第41話三千世界の彼方

まるで空間に階段があるかのようにゆっくりとだが、確実に司は昇っていく。

まぶしく光る雷を幾度も鵺は、司が率いる妖怪妖魔たちにあびせるが、彼らの妖力でそのすべてを弾き返す。

バチバチと細かな光と熱が地面に降り注がれる。

大長刀を頭上に振りかぶり、出口なおは一気に振り下ろす。

見るからに必殺の一撃だ。

大長刀は稲妻をおび、空気を燃やす。

火と光の融合。

それが司らを破壊しようと、大口を開き、襲いかかる。

腰の鬼切り丸を手に取り、抜き放つ。

焼け焦げる匂いがする。

ジュウジュウと鬼切り丸は司の手のひらを焼いていた。

妖魔を断ち切る剣を鬼と同化した身でもった為である。

鬼切り丸の聖なる力が持ち主である司の身を傷つけている。

皮肉な話だ。

苦痛に顔を歪める司であったが、彼はそれを離しはしない。

ガツリと鈍い金属音が響く。

鬼切り丸が稲妻の大長刀を受け止めたのだ。

火花が飛び散り、光が乱反射する。

それは花火のように空気をやき、風が舞い、ひとつの絵を描いていく。


巨大な蠅の塊である魔王ベルゼハブが一度分解され、再び集まる時には鵺の右前足にとりついていた。

ぬらりひょんが左足にしがみつき、にやりと嫌な笑みを浮かべる。

山本五郎左衛門がその太い腕で左後ろ足を羽交い締めにした。

妖狐玉藻が右後ろ足をそっと撫でると、完全に動きを停止させた。


「おまえ……戦争のない世界にいきたいのだろう……つれていってやる」

言葉を紡ぐようにゆっくりと司は言う。

「違う。我々はこの世界をつくりかえたいのだ。争いのない、平等で平和な世界を‼️」

涙ながらに出口なおは叫ぶ。

「ははははははっっっっ」

とその言葉を聞き、司は嘲笑した。

頭がどうにかなったのではないかと思われるほどの、彼らしくない笑いかたであった。

「人の世にそんなものはつくれんよ」

皮肉たっぷりに司は言った。


一歩一歩と少しずつ、だが、確実に司と彼が率いる百鬼夜行たちは鵺を後退させていく。

その背後に淡い光が発生した。

光があるものへと変形していく。

それは木製の大きな大きな扉であった。

司が妖力を使い、想像し創造した異次元への扉であった。

それがぎいぎいと軋む音を響かせ、開いていく。

光のため、その扉の向こうには何があるかわからない。

「やめろやめろやめろやめろやめろやめろ」

出口なおが泣き叫ぶ。

だが、彼らやめない。

やめる気はさらさらない。

「さあ、行こう。三千世界世界の彼方へ」

光の中に彼らは吸い込まれていく。

出口なおはそのとりついた百鬼夜行ごと、光の彼方へ消えていった。

最後に黒い軍服の右腕だけが見えた。

その腕は扉をばたんと力いっぱい閉じた。

次の瞬間、扉は現世から一切が消えてしまった。


暗闇と暗雲がさり、光が大地をてらす。

ひさひざに見たので、目が痛むほどまぶしい。

時昌はただただ沈黙をもって彼らを見送った。

小野寺も沈黙し、敬礼していた。

コバヤシ少女を抱き抱えた遠藤がただ一言、

「さよなら、母様……」

と女の声で言った。




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