#3.5 さとだけ - 叡電沿線北上記
1.河合神社
ふいに風が吹くと、足先や指先にちくりと寒さを感じる。今日は痛いくらいに寒い。その痛みがじんと体の奥底に沁みていく。どうしてこんな日に出かけてしまったんだってちょっとの後悔を、白い息に変えて吐き出した。
遠出をすればいつも傍らにいる“える”ことエルフィンストーン・
ふたりでなら鴨川デルタをぶらついてくだらない話に花を咲かせたりもしたんだろうけど、ひとりで歩いたって寂しくなるだけ。
*
糺の森の一角を四角く囲んだ境内は小さな箱庭みたいだった。糺の森自体に外界と隔絶した雰囲気があるけど、さらに囲われた神域となるとその感覚は一層深まる。
この神社には「
ひとの絵馬を覗き見るなんて行儀の悪いことやるべきじゃないってわかってはいるんだけど、好奇心がついつい目線をそちらへ動かしてしまう。メイクの上手い下手よりも画力が出るね……。
私は描かなかった。人並みよりは絵が描けるつもりだし、もっと顔がよければと思わないこともないけど、それ以前に自分を描くという行為が苦手だった。その原因を辿れば、それは自分と向き合うってことのしんどさだ。十把一絡げにしてしまう言い方だけど、オタクはみんなそうだと思う。自撮りとか絶対しないでしょ?
本殿の前には参拝の作法を記した木札が立っていた。いわく、「皇室の
「みんな幸せでいられますように」って毒にも薬にもならないお願いをして、もう少し境内を見て回ろうと思ったら、傍らの立て看板が目に入った。「神さまはどこから拝んでもお見通しなのです」。
……私の不埒な考えも見透かされてた?
ちょっと冷や汗が出た。でも、よくよく考えてみると神さまはどこにだっているわけで、だったら神社の境内でだけ取り繕ったって意味がない。家庭訪問のときの居間みたいにはいかないんだ。じゃあいいか。ってよくないよ。
ちなみに、河合神社には玉依姫命だけでなく幾柱もの神さまが祀られている。
たとえば、
それから、
きふね、といえば鞍馬のほうにある貴船神社が有名だけど……いいな。行ってみようかな。京都は石を投げれば神社仏閣にあたるような場所だと思って(もちろん実際には投げないよ!)、今日は特に行先も決めていないのだ。
ところで、この神社は随筆『方丈記』で有名な
立て札に書かれた解説によれば、なんでも鴨長明は下鴨神社の
それならどうして下鴨神社じゃなくて河合神社のほうに方丈庵を展示するんだろうと思って調べてみたら、長明は河合神社の禰宜になろうとして出世争いに負け、神職の道を閉ざされたらしい。イヤなゆかりだなあ……こりゃ無常観もつのるわけだ。
*
最後に御朱印をいただいて、糺の森の表参道に出た。止んでいた雪がまた降り始めて、朝の光を浴びてきらきら光っていた。
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