43話 マゾヒスト


 水場の拠点から二時間ほどの場所。 一人でならもっと早いが、普通ならこれぐらいのペースだろう。


目指すのは上流に見えた湖。 しかし、休憩用の場所をいくつか作っておいてもいいだろう。


 まずはカマド。


増水する場合も考えて、沢から少し上に作る。


平たい石を沢山集めて並べていく。 コの字型に作った入口部分に細くて平たい石を置けば、火が上に向かって安定するし、調理もできるから一石二鳥だ。




「しかし、見事なキノコだ」




 僅かな光沢と極太のカリの裏にあるスポンジまでフワフワとしている。


柄には網タイツのような特徴的な模様も。




「はふぅ……。 こんな凄いの、初めてですぅ……」




 亜理紗はまた消えたと思ったらもう一本取ってきた。


先程のものよりも、極太なモノを手に取り恍惚の表情を浮かべている。


 キノコ狩りが趣味なんだろうか?




「うむ、豪勢だな!」




 石の上で音を立てて焼かれる肉とキノコ。 食べやすいようにスライスしてある。


炒めながら肉から出る脂をキノコに絡めていく。


棒に巻き付けたサゴも遠火で焼き、湯を沸かしてレモングラスティーを淹れる。


 この生活が始まって以来の豪華な昼食の出来上がりだ。




「山ピー、凄いですぅ!!」




 野菜も取りたい。


ウルイが群生していたので湯がいてから肉とキノコを包もう。


サンチュの代わりだ。




「「いただきます」」




 まずはやっぱり、キノコと肉の炒め物から。


大きな口を開けて、ウルイに包んだそれを一口で頂く。 




「!」




 芳醇な香り。 キノコの香りだ。


マツタケとはまた違ったもの。 しかし、この鼻腔を突き抜ける香りは脳を痺れさせる。 食感も抜群に良い、コリコリとした弾力は食欲をそそる。


 そして味も濃厚。 スープに入れてもいいね。




「美味しいですぅ!」




 亜理紗もお気に召したようだ。


パクパクと頬張り、美味しそうに食べていく。


 レモングラスティーを一口飲むと、上着を脱ぎだした。




「……何してる?」




「体、ポカポカしてきちゃいましたぁ」




 たしかに、焚き火に当たっていたから服も乾いてきたし、風が無くて蒸し暑いしな。


日差しも強くないから脱いでも日焼けはしないだろう。


 俺も上着を脱ぐ。




「山ピー……。 脱いだら凄いんですねぇ」




「そうか?」




 まぁ無駄な肉はついていない。


知り合いの格闘家からは『遅筋と速筋を兼ね備えた理想の筋肉』と褒められたことはある。 特にトレーニングは行っていない。 自然に出来たものだ。




「亜理紗もなかなか凄い胸じゃないか」




 と言おうとしたけど、思い止まる。


せっかく無防備に下着姿を披露してくれているのに、隠されても勿体ないしね!


 しかし胸でかいな。 お嬢様といい勝負だ。




(ロリ巨乳ってやつかな)




 ダメだ。 一度意識すると目が行ってしまう。


これが巨乳の吸引力かっ。




「ふぇ? どうかしましたか??」




「いや、なんでもないよ。 ほら、サゴ焼きもできたぞ?」




「わぁ、美味しそうですっ」




 棒に巻き付けたサゴは美味しそうな色をしている、その姿は蛇の串焼きを思い出すが。 ハチミツを塗り少し火で炙って完成。




「甘い〜〜!!」




 ハチミツの甘みが疲れを癒してくれる。


亜理紗もやはり女子なのか、甘味への反応が一番大きい。


 喜ぶごとに乳が揺れる。


先程まではブラウスの締め付けが押さえていた、巨乳が荒ぶる。




「幸せですぅ……」




 眼福です。


一人できたほうが探索は進むが、食事は誰かと取るほうがいいな。


 キノコもとりあえず、無事なようだが。 まぁ時間差でくることもあるから、六時間くらいは油断できないだろう。


 美味しいキノコでも毒があることはある。




「こんなもんかな?」




 簡単な屋根付きのベット。 薪を集めて置いてく台。


それらをカマドの側に作った。 とりあえずの拠点だ。




「こうしたら、可愛いですぅ!」




 亜理紗の魔改造も加わり、ゲリラの拠点のようになった。




「そうだな……」




 何も言うまい。 






◇◆◇






 どこだここは?




「おい……」




 水辺を出発してから三時間は経ったろう。


おっさんと来た時には見た事の無い断崖絶壁。


 俺は、俺たちはどうやら完全に迷ったらしい。




「どうやら、迷ったらしい」




「らしい、じゃねぇよ!」




「完全に迷子だよ!!」




 騒がしい奴らだ。


焦ってはダメだ。 落ち着け、落ち着け、俺ぇええええ!!




「一旦引き返すか?」




「もう来た道も分かんねぇ……」




 たしかにおっさんと行った森に比べれば歩きやすい。


ただ道が分かりやすいかといったら、そんなことは無い。


 おっさんが付けていたテープの目印も雨で落っこちていたし、ほんと使えないぜ。




「波の音を聞け、そっちに砂浜はあるはずだ!!」




「……」




 俺のナイスアイディアに奴らは耳を静かに傾けているようだ。




「聞こえる訳ないだろがっ! ほんと使えねぇなッッ!!」




「うぅ……」




 怒られちゃった。


俺たち田中分隊は当てもなく森を彷徨う。


手持ちの食料はバナナのみ。 砂浜に運ぶための水は多めにあるのは幸いだ。


 


「ぷふぅ……。 蒸し暑いぜ」




 ジメジメした蒸し暑さ。 喉を潤す回数も自然と増える。




「ヘビッ!!」




 蛇だ! 大蛇だ!!


突如岩肌に現れた大蛇に俺は叫んだ。




「落ち着けよ。 小さいだろ?」




 小さい?


アオダイショウより大きいだろ!?




「おっさんと捕まえた奴は倍以上あったよな?」




「あった、あった」




 ダメだこいつら、麻痺してやがる。


そういえば前におっさんが大蛇を捕まえたとか言ってたな。


 俺はその時は一緒に行動してなかったんだが。




「捕まえて喰おうぜ!」




「おう! 結構美味かったしな」




 マジカこいつら。


逃げようとしている大蛇を無理矢理引き釣り出そうとしている。


 野蛮杉る。 どこの部族ですか?




「よし、首を押さえつけてくれ!!」




「俺がっ!?」




 何故、俺が一番危険なポジションなのだ?




「イノシシに比べたら楽勝だろぉ」




「……おうよ」




 岩の隙間に逃げようとしている大蛇の首に近づく。


ただ、その瞬間。 俺の首筋あたりがピリっとした。


 イノシシもどきに襲われた時と同じ感覚だ。




「――ふぁッッ!?」




 突如振り向き、襲い掛かる大蛇。


俺は寸での所で転がり逃げる。


 しかし、体をクネらせ器用に大蛇は俺に巻き付いてきた。




「ぐぇ!? ふぐっ、ぢヌッ! だずけてぇ……」




 苦しい。


体中を締め付けられ、肺の中の酸素が一気に吐き出してしまった。




「あ! やばい」




「うわっ、めっちゃ締め付けてる。 取れないなぁ……」




「田中の唇が……紫色に……」




「田中、死んじゃうのか?」




 観察してないで……早く、助けて……。




 酸欠により俺の意識は急激に暗くなっていく。


夢の中で俺は、美人CA様に縛られ鞭で打たれていた。


 どうやら俺は、童貞でマゾらしい。




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