11話 三日目:トロピカル

 三日目の朝が来た。

穏やかな海。 救助が来る気配は無い。


「ふぅ……」


 あまり眠れなかった。 元々不眠症なんだけどね。

コクコクと水で喉を潤した。 穏やかな風は温かい。

 雲一つない空。 今日は日差しがきつそうだ。


 硬い手作りベットには俺一人。

亜理栖は焼きバナナを手に帰っていった。 天然塩のお礼だ。


「うん、いい感じ」


 まだ温かい焚火。虫よけにと、煙が出るように青草と砂を掛けておいたから灰にならず炭に成ってる。 ぬるま湯を作りヤシのボウルに入れた果肉と混ぜる。

 削り取って細かくなっている果肉を更に細かくして、ギュッと絞る。

それをしばらく繰り返せば白くミルクっぽくなる。 

タオルを使って濾せば、天然のココナッツクリームの出来上がり。

 残った物に水を追加して濾せばココナッツミルクにもなる。


 ココナッツクリームは肌に塗っておこう。

ココナッツミルクはバナナと一緒に朝食だな。

甲殻類も欲しい。 えびとかエビとか海老とか。


「とりあえず、貝でも採るか」


 日差しがきついのでタオルだけだと心配だ。

帽子を作る。 無人島で帽子と言えばヤシの葉で編んだものだろう。

 ヤシの葉は屋根の材料で使われたり、芯を取って箒にしたりと用途は様々。

葉を編み込んで大型のバックを作っておくと、色々役立つかもしれないな。


「なかなか、いいんじゃないか?」


 ヤシの葉を半分に裂く、芯の部分をギリギリまで削って薄くしたら頭の形に丸める。

ヤシの繊維でクルクルと巻いて止める。 外側の部分でクロスさせて編み込んでいく。

 テレビも歓楽街もないような場所に出張した時は、眠れない夜を内職で凌いだものさ……。 ツバ部分ができたらトップ部分を作ろう。

 ハワイではラウニウと呼ばれるヤシの葉帽子が出来上がる。

色々な作り方があるので楽しい。


「……作り過ぎた」


 気づけば四つも。 簡単に作ったバックも合わせて、寂しき熟練の技か、三十分もかからずに出来た。

 小腹も空いたし、磯に貝でも採りにいこう。



◇◆◇



 前に来た左側の磯。

潮が引いて昨日よりも岩肌は露出している。


「これって食べられる?」


「さぁ?」


 何人か先客がいた。

タイドプールを眺め、岩にへばりつく貝を指さし食用かどうか悩んでいるようだ。

 貝はもちろん、取り残された魚やカニやエビもいる。

ただ問題なのはそれが食べて平気なのかということ。

 触るだけでも危険なモノも多いしね。


「それは、マツバガイ。 食べられる」


 親切に教えてやったのに疑わし気な瞳。

カサガイの一種で岩にへばりついて同化してる。

 ジンガサのほうが馴染みがあるかな。


「んんっ!? 取れねぇ〜〜!」


 貝に手をやり尻を突き出し、なかなか見応えのある格闘戦を行っている。

ジンガサは気付かれると、ピッタリと岩にくっついてしまう。

こうなるともうダメだ。 殻を壊した方が手っ取り早いほど、くっつく。


「――ふっ!」


 気づかれる前に、ジンガサと岩の隙間にフォークを差し込む。

力は要らない、素早さが重要だ。

 コロっと落ちるジンガサをキャッチする。


「おぉ……!」


「はあっ!?」


 かなりの大物。

成長が遅いので釣りとかで見かけるものは小さい物が多いのだが。

 無人島産は大物である。

 塩を振りかけ、身を取り出す。

黒い内臓を取り除いて、ちゃちゃっと海水で洗って食べちゃう。


「「ええっ!?」」


 コリコリ美味い、野性的な磯の香りが突き抜ける。

少々生臭い……か。 調理したほうが美味しいけど、ビタミンとかを考えると生でもいいかなぁ。 貝毒は火を通しても意味ないしね。 もちろん寄生虫には効果はあるけど。


「うん、コリウマ」


 いくつか採って帰ろう。

他の人たちも真似して上手く採ってる。 失敗しても頑張ってる。

 やはり食べてみせたせいか、やる気もアップしているな。



「おっさん、コレ、ありがと……」


 寝床に戻ると、ギャルが来た。

明るい茶髪と黒の長いキャミソールは一緒だが、少し化粧が薄い。

……普通に可愛いぞ、こいつ。


「……肌、焼けるぞ? もっとくか?」


 ウインドブレイカーを返しにきたようだ。

受け取った時に気付いたが肩の肌がすこし赤い。 

背中も露出しているし、少し日焼けが心配だ。


「ん、流石に暑いかな。 蒸しちゃうし」


「じゃ、これ使え」


 肌着、吸汗速乾の優れものだ。

出張に行くときは必ず持ってる。 


「……いいの?」


「問題ない」


 受け取ったギャルは呟く。


「ありがと……」


 そして、脱いだ。


「!」


 脱いだら凄かった。 

柔らかそうなボリュームのある胸を隠す、小麦色の肌に映える赤い水着。

目が痛いくなるような色ではなく落ち着いた赤だ。 それに水着のズレた下乳の部分が少し肌白い。 腰回りに水着が少し食い込み、長いキャミソールからも覗いていた脚部分は、根本まで露わになっている。


「水着だよ? ……期待、しちゃった?」


 水着も下着も面積は変わらないぞ?

渡した肌着は男物のLL。 Vネックでぶかぶかのそれは、水着が透けなんとも淫猥である。 「どうっ?」 と言った感じでギャルは服の端を掴み広げ片足を上げた。


「ん、エロいな」


「ぷっ! おっさん、正直だねぇ? ふふ、エロい? ハッ、それが目的!?」


 とんだ誤解だ。

調子を取り戻したギャルは、元気に喋り始めた。

 それを聞きながら俺は採ってきた貝の下拵えをする。

サクッと、バナナとマツバガイのココナッツミルク煮。 


「うわっ、美味しい!」


 基本塩味だけど、貝の旨味も出ている気がする。

マツバガイの生臭さも無くなって美味い。

ギャルもご満悦の様子。 しばし、トロピカルな朝食を満喫する。


「済まない、ちょっといいかな?」


 そんなおっさんの幸福タイムを邪魔する、無粋な野郎どもが現れる。


「話がある」


 真剣な表情をした、機長、イケメン君、その他の男どもであった。

どうやら無人島生活三日目は忙しくなりそうだと、嘆息しながらバックにしまったタバコを取り出すのであった。




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