ちょっとずれてる兄妹(台本形式の番外編)
妹「ねー、兄貴」
兄「……なんだ?」
妹「前から気になってたんだけど、兄貴の好きなタイプって、どんな女性?」
兄「……突然何を聞いてくるのかと思ったら……」
妹「んー、だって兄貴って、そういうこと全然みんなの前で言わないじゃない」
兄「そりゃ、聞かれてないことに答える必要はないだろ」
妹「じゃ、わたしが聞いたから答える必要あるよね! さあさあゲロしなさい」
兄「おまえは取り調べ中の刑事か」
妹「まあまあカツ丼食えよ」
兄「……って、本当に晩飯にカツ丼かよ」
妹「お昼のヒレカツ残ってたからねー、作ってみた。お父さんもお母さんも帰りが遅くなるみたいだから、先に食べちゃおーよ」
兄「……ああ」
妹「はい、お吸い物もどうぞ。で、食べ終わったら、好みのタイプをゲロすること」
兄「……涙ながらにカツ丼食わなきゃだめなヤツじゃねえか」
妹「……妹刑事の人情にホロッときて?」
兄「どこに人情あんだよ」
妹「愛情ならたくさんあるけどねー」
兄「…………」
妹「そこで黙られると対処に困るんだけど」
兄「……カツ丼、いただきます」
妹「はい。わたしもいただきます」
兄「……もぐもぐ」
妹「……ガツガツ」
兄「おまえの食べる音の効果音がおかしい」
妹「丼ものって、かきこむのが食べる上での醍醐味じゃない?」
兄「……おまえのそのオッサンじみた思考回路って、誰から受け継いだんだろうな」
妹「……? たぶん、お笑い芸人の影響かな?」
兄「おまえ、金輪際お笑い見るの禁止」
妹「えー? わたしの人生の三割分、なくなっちゃうんだけど」
兄「また古いネタを……これを読んでる人、たぶん全員忘れてるぞ」
妹「兄貴? 誰に向かって言ってるの?」
兄「気にするなひとりごとだ。……まあつまり、おまえが下品なのはそのせいなら、人生の三割無駄にしてもいいと思うぞ、俺は」
妹「……じゃ、その空いた三割を、兄貴が穴埋めしてよ」
兄「あん?」
妹「そうすれば、わたしの中で兄貴の占める分が、見事四割になるから。やったね、首位打者狙えるよ!」
兄「野球じゃねえぞ。第一、穴埋めって何するんだよ」
妹「何するって……ナニじゃない?」
兄「……あ?」
妹「穴埋めなんだから、わたしの穴を兄貴の棒で穴埋め」
スコーン。
兄「バカ言ってんなこの発情期。箸投げるぞ」
妹「……投げてから言わないで。いいじゃん、言うだけで無害なんだから」
兄「無害だったことがいまだかつてないように思うのは気のせいか?」
妹「有害になるまでは無害だよ、きっと」
兄「……箸じゃなくて、匙投げたくなってきたわ」
妹「難しくてわかんない。って、箸投げちゃったら食べれないじゃん」
兄「……あ」
妹「……もう仕方ないなあ。ほら、あーん」
兄「……あ?」
妹「食べられないなら、食べさせてあげる。ほら、あーん」
兄「…………」
妹「もー。ほら、えいっ」
兄「むぐっ」
妹「……おいしいでしょ? 妹エキス入りカツ丼」
兄「妹エキスは調味料か」
妹「兄貴限定ならそうかも。あまーいあまーい」
兄「……体に悪そうな甘味料だな」
妹「ふふふ、そうかもね。一度食べるとクセになっちゃうから。中毒性あるよー」
兄「…………」
妹「……ね、兄貴。もっと妹エキス……味わってみたくない?」
兄「……断る」
妹「ズコッ」
ガシャーン!
兄「うわっ!」
妹「……もー、兄貴、そこは『俺の兄エキスをおまえの中に……』って展開になるところでしょー!」
兄「……可哀想に、ついに頭まで膿んだか妹よ。つかお吸い物がこぼれてビタビタなんだが……熱くなくてよかった」
妹「あ、ご、ごめん。風呂は沸いてるから、入ってきたら?」
兄「……そうするわ。松茸くせえ」
トタトタトタ。ガラッ。
兄「うわ、パンツまでビショビショだわ。仕方ないか」
〜〜〜 兄の入浴シーン略 〜〜〜
兄「ふー、とりあえずさっぱりした。……あ、替えのパンツ持ってきてねえや。ま、バスタオル巻いて取りに行きゃいいか」
ガラッ。
妹「あ、兄貴の着替えを持ってき……」
ドンッ!
ハラリ。
※ 何が起きたかはお察しください ※
妹「……っっっ!!!」
兄「…………あ」
妹「…………き、きゃーーーー!!!!」
バタバタバタ。
兄「……叫ぶのは俺の方じゃないのか……ま、いっか。別に減るもんじゃないし。しかし……いろいろ挑発してきても、見ただけで逃げかよ。しょせんは妹か」
兄「………………」
兄「……そう言えば、好きなタイプの話は、どうなったんだ? オードリー・ヘップバーンと素直に言っとけばよかったか……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
妹「…………見、見ちゃった……もろに。……どうしよう、あんなのがわたしの中に入ってきたら、お兄ちゃんがわたしの十割になっちゃうよ…………六割どころじゃない」
妹「………………」
妹「悪くない、カモ」
妹「……あ。好きなタイプを聞くの忘れてた。……まあいいや。たぶんわたしよね。オードリー・ヘップバーンよりわたしを妹として選んでくれたし……うふっ」
〜〜〜 番外編 完 〜〜〜
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