あたしの夢


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「星屑の病」は大事なものをたくさん奪っていったけれど、一つだけ、素敵な贈り物をくれた。「パンドラの匣」に残された、たった一つの希望みたいに。

 それは、夢。

 あたしの夢は、看護師になることなの。

 看護師になって、少しでも「星屑の病」で苦しんでいる人たちの力になりたいんだ。

 あたしの両親はね、「星屑の病」に侵されて死んだの。大勢の人が発症した年に、立て続けに死んじゃった。

 大人になったら人を助ける仕事がしたいって思ったのはそのときかな。

 この身体に潜伏している病気と対峙しなくちゃいけない仕事はすごく大変だと思うけど、だからこそ、役に立てることがあると思うのよね。

 ……まあ、まずは受験勉強、頑張んないといけないんだけどさ。


 夢を語っていた。目の前に広がる海を見ながら。


 空が赤く燃えている。これは暁? それとも黄昏?

 これからやってくるのは、朝? それとも夜?


「あなたは、そんな夢を抱いていたのね」

 声がした。

 あたしと同じ声。

 隣に女の子が立っている。

 図書館で出会ったあの女の子が、青い目を細めてじっと海を見つめている。

「私の夢を聞いているみたいで楽しいわ」

「あなたの夢はなに?」

「私の、夢……?」

 女の子はしばらく考え、そして言った。

「私の夢は、女子高生になること。セツナみたいな女子高生になって、大好きな友達と毎日を楽しく過ごすの」

「……」

 不思議な夢を語る彼女を、まじまじと見つめ過ぎたみたい。

 我に返った彼女は、眉間に皺を寄せてあたしを睨む。

「余計なことを言わせないで」

 感情を捨て去ったその目は刃のように冷たく、鋭い。

 一歩踏み出して手を掴まれる。ぐいぐいと引っ張られて、なす術もなくあたしはついてゆく。海の向こうの、灯台に向かって。


 図書館で見た夢の中で、女の子は言っていた。


 ――灯台に来てちょうだい。


 学校で見た夢の中でも、女の子は言っていた。


 ――灯台は、存在しない。


 そして、あたしも。


 ――あなたは、存在を許されざる者。


 ……それが本当だとしたら、あたしはどうすれば良いんだろう。

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