12.ねえ、美少女になりたくない? - まぼろし博覧会①

 135号線を山のほうへと入ってしばらくすると、バスの車窓から奇妙なものが見えた。生半可な動体視力ではその情報量を捉えきれないので、必然的に二度見することになる。「なにあれ……なにあれ!?」って。

 そこが本日最初に訪れる博物館。知る人ぞ知る、伊東きっての珍スポット。

 その名も、まぼろし博覧会。


 メインゲートのまぼろし門をくぐって、少し歩いたところが券売所。

 ……なんだけど、そこまでの通路にはすでにいくつもの奇妙な展示物(なのか?)が立ち並んでいる。それはお社だったり、恐竜だったり、看板娘(マネキン)だったり。

 ここはいったいなんなの? まだチケットすら買っていないのに、自分の抱えている感情が期待なのか不安なのか戸惑いなのか、それとももっと別のなにかか、わからなくなってしまう。

 この先にはいったいなにがあるっていうんだ。


「ねえ、美少女になりたくない?」


 エルフィンストーンさんが食いついたのは、セーラー服のボディペイントが施されたゴリラの等身大フィギュアが祀られた祠だった。その名も「美少女神社」。私はなにを言ってるんだ? でもこれが本当なんだから仕方ない。

 ゴリラはどうやら「美少女はより美しく、そうでない方もそれなりに」と謳われるこの祠のご神体みたいだ。ツッコミを入れようにも、そのとっかかりが多すぎてどこからツッコめばいいのかわからない。

 それにしても、拝んでいるエルフィンストーンさんはこれ以上美少女になってどうするつもりなんだろう。

 私も拝んだ。



          *



 まぼろし博覧会は閉園した植物園の広大な土地を利用しているそうで、今なお拡大中だという。

 現在は大きく分けて3つの展示スペースが用意されている。私たちはまず、植物園の温室をそのまま利用したという展示スペースへ向かった。


「おおう……」


 思わず声が漏れた。

 そこには、『混沌』という言葉の用例として辞書に載せてほしくなるような光景が広がっていた。


 植物園の温室をそのまま利用した、というのは本当にそのままという意味だ。展示物を設置するために多少手を加えた箇所はあるにしても、ほとんどは植物園として営業していた時代の面影を残している。

 なにせ植物園時代から植わっているであろう草木があちこちに生い茂っている。それが数々の展示物に覆いかぶさったり絡みついたりしている。


 呪詛を唱える僧侶のマネキン、ロックバンドがライブのセットとして制作したのちに寄贈したという仁王像、聖徳太子の大仏、京雛、よくわからない数々のミイラ、古代遺跡のジオラマ、エジプトの神像、芸術家が作ったらしい亜人のドール、他にも説明難しいやついっぱい。

 手あたり次第に挙げてみたけれど、これでも全体の半分にも満たない。

 意味も脈絡も不明だけれど、実際、そんなものはなくって、世界中のどこかのだれかの「好き」を手あたり次第に集めまくって詰め込んだみたいだった。


「枯れ葉が散ってる……」


 ストーンヘンジのジオラマには、すぐそばの木から舞い散った葉っぱが散乱していた。ストーンヘンジは実は宇宙人に向けたサインで、それに反応した宇宙人が葉っぱ型のUFOを駆ってやってきた様子に見え……ないな。妙な妄想をさせられてしまった。


「ここ、基本的に展示物の修繕はしない方針らしいのよ」


 と、エルフィンストーンさんは言った。


「マイナスをゼロにするよりも、その労力を使って新しい面白いものを作りたいんだって」

「それはまた……割り切った考えだねぇ」


 博物館や美術館は蒐集した展示物や資料を修繕しながら展示するものだけれど、その点でここは一線を画するのかもしれない。……というより、そういう施設と同列に考えてしまうのがナンセンスなのかも。

 きっとここは根っからのテーマパークなのだ。この混沌を束縛できるテーマがなんなのかはわからないけれど。


「誰もが楽しめる空間にするために、矢継ぎ早に新しいことをやりたいんでしょうね」


 万人受けするコンテンツなんてこの世にはひとつもないけれど、少なくとも誰かひとりの琴線に触れる。ありとあらゆるものに手を出し続ければ、いずれは万人を楽しませる空間が生み出せるかもしれない。

 ……ってのは、さすがに暴論かもしれないけどね。と、エルフィンストーンさんは話を締めた。


「それにしても、ここだけで結構胃もたれするわね」

「でもまだあと2か所あるよ」

「あは、素敵だわ」

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