心変
夜。妹を寝かしつけたあとで、商業区に戻ってきた。長い坂道を上る。両脇の露店はすっかり店じまいしていて人っ子一人いない。
道の途中で、立ち止まる。
小さく息を吸って、呼びかける。
「ユーク」
微かな風が頬を滑る。月影が揺らめいて黒いドレスが現れた。月光に反射する白銀の髪。ゆるやかに俺の前へ降り立つ。
ユークは俺に近づいて、くんくんと服のにおいを嗅いだ。
「男くさい。ちゃんとお風呂入ってる?」
「……」
「この間は、悪かったわね。あれからセツナには指一本触れていないわよ。今日はナギを灯台に連れていったけれど、ハズレね。ナギも灯台守じゃないとすると一体何なのかしらね、灯台守って」
「……」
ユークがそっと俺の顔を覗きこむ。
「どうかした?」
「……灯台を乗っ取ったら、死の運命を変えられるか?」
暗闇の中で、青色の目が訝しげに歪んだ。
「何を言っているの?」
「教えてくれ。現実とは違った未来を築くことはできないのか?」
「まさか、灯台守を見つけたの?」
ユークの両手が頬に触れる。無理矢理、彼女の方へ顔を向かせられる。
ユークは宙に浮いていた。俺の顔の高さに浮いていて、その目は真っ直ぐに俺を見つめていた。
純真なほど、鋭い瞳。
「どうして目をそらすの?」
「……」
「私を、見て」
「……」
がさがさと近くの茂みが揺らいだ。俺もユークも音のする方へ顔を向ける。
ナギが出てきた。俺たちに気づかないまま、全速力で坂道を下っていく。
少し間を置いて三人の男たちが跡を追う。どいつも鉄パイプを手にしている。
「いててっ、古傷が痛むな……」
今日だったか、あのチンピラたちが強硬手段に出てくるのは。
十七歳のオレを襲った「星屑ストア」の犯人グループは、現実の世界ではセツナが連れてきた警察官に逮捕される。頭を殴りつけられる、寸前のところだった。
現実の記憶が夢に反映されているなら、放っておいても問題ないはずだが……。
「じわじわと腹が立ってきたな。この際だから仕返ししてやろう」
呪いが解けたように俺の身体は自由になる。灯台でやったみたいに手をかざして武器を呼ぶが出てこない。両手をぶんぶん振り回しても音沙汰無しだ。
「ユーク、刀を出してくれ」
彼女はまだ灯台守の話にこだわっているようだったが、俺が今にも駆けだそうとしているのを見て観念したらしい。
「
出たな、難しい名前の魔法。
「魔法じゃなくて夢を思いのままに操る能力。強く強く念じるの。探偵のくせに考え事が苦手なあなたでも、私が〝覚えた〟武器くらいなら出せるでしょ」
説明の合間に悪口言われた気がするが、大人の余裕で受け流そう。
言われた通りに強く念じてみる。すると光をまとってサーベルが現れた。握りしめて跡を追う。
商業区の入り口に、倒れたナギと今にもパイプを振りかざそうとする、野郎どもの姿が見えた。
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