第27話作戦名 双頭の鷲

「さて、次は司くんね。金剛の手袋を出してちょうだい」

金剛の手袋とは司が使用する梵字が刻まれた手袋のことである。司の鬼の能力を向上させる代物だ。

金剛の手袋を手に取り、時昌はそれをじっくりと眺める。

「どういう使い方をしたらこんなにぼろぼろになるのかしら」

ため息まじりに時昌は言う。

「仕方ないだろう」

司はこたえる。

「次からはこれを使いなさい」

そう言うと黒皮の手袋を手渡した。手渡すさいに司の手をにぎるのを忘れはしない。司は眉をひくつかせ、あからさまに嫌な顔をした。

「阿修羅の手袋。効果は金剛の数倍はあるわ。でもね、消費される体力も比例するから使用には気をつけてね」

「ああ、わかった。ありがとう」

「どういたしまして」

時昌は言った。


「さて、具体的な作戦だけど。樋口少尉からの報告だと救世会の本拠地だと思われる場所は二ヶ所」

「どちらかにしぼれないのか」

司がきいた。

「さすがにそこまでは無理みたいね」

頭を左右にふり、時昌は言った。

「場所がわかっているだけでもたいしたものよ。それとね、時がせまっているの。たぶんあちらがわも本気をだしてくるのはまちがいないわ」

「時とは」司がとう。

「それは魔王降臨には時期があるということです。現在私たちの太陽系は一直線にならんでいます。一説には帝都の大地震もそれが影響したといわれます。魔王降臨をさせるには惑星が直線に並んでいないといけません。ドイツの事件の失敗は時期を間違えていたということです。そして惑星直列の期限は残り三日というのがお師匠さまの予測です」

時昌にかわり、夢子が説明した。

「それではその三日のあいだ我々は志乃くんたちをまもりきればいいのだな」

滝沢が言う。

「そんなのは性にあわんな」

ニヤニヤと笑いながら明智は言った。

「同意見。わたしも逃げ回るのは嫌だわ。敵の場所がわかっているのだから、こちらから攻めこみましょう」

かろやかな笑みを浮かべ、時昌は言った。

「それで、その場所とは」

司はきく。

「丑寅寺と辰巳神社の二ヶ所。そのどちらかに救世会の首領デグチ・オニサブロウはいるとのことです。わたしたちはふたてに別れて、敵の首領をつかまえる。すでに逮捕の許可は樋口少佐がとっているわ」

「決戦をしかけるということだな」

力強く司は言った。

渡辺司、平井夢子、滝沢の三名は志乃を守りながら丑寅寺へ。小野寺信、明智、平井時昌の三名はコバヤシ少女を守りながら辰巳神社へと向かうことになった。

「作戦名は双頭の鷲。皆さんとの無事な再会を祈ってるわ」

したり顔で時昌は声高らかに言った。


薄暗い地下牢にその男はいた。

空気が湿っている。

不快であった。

樋口季一郎と川島芳子は牢の外から中の人物を見ていた。

中の男は薄ら笑いを浮かべながら読書をしていた。

牢の外のふたりを上目遣いで見た。

「樋口さんと川島さんですね」

へらへらと笑いながら男は言った。

「デグチ・ヒデマロだな。司法取引をしたいとの申し出だときいたが」

樋口は言った。

不気味な男だ。そう思った。

「ええ、そうですよ。我々が拠点としている場所を教えます。そのかわり僕を自由の身にしてほしいんですよ」

ヒデマロは言った。

「何故だ」

樋口が問う。

「僕は見たんですよ、父さんや梅がみているのとは違う未来をね。あれをみたら父さんたちがやってることが無意味に感じてね」

不思議なことをヒデマロは言った。

救世会の目的は破滅の未来から国を救うために革命をおこそうとしている。彼らがいう未来とヒデマロが見た未来は違うというのだ。救世会の幹部のひとりである彼が。

「まあ、これを見たらわかりますよ」

そうヒデマロは言い、パタンと本を閉じた。


世界が変化した。


見たこともない黒い地面。多くの車がいきかっていた。車の種類も見たこともないものだ。とてもカラフルで洗練されている。

ガラス張りのビルディングが無数にたっている。幾人もの人びとがいそがしそうに歩いていた。

街中には音楽が流れ、映画の銀幕のようなものがビルディングの壁に設置され、その中の人たちがいろいろな商品を宣伝していた。

ビルディングの入り口にはカフェのような店が開かれており、ヒデマロと川島芳子はイスに座っていた。

「ここは……」

震える声で川島芳子は言った。

彼女のすぐそばを薄い上着にものすごく短いズボンをはいた少女が通りすぎた。金色の髪であったが顔だちは日本人であった。

「平和な世界さ。あんな薄着の女の子が街中を平然と歩ける。たぶんここは父さんや梅たちが見た未来とは違う可能性の世界かもしれない。僕はそう思うんだよ、アイシンカグラ家のお姫様」

黒目がちの芳子のひとみを見ながら、ヒデマロは言った。

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