第26話作戦会議

大広間には、時昌をいれた八人が集まった。テーブルは円卓である。テーブルには菓子や果物、数種類の飲み物が並べられていた。

せんべいをひとつ手に取り、バリバリとコバヤシ少女はそれを食べていた。

生きることをもっとも優先する。そんな食べ方であった。

「いやいや、皆さんお集まりだね」

かろやかな笑みを浮かべ、時昌は言った。

「作戦会議と言ったがどのような案があるというのだ」

難しい顔で小野寺はきいた。その横で明智はニヤニヤとその様子を眺めていた。

「そうですね、でも、その前に戦力の増強を計りたいと思います。夢子、まずはあれを持ってきなさい」

時昌がそういうと夢子はかなり巨大なつづらをテーブルの上にどんとおいた。

かなりの大きさだ。

横に一メートル強はあるだろう。

これを蔵から持ち出すのに夢子はかなり苦労させられた。

「さあ、開けてください」

そう時昌がうながすので、小野寺はつづらの蓋をゆっくりと開けた。

中には癖がつよく短い髪の人形が横わたっていた。分厚いくちびると二重の大きな瞳。黄色い肌をしている。あらゆる人種の混血児のような印象をうける。

人形の姿を見、時昌と夢子いがいの全員が身構えた。

「ご安心ください。これはゼペットがつくった人形ではございません。彼らは魔術によってつくられたものたちですが、この人形は違います。科学によってつくられたものです」

と時昌は言った。

「どう違うというのだ」

司はきく。

「あら、司くん興味あるの」

「いいから、説明してくれ」

「わかったわよ。夢子おねがいね」

すこし、あきれた顔で、

「はい、かしこまりました」

ちらりと夢子はまるで眠っているかのような人形をみる。

「この人形の名は学天即といいます。西村真琴博士が世界平和の理念のもとつくりあげたものです。博士はこの人形のことをロボットといっていました。ニコラ・テスラが提唱した情報制御装置を搭載した世界初のロボットです。皇太子殿下に献上される予定でしたが、誰も操縦することができずに献上は見送られました。実際に献上されたのはもっと簡素化されたものです」

一息に夢子は説明した。

「難しいとは……」

小野寺がきく。

「それは……」

つづらの中から小型のタイプライターのようなものを取り出し、

「学天即のすべての動作はこのタイプライターに打ち込んで操作します。複雑な人間の動作を言葉にかえて打ち込むのは至難の技です」

夢子は言った。

あごをひとつなでるとタイプライターを受けとり、小野寺はカチャカチャとそれを打ち出した。

学天即がむくりとおきあがる。つづらから飛び出ると静かに床に着地する。右腕を腹にあてると一礼した。

全員がおおっと感嘆の声をもらした。

「凄い、学天即が人間のように動いている」

驚愕の声を夢子は発した。

「やはり、あなたなら使いこなせると思ったわ」

微笑をうかべ、時昌は言う。

「ああ、これは面白い。すこし時間をもらえれば戦闘に使用できるよう使いこなしてみせる」

少年のような顔で小野寺は言った。

「どうぞ、どうぞ」

時昌がそう言った後、小野寺は学天即と共に大広間を出た。


「次は滝沢のお兄さんね。折れたサーベルでは心もとないでしょう。夢子、例のものを」

時昌は夢子に指図する。

「はい、お師匠さま」

そう言うと夢子はひとふりのサーベルを滝沢に差し出した。かなり古いものだ。柄の部分にキラキラとしたサファイアが埋めこれていた。

サーベルを受けとると滝沢はすこしだけ、鞘から抜く。銀色に輝く刀身が彼の視界にはいった。


一瞬にして世界がかわった。


乾いた風が彼の頬を刺激した。

そこは戦場だった。

大砲から発せられる轟音。剣と剣がぶつかりあう金属音。馬のいななき。兵士たちの悲鳴。血の匂い。

ナポレオン時代の軍服を着た騎兵が彼に近づいてきた。黒髪に黒い瞳。端正かつ精悍な顔立ち。

「おくれるなよ、ジェラール」

彼の名を呼んだ。

彼の名はジェラール。ナポレオン配下の勇将であり、剣の達人であった。

「貴様が速すぎるのだ、ミュラよ」

ジェラールは黒髪の騎兵の名を呼んだ。

ミュラと呼ばれた男はすでに駆け出し、遠く彼方にいた。

「突撃、突撃」

よくとおる声で叫び、ミュラと彼の部下の騎兵は敵陣深くに突撃していく。敵陣はバターがナイフで切られるように陣形を崩していった。

ジェラールはサーベルを抜き放つ。柄には美しいサファイアが埋め込まれていた。いくつもの戦場で彼の身を守った名剣である。

「ミュラ将軍に遅れをとるな。突撃開始せよ」

そう指示をだし、彼と彼の部隊も突撃を始めた。ジェラールの手によって幾人もの敵兵士がこの世から別れをつげることになる。

血の花がジェラールの浅黒い顔と軍服を瞬時に染め上げていった。


カチンという音をたて滝沢はサーベルを鞘に戻した。彼の顔の近くに時昌の厚化粧の顔があった。

「これは……」

剣客滝沢はきく。

「さすがは滝沢のお兄さん。見えましたね。それは剣が持つ記憶。その剣はいわば九十九神になりつつあります」

九十九神とは時を経たものが霊格を得て神や妖魔になったものを言う。ジェラール将軍と共にいくつもの戦場を駆けたこの剣もそれになりつつあるのだという。

「ジェラールの剣は持ち主を選びます。滝沢のお兄さんならきっと使いこなせるでしょう」

にこやかに笑みを浮かべ時昌は言った。


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