14話 実食!
見失いそうになる。
僕は、その背中を必死に追いかける。
「……こっちだ、下を向くなよ? 呼吸がしずらい」
「ふぐっ……!」
自然と下がってしまった頭、近づいた山田さんは僕のアゴを持ち上げる。
「しっかり見ないと、危ないぞ?」
口の下手な人だ。 けれど一緒に行動する人たちをよく見て、さりげなく気遣っている。 みんな自分のことで精一杯で気付いていないけれど。
「お、クワの実……かな? 微妙に違うような……まぁいいや」
そう言って山田さんはブツブツの黒い実を食べた。
「ウマウマ」
自由な人だった。 知識も行動力も凄い。
僕なんかよりも、皆を導ける、頼りになるはずだ。
砂浜で落ち込む皆を元気づけようと、なんとかしたかったけど。
僕じゃ無理だ……。
「山田さん、戻ったら僕たちと一緒に行動しましょう? 皆もきっと安心してくれます」
「……」
なぜだろう? 酷く嫌そうな、頭の悪い子供を見るような目をされてしまった。
山田さんは無言で進む。 大蛇を肩で担ぎ悠然と。 それほど筋肉質に見えないけれど、凄く鍛えているのだろうか?
「着いたぞ、……山頂だ」
眩しい太陽。
「えっ……」
眩しさから逃れるように手をかざす。
自然と漏れる呟き。 それは自分だけではなかったろう。
聞いていたよりも、壮大で、雄大な光景は僕の瞳に飛び込んでくる。
「ほら、急ぐぞ。 野営の準備もしないとだしな」
圧倒される僕たちに、山田さんはいつも通り淡々と声を掛けてくる。
さっさと進んでしまうその背中を、僕たちは追いかける。
◇◆◇
珍味である。
「きしょっ!!」
無事、沢にたどり着いた。
まぁ、おっさん分隊は疲労困憊といった感じでへたり込んでいるが。
野営の準備をしてほしい、しかし休憩も重要か。
さっそく蛇を捌き保存できるようにしようと思う。 太めの木の枝に大蛇をくくり付け、そのやけにデカイ腹を掻っ捌くと卵が出来てきた。 それもたくさんだ。
「珍味でうまいぞ」
「……まじで?」
蛇の種類にもよる。 苦い物もあれば、クリーミーで美味な物も。
ピンク色でブヨブヨして内臓のような脈は浮き出てギッシリと詰まっている。
生でいくには少しでかいか。
「ゆで卵にするか」
皮は非常に薄いので割れないか心配。
でもゆで卵で固めれば平気なんじゃないだろうか。
蛇の内臓も体力回復にはうってつけのご馳走だ。 山菜と一緒に炒めて食べようではないか。
「俺は調理するから、寝床の準備したほうがいいぞ」
「……わかった」
逃げるように去っていく。
まぁ現場はスプラッタな処刑台みたいだしね。
調理場と寝床は分けたほうがいいのでちょうどいい。
石を並べてかまどの出来上がり。 火口はサルノコシカケの暖皮とヤシの繊維、火口は常に持っておくと便利。 焚きつけは良く燃える小枝を、燃料には太めで長持ちする物を選ぶ。
ゆで卵と言っても鍋なんて物は無いので、大きな葉に包み蒸し焼きにする。
内臓はよく焼きたい、平たい石の上で焼いていこう。
沢の近くにあったクレソンとウルイも一緒に炒める。 シンプルに味付けは塩だけ。
蛇の肉は適度に切って枝に巻き付け、遠火でじっくりと焼いて行こう。
人数分は十分に蛇肉串が出来上がる。 残りはそのまま一晩置いて焼き枯らしにしてしまおう。
「ごはんですよ〜」
本日の昼食。
大蛇の内臓と山菜の塩炒めと、蛇の半熟卵と蛇肉串、クワの実っぽい果実添え。
なんという蛇づくし。 まさに蛇のフルコース!
「っ!」
「大丈夫なのか……?」
なんの蛇か分からなかったから自信は無いが、大丈夫だろう、たぶん。
誰も食べようとしないので、先ずは私からいただきます。
「んっ!!」
「なんだ!?」
「やっぱり……!」
気になっていた卵。 大きなそれを一口でガブリといただく。
口の中で広がる半熟トロリ。 濃厚な黄身の味。 独特の風味が脳を痺れさせる。
「――美味い!」
鶏の卵にも負けない旨さがある。
「嘘つけ!」
「ほんとかよ!?」
続いては、内臓の山菜炒め。
こちらはすでに匂いが半端ない。
山菜と一緒に内臓をいただく。
「んっふう!!」
「大丈夫かぁ!?」
突き抜ける野性的な風味。
蛇の匂いがダイレクトに残っている。 これぞ蛇の味。
シャキシャキ、コリコリ。 様々な部位の奏でる食感はさながら食のテーマパーク!
「これもまた、旨し!」
「まじでか!?」
「……(ゴクリ)」
まともな食事をとっていない彼らの喉が鳴る。
そしてメインの蛇肉串をいただこう。
「あ、普通に旨いな」
「食べてみるか……」
「お、俺もたべよ」
彼らは英気を養う。
「「ふぁっ!?」」
蛇の内臓の炒め物は少々、賛否両論のようだ。
「あ、美味しいですね」
イケメン君は意外とイケる口のようだった。
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