第19話 殲滅

クカァーとかん高い声をあげ、カゲオウは鳴いた。夢子の腕をはなれ、ある一体の人形めがけて飛翔する。

鋭いくちばしで人形の目をえぐり、床に吐き出す。

ぼとり、とそれは落ちた。

人形はとれた目の部分を手でおさえ、かがみこむ。

彼らも痛みを感じるのだろうか。

ふと、夢子は思った。

カゲオウは攻撃の手を休めない。

三本足で人形の頭をつかみ、きりもみ状に身体を回転させる。その力に耐えきれず、人形の頭がごとり、と抜け落ちた。

その頭を床に投げ捨てる。


モーゼル銃に新しい弾丸をつめなおし、小野寺は的確な射撃の腕をみせる。

頭、胸、腹を撃ち抜き、人形の活動を停止させる。次々と人形の廃棄物をつくりあげていく。

勝利は目前である。

小野寺は確信した。


右手にボーイナイフ、左手にサーベルを持ち、滝沢は死闘を繰り広げている。

変幻自在の剣法はまさに新撰組の戦いかたである。

切り裂き、切り刻み、打ち砕く。

拳と蹴りをおりまぜ、戦闘を繰り広げる。

達人のそれは華麗な舞いのようであった。すべての動きに無駄というものがない。


奇術師天勝の手にはヤタノカラスの黒く輝く羽があった。

指の間にはさんでいる。

腕を一閃させ、その黒き羽を人形に投げつけた。

そのすべてが命中し、突き刺さる。

人形の皮膚がぼろぼろと剥がれおち、床に散らばる。

カゲオウの羽のなんたる強度か。

内部の機械をむき出しにした人形に更にカラスの羽を投げつける。

ある羽は機械の部品を打ち砕き、また、別の羽はゼンマイにからまり、動作を停止させる。

華麗な顔に微笑を浮かべながら。

彼女は、この戦いを楽しんでいた。

いかに美しく戦闘を行うか。

どうやら、それが彼女こと、この二十の人格持つ怪人の命題のようだ。


「志乃さん、大丈夫ですか」

夢子は、司と滝沢の背後でかがみこんでいる志乃に声をかけた。コバヤシ少女は志乃の細い身体にしがみついて戦闘をじっと見ていた。

「ええ、なんとか」

舞いちり、雨あられのように降ってくる人形たちの部品を白い手で払いのけながら、答えた。

思ったより、落ち着いている。夢子は志乃の態度を見て思った。それは、司たちへの信頼からなるものであろう。


すでに人形は半数まで打ち倒している。

「一気にかたをつける」

腰にぶら下げた朱色の鞘の刀に手をかける。

右手で柄を握る。

紫色の鬼眼がその輝きをます。

精悍な司の顔に太い血管がうきでる。

蒸気のようなものを身にまとう。

それは彼の魂の力。闘気とかオーラなどと呼ばれるものである。

「ちょ、ちょっと司さま、こんなところでまずいです」

夢子はとめようした。司がくりだそうとしている技の威力を知っているからだ。


「ツ、ツノ」

コバヤシ少女が司の顔を見て言った。

「角がはえてる……」

両手で口をおさえ、志乃も言った。

霊力のあるものなら司の額に二本の角がうっすらと生えているのが見えるのだ。

もちろん、夢子も視認していた。

「うわっ、もう発動してます。皆さん、後ろに下がって、伏せてください」

叫ぶように夢子は言った。志乃とコバヤシ少女を後ろに下げ、彼らを地面に伏せさせる。

「むっ」

剣客滝沢は、短くそう言い、サーベルとナイフを素早くおさめると後方にさがった。

呆然しているのは小野寺だった。

彼はなにがおこるのか知らない。

危機を察知した天勝が小野寺に抱きつき、床に倒れこんだ。

はからずも小野寺は天勝の豊かな胸に顔を埋めるかたちとなったが、それを楽しんでいる余裕は、彼にはなかった。


「鬼道発動、朱天よ力をかせ」

司は言った。


「使うかね、わしの力を。ぞんぶんに使うが良い。使って使って、くちた後はわしのものになってもらうからのう」

司の心の中の声が言う。

「使うさ、おまえは力だけかせばいい」

「いってくれるな、使いこなしてみろ」


朱鞘から太刀を引き抜く。銀色にそれは耀いた。三尺の長さである。

「殲滅しろ、鬼斬り丸」

爆風が巻き起こる。その威力は小型の台風に近い。爆風は人形ごと車両の三分の一を吹き飛ばした。

左右の壁は外れ、天井は吹き飛び、晴れわたった青空が見えた。




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