妹と水着でお風呂

 ……なんで俺は真っ昼間から、海パン姿で妹と水風呂入ってるんだろう。不思議だ。


「せっかく水着買ったんだから、一回くらいは使わないとねー」

「……二人で入るのは狭くないか?」

「まあまあいいじゃない。たまにはさ」

「……ま、いっか」


 俺は考えるのをやめた。流れとは恐ろしい。

 まあ、今日も暑いし、涼むつもりならちょうどいいかもしれない。


「……この水着は、みんなの前では着ないことにする。刺激強いみたいだし」

「刺激的すぎると、自分で思わなかったのか…せっかく買ったのに、もったいないといえばもったいないな」

「んー、というより、兄貴に見てもらえて、満足したって感じ」

「……わけわかんね」

「わたしも」


 浴室に笑い声がこだまする。


「もう、この水着を夏の部屋着にしちゃおっかなー、って」

「……もし宅配便が来ても絶対出るなよ、その格好では」

「うん。上にシャツくらいは羽織るよ」


 それはそれで需要ありそうな気がする。なんかこわい。


「……ところで、白い水着って、濡れて透けたりしないのか?」


 この際、疑問に思ったことを聞いてみることにした。


「そんなこと心配してたの?最近の白水着は透けたりしないよー。ほら」


 そう答えるや否や、妹は身を沈めていた浴槽で立ち上がった。


 俺の目の前にデルタ地帯が出現。兄でよかった、兄じゃなかったら鼻血出てるかもしれない。

 ……いいにおいがしそうだな。いや嗅いでないけど。兄としての矜持を持たねば。こんなときこそ素数を数えろ。2、3、4……無理だ。


「……ね?透けてないでしょ?」

「……………知らねえ」


 直視できるかバカ野郎。目だけ横にずらしちまうじゃねえか。


「んふふ。でも透けても大丈夫なように、上はバンソーコ貼って、下は全部剃ってつるつるだから問題ないよ」

「ぶふぉっ!」

「ひゃん!」


 思い切り吹いた。目の前にいる妹の水着に飛んだ。ある意味けしからん行為になってしまった。

 ……意図的じゃないからセーフにして、神様お願い。


「もー、びっくりしたよ」

「……そんなことまでしてるのか」

「乙女のタシナミでーす。…………ね、つるつるなとこ、確認したい?…こっちもお披露目、しよっか?」


 妹は小悪魔っぽくそう言い、俺の目の前に立ったまま、水着のボトムにあるサイドのヒモに手をかけて引っ張る準備をした。


 こいつは…兄をからかって何が楽しいのか。逆襲してやる。これは戦いだ。


「…………じゃあ、見せてみろ」

「え」


 予想だにしなかった俺の言葉に、今度は妹が固まった。タイマン開始。先に口を開いた方が負け。


「…………………………………」

「…………………………………」


 水風呂なはずなのに、サウナで我慢大会してる気分だ。汗まで出てきたぞ。


「…………………………………」

「…………………ごめんなさい。ムリ」


 薄氷を踏む思いだったが、勝利だ。沈没しないでよかった。

 妹は突然恥ずかしくなったのか、勢いよくザバンと浴槽に全身を沈めた。


「なら最初から言うな」

「自分から全部見せるのは、たとえ兄貴でもすっごい恥ずかしい…」

「水着姿を自分から見せるのは平気なのか」

「あ、それは平気。兄貴だし」


 即答かよ。たかが布一枚、されど布一枚。最後の砦は、兄が思うより防御力が高いのだな。


「……違いがわからん」

「じゃあさ、兄貴はどうなの。パンイチなら平気だけど、全裸は恥ずかしい、とかはない?」

「……ふむ」

「でさ、自分からパンツずり下げて、『ほーら見てごらん!』とか、やれる?」

「……わかりやすい例えをありがとう」


 なるほど。そこに快感を感じると、春に多発する変質者になるのか。俺もこいつもノーマルだということが判明したな。


「…………………」

「…………………」

「…………でもね」


 お互いに何やら思うところがあったような沈黙を経て、妹が浴槽から再度立ち上がった。今度はゆっくりと。


「……自分からじゃなくて、他の人に剥ぎ取られて見られちゃうなら、あきらめつくかもしれないよ……?」


 妹は、ちょっと色っぽくそう言いながら俺の左手を取り、それを自分の水着のヒモに導いた。


「おまえ、何を……」

「……ね、もしお兄ちゃんが見たいと思うなら……その手で、引っ張ってみて……」


 なんだ。おまえは何を言っているんだ。ミルコ・クロコップになった気分だ。

 いや違うそうじゃない。その言葉の意味はなんだ。


 俺はなぜ…………ドキドキしているんだ。


「……ばかやろう。兄妹でそんなこと、するかよ」

「あっ」


 俺は妹の手を振り払い、そのままザバっと立ち上がって、妹を置き去りにしたまま浴室から出た。

 それが俺の精一杯だった。俺はいったい、何を考えればいい。それすらもわからないほど混乱していたのだ。



 あいつは………………妹だぞ。

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