13話 ご馳走再び!?
美しく見える海も、その底は冷たく暗い。
「……私の水、しりませんか?」
「え? しらないよ〜。 自分で飲んだんじゃないのぉ?」
「あらら、たいへ〜ん。 男どもにでも分けて貰えばぁ〜? その体、使ってさぁ」
嘲笑。
美しく見える女性たちの底もまた、ドス黒い。
(ひどいことするなぁ……)
花柄の薄い水色のセットアップ。 フワリとしたスカート、育ちの良さそうな顔立ち、長い黒髪に日焼けのしていない白い肌は、都会のお嬢様のようだった。
自分はあまり着ない恰好だなと、そう思いながらギャルは佇む女性に声を掛けた。
「大丈夫? 私のあげるから、こっちおいでよ」
「あ、ありがとうございます……」
顔色が良くない、女性はだいぶ調子が良くないようだった。
「……おっさん趣味と、どんくさい無能な牛乳。 類友ってやつ?」
「英斗君にふさわしくないんだよねぇ、体だけの女とかさぁ〜」
誰がおっさん趣味か、と思いつつギャルは嫌がらせされていた女性が誰か分かった。
(爽やかイケメンの彼女さんか……)
清楚な雰囲気に激しく自己主張する双丘。
いつもイケメンの後ろで見守っているといった感じだったなと、思い返す。
女の嫉妬は怖い。 自分にも経験があるなぁと、震える女性を連れてその場を去っていく。
(こんな状況なのに……。 まぁモデルみたいに顔はよかったけどね)
おっさんとは比べるのもおこがましいほどのイケメンだ。
爽やかに笑う、キラリと見える綺麗な白い歯。 そういえばおっさんもタバコを吸っている割りに歯は綺麗だったなと、ギャルは無精ひげのおっさんの笑顔を思い出す。
ドクン、ドクンと、胸が高鳴る。
「んん……?」
「あの、ありがとうございます。 ……でも私と一緒だと、あなたも、嫌がらせされてしまうかもしれません……」
黒髪の女性は震えるような声で呟く。
「気にしないでいいよ! 私が嫌だったから、声掛けただけだもん」
ギャルの本音と握ってくれた手の温かさ。
黒髪の女性は『はい』と、溢れる涙を隠す様に下を向いてギャルについて行く。
暑い日差しを避けるように木陰を移動する。
ギャルはおっさん達の向かった森が気になり、チラチラと伺う。
「大丈夫かなぁ……。 今頃どうしてるかな?」
「……」
ギャルの呟きに黒髪の女性もまた、自ら森に行ってくるといった彼を思い出し森を見つめるのだった。
◇◆◇
おっさんの声。
「おら、力抜け」
「い、痛いですっ。 山田さん!」
パァン! と尻をはたく音が森に響く。
「ああん? 体の使い方を教えてくれといったのはお前だろう?」
「も、もっと優しくっ、お願いします!!」
パンパァン!
「だから力いれるなってばよ。 体重を利用して後ろ足で蹴らない。 体もできるだけ捻るなよ〜」
おっさんの指導は厳しい。
体罰? しったこっちゃねぇぜ!
「おい! ほんとに道あってるのか!? もうどこにいんのか、訳わかんねぇよ!!」
見渡す限りの木々、今はちょうど真ん中ぐらいだろうか。
現在地が分からずパニックを起こしかけている。
「あってるよ、目印あるだろ?」
指さす方向には木々の隙間を縫い二十メートルほどの先にテープが一巻きされている。
「ああ……?」
他にも天然のランドマークを頼りにしている。
全ての道を覚えている訳ではない、だから夜になる前に帰りたいのだ。
「この崖も登るのか?」
「ここは迂回するよ」
登った方が早い。 しかし、道具無しではリスクが高すぎる。
安堵するおっさん分隊。 と、そこにやつが姿をみせる。
「止まれ!」
「なんだぁ!?」
緑の岩の境目。
ニュルニュルと蠢くそいつは大物だった。
「ヘビッッ!!」
「うわっ!? でかっ!!」
岩のような色で岩陰に隠れようとしている。
嬉々として俺は叫ぶ。
「喜べ、ご馳走だ!」
「っ!」
蛇の尾を掴み引きずり出す。
しかし重い。 全然、動かない。
岩の下に入られるとマズイ。 逃げられちゃう。
「ヘルプ……!」
「へるぷじゃねぇよっ!!」
と言いつつも皆で蛇を引っこ抜く。
一番危険な首根っこは俺が押さえつける。
しかし、問題が一つ。 持っている石のナイフじゃ止めには向かない。
「イケメン! そこの岩で頭を叩き潰して!」
「え……」
一撃で仕留めてやらないと可哀想だ。 遠慮なくやりたまえ。
イケメンのすぐ横に、バレーボール大の岩がちょうど落ちている。
イケメンは少し悩み、持ち上げふらふらと近づく。
蛇の首を持つ俺には、逆光に見えるイケメンが俺の頭に岩を叩きつけようとしているように見えた。
「おもいっきり、やれ!!」
悲鳴のような叫びを上げ、イケメンは岩を叩きつけた。
血が飛び散る。 首元に毒を溜めるタイプの蛇もいるから、危険だったな。
「はっ、はっ、はっ」
イケメンは潰した蛇を見つめている。 呼吸が荒い。
しかし、この大きさの蛇だと毒が無くても巻き付かれて死ぬかもしれない。
思わぬ大物を手に入れた。 これは沢までついたら処理したいところだ。
「今日は泊りかな」
無理をしてもしょうがない。 かといって放置は嫌だ。
未だ呆けるイケメンの頬に、水の入ったペットボトルをくっつける。
「っ!?」
「さて、先を急ごうか?」
緊張が解け、ドッと疲れのでたおっさん分隊に鞭を入れるのだった。
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