12話 イケメン汁

 強い日差し。 


波は穏やかに砂浜を染める。


 少し長めに作られたツバ。 小麦肌の女性は弄りながら呟く。




「おっさん大丈夫かなぁ……。 集団行動なんてできるの?」




 集団行動の苦手そうな目の隈の酷いおっさんを心配しているギャル。


肌着をパタつかせ、貰ったヤシの帽子をつい弄ってしまう。


 少し前の出来事を思い返すと、溜息しか出なかった。






◇◆◇






 自己紹介が嫌いだ。




九十九英斗つくも えいとです、よろしくお願いします」




 特に野郎の自己紹介なんて、右から左へ流れていく。


握手なんてしないぞ? 


――イケメン菌がうつるからな!




「ちッ、こんなやつに頼らなくても、俺たちだけでいいだろ?」




 舌打ち交じりに声を荒げるのは、ギャルの元カレ。


集まった連中からは明らかな敵意を感じる。 おっさんは敵意に敏感だ、バレバレだぞ。


 治安の悪い国の歓楽街を歩くには、敵意を感知する能力は必須なのだ。




 しかしこいつに敵意を向けられるのは分かるが、他の奴はなんでだ?


元カレを手で制し、機長は厳しい表情で話し始める。




「……命令を無視して、森に入った事は不問にしよう。 こんな状況でも皆で協力して火をおこし、水を作り、救難の為の準備をするなかで、好き勝手にしていたことも不問にするよ」




「……そりゃ、どうも」




「しかし、今後は二度と一人で森の奥に入らないでくれ。 何かあった場合一人では助けを呼べないだろう?」




「……分かったよ」




 そう答えると機長は頷き、本題を切り出してきた。




「君の見た情報を教えてくれるか?」




 特に隠す必要も無い。 見たすべてを伝える。 感じたことは話さないけど。




「……そうか」




「……」




 そう言った機長の表情は――。




「――なんでそういう大事なことを早く言わねぇんだよっっ!? ふざけてんのか!!」




「水場を見つけたならすぐ話せよ」




「そうだ! 変な帽子被りやがって! 似合ってねぇぞ!!」




「人の彼女を嫌らしい目で見るな!」




 罵詈雑言。 


暴言の雨に打たれる。 全ての不満を俺にぶつけているようだ。 


 相当ストレス溜まってるのかな? こっそりと覗いているギャルが心配そうだ。




「ふぅ……。 用はすんだろ? さっさと帰れよ」




「いや、水場まで案内をして欲しい。 出来れば半分ほどの人達には、そちらに移ってもらいたい。 もちろん安全だと確認できればだが……」




 意外だった。 水場までの案内は想定していたけど、移るつもりがあるのか。




「水の問題もあるけどね、見晴らしの良い場所からなら通りかかる船を見つけやすい。 狼煙も高い場所のほうが効果的だろう?」




「……俺は専門家でもインストラクターでもない。 足手まといの面倒まではみれないけど?」


 


「「「――なっ!?」」」




 罵詈雑言。


燃料を再投下してしまった。 




「静かに。 皆で行ってきてもらいたい。 移動するにしてもすぐには無理だ。 水の運搬をできるだけ頼むよ」




 「出来ればバナナも」と機長は締めた。






「ほら、日差しが強いから被ってろ」




「ん、ありがと……。 大丈夫、おっさん?」




 心配そうなギャルの頭に手作りのヤシの帽子を被せる。


その上から手を置いて、答えた。




「問題ない」




 問題が起こるとすれば、彼らのほうだろう。






◇◆◇






 森に木霊する叫び。




「ちょ、ちょっと待てよっ! おっさん!!」




 俺たちの分隊は十一名。


おっさん分隊は森を突き進む。




「待てっていってんだろおおおおおッッ!!」




「五月蠅いぞ? 敵がいたらどうするつもりだ?」




「いるかよっ!!」




 分からないぞ? 


常に最悪の事態を想定すべきだ。


海賊の秘密の島だったり、麻薬カルテルの極秘栽培島かもしれない。


 まぁ動物よけにはなるかもしれないけど。




「はぁ……はぁ……」




 ギャルの元カレは喋る元気があるだけマシかもしれない。


昨日と同じ道を通っているから数段通りやすいのに、ほとんどの奴が息切れをしている。


 イケメン君もだ。 青っちょろい肌、線の細い体躯。 


インドア派ですか? 




「これじゃ夜までに帰れないな……」




 夜動くのは怖い。


比較的歩きやすい山だが、崖や根が隆起していたりする。




「はぁっ!? そこ行くのか??」




「行くよ」




 藪を突っ切る。


斜面の藪はまるでこちらに突きつけられ、侵入者を拒むようだ。


 しかし、突き進む。 ボクサーの様に両腕を上げ、腹筋と背筋に力を入れて突き進む。


すり傷だってしたくないし、目の怪我は絶対に避けたい。






「うっ……」




「まじ、もう、休憩しよ……」




「まって、くれぇ……」




 死屍累々。


少し開けた場所でへたり込んでしまった。




「体の使い方が下手すぎる」




「か、体の使い方ですか?」




 呟きをイケメン君に聞かれてしまった。




「そうだよ、こう! そして、こう!!」




「あっ! ああっ!?」




 俺はイケメン君の臀部を掴み、体の使い方をレクチャーする。


イケメンの爽やか汁が飛んできた。 危ない、おっさんの体が溶けるぞ!




「……どっちもいける系?」




「ヤベェヨ、ヤベェヨ……!」 




 不穏な噂はやめて下さい。 お願いします。




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