人の大柄な魔物がいることに気が付いた。
良く知った男の顔だった。
「おい」
天使は、後ろの声に目を見開き、咄嗟に後ろを見た。
だが、
彼の拳が、辺りの風を巻き込みながら、
「が……!」
天使の頭部を、体を、吹き飛ばした。
「ミツ、、ル、さ、、ん……」
目の前にいた、その男は。
見たことが無いほどに怒っていた。
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