#2 遠くに行きたい - ある日のやりとり
「学校サボって遠くに行きたいかもしれない」
「は? 行けばいいでしょ。いま休みだけど」
「そうじゃないんだよなぁ……私はサボりたいのは高校なんだ……」
「高校生に戻りたいって?」
「まあ、そういう気持ちもなくはない……かな。朝なんとなく憂鬱で、いつもと逆の普通電車に飛び乗って2時間くらい揺られて、知らない駅で降りてあてもなく彷徨ったり浜辺でぼんやり海を眺めたりするの」
「出た、シチュエーション先行エモ」
「なんて言い方するんだ……」
「この上なく的確でしょ、さとの好み」
「だってさあ、よくない? 人気のない住宅地を呆然と歩いて、世界に自分ひとりしかいない気分になって、でもお昼のワイドショーの音声が漏れ聞こえてちょっと安心したり、お腹が空いたけどお弁当を食べるには人目が気になって仕方なかったり、制服姿だから『こんな時間になにしてるんだ』って責められるのが怖くて必要以上に人を警戒したり――」
「ふーん」
「対応がしょっぱい……」
「他人の妄想語りなんて塩対応する以外にないでしょ」
「わかんないかあ……。でもせめて、学校行くのだるいとか、責任とかいろいろ全部投げ出して遠くに行きたいとか、そういうこと思ったことない?」
「……まあ、正直言うとね」
「ある?」
「……っていうか、したことある。学校サボって遠くに行くの」
「え、まじ? その話聞かせてよ」
「うざ……。朝出かけて、特急乗って稚内行って、お昼食べて、特急乗って帰った」
「……それだけ?」
「だけ。稚内って遠いもの。特急でも往復で7時間以上かかるの」
「うわあ……。えるって実家どこだっけ。札幌?」
「旭川。札幌からだと片道5時間くらいじゃない?」
「旭川か。5時間あれば東京からなら博多までいけちゃうねえ……でっかいどうだ」
「距離はそれより近いけどね」
「北海道はひと月くらいかけてゆっくり旅したいなあ……。あれ、待って、それだけ遠いんなら運賃もけっこうするんじゃないの?」
「旭川から稚内なら、特急券込みで8000円といくらか」
「たっか……ブルジョワジーじゃん……高校生の財力じゃない……。全然エモくなくなっちゃったな……」
「なんかムカつく……」
さととえる 旅と日常の記録 ツリチヨ @Tsurichiyo
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