10話 山ピー


 開けた場所にある拠点、沈むおっさんを月明りは照らす。

神秘的な雰囲気の中におっさんの溜息が漏れる。


「はぁ……」


 蛇の頭を切り落とす。

首を掴み木の上で押さえつける。 胴体側を石のナイフで切り落とす。

切れ味が悪いせいで感触はしっかりと伝わって来る。

落とした頭はちゃんと埋めないといけない。


「ふふ……」


 胴体から切り離しても、蛇の頭は口を開ける。

なんという生命力。 これなら滋養強壮もあるわけだ。

 この後の美味しい料理を想像すると、涎が出てくるね!


 しかし肝心の火が無いことに気付いた。

今イケメン君たちの所へ火を貰いに行っても、コッソリとは手に入れられないだろう。

 それではダメだ。 俺の悪口で盛り上がられても嫌だ。


 雨が降ってしまったけど、ヤスリライターもまだ使えるのでなんとかなる。


「お、少し出てるな」


 拠点の所に置いておいたヤシの種子は僅かにぬるっとしている。

 熟れたヤシの実には色々な使い方がある。

ココナッツオイルを作るなら若い物より適している。

 外殻を剥いた種子。 最後の繊維の部分をむしり取り茶色の部分は残してある状態だ。

これに切れ込みをいれてしばらく放置しておくと、僅かだがオイルが染み出してくる。

 大量に作ろうとすればもっと手間暇を掛けなければいけない。


 オイルを手に付け体と髪に塗っておく。

乾燥した肌と髪に潤いを。 おっさんの加齢臭もおさえてくれるに違いない!


「……」


 ウインドブレイカーを貸したままだった。

濡れたせいでちょっと寒い。 さっさと火を点けよう。


 熟れたヤシはすぐに見つけられる。

外郭を歯で齧りべりッと剥ぎ取る。 フィリピンの陽気なおっさんがやってたが、上手く剥けない。 歯とアゴが……。 一度小さく剥いてそこからむしり取ると意外といけるか。

 半分剥いたら種子を取り出す。 今回は殻の部分が重要だ。

半分にした硬い殻は被れば、なかなか防御力がありそう。


 半分にしたヤシの殻の中にふんわりと繊維を入れる。

帰り道に採取しておいたサルノコシカケの暖皮と呼ばれる繊維も投入する。

 これで火口は十分。 地面が湿っていても大丈夫。

細い枝を小さく折って三角錐に並べる。

 更にその上から太い枝を置こう、十分に隙間を空けて空気よく通るようにするのが肝心だ。

後は石で囲んでとりあえず完成。 さっそく火を点けよう。


 カチッカチッとライターは音を立てる。

暗闇を照らす火は心を落ち着けてくれる。


「そういえば、今日まだ二本目だな」


 タバコに火を点けた。 いつもは一日一箱、吸っている。

湿けっていたのか、今日二本目のタバコは酷く不味く感じた。

 半分も吸わずに火の中に投げ捨てる。 残りのタバコは袋にいれてバックパックにしまった。 ポットに沢の水を入れ火の近くへ。 吊り下げられるような物を作ってもいいかもしれない。 火は上のほうが火力は高い。


 蛇を捌く。

皮を剥ぎ、内臓を取り出す。

 引っ張るだけのお手軽解体。


「塩が欲しい……」


 海水から作っておくんだった。


「山ピー、塩無いんですか?」


「!」


 誰が山ピーか!?

急に背後から喋りかけられる。 気配も無く近づくのは止めて欲しい。

 焚火に照らされるのは若い女。 髪をハーフアップにした巨乳だ。


「おまえ……」


「おまえじゃないです! 亜理栖ですぅ!」


 そう言って亜理栖はビニール袋を渡してきた。


「塩です、皆で作ったんですよぉ? ニガリもきちんととってある天然モノですよぉ、山ピー」


 塩を作ったってことは、海水を沸かして水を作ったのか。

鍋は無かったし、道具もあまりなかったけど、どうやったのかな?


「そうですね、道具はあまりなかったので少しだけです。 瓶とかトレーとか色々使って工夫したんですよぉー」


 聞いてみると、独特の雰囲気で喋りだす。

とことこと近づき火の側に来る女。 俺のすぐ横に座った。 

 ついあのショートカットの男女やつがいないか、辺りを確認する。


「ふふっ、美紀ちゃんいませんよ? 昨日全然眠れなかったみたいで、さっき寝ちゃいました」


 寝た友人を置いて、おっさんの元へ何しに来たんだ?


「バナナっ、美味しかったです! ありがとうございます、山ピー」


「お、おう……」


 さっきのギャルの距離を簡単に超えてきた。

その豊満な胸が肘に当たる。

 わざわざお礼を言いに来たのか。


「たきびっていいですよねー。 ゆらゆら、踊ってるみたいです」


 火の光に照らされる横顔は、少し大人びて見えた。

しかし、相変わらず危機意識が低い。 俺の、誤解された、評判を聞いていないのだろうか?


「……」


 頭を一掻きし、蛇の調理に戻る。

なんにせよ塩をゲットだ。 体も冷えたしスープでも作ろうか。

 蛇を三センチ程度でぶつ切りして、救命食糧の入っていた缶に水と一緒に入れる。

味付けは塩のみ。 他に具材は近くに生えていたオカワカメと熟れたココナッツの果肉も入れよう。


 ついでにバナナをアルミホイルで包み、火の中へ。

皮ごとで大丈夫。 俺の調理を亜理栖は興味深そうに見ている。



「よし、そろそろいいかな!」


 待ってる間にココナッツのボウルを作った。

中身をほじくるだけの簡単な物。 中身はまた使い道がある。

ほんとココナッツの用途はんぱないな。


「わあぁ! 美味しそうですっ!!」


 ふむ。 白濁のスープ。 ココナッツの果肉のせいだな。

オカワカメの緑が映えるね。 匂いもいい。


「お、美味い」


 スプーンで一口。 ほんのりとしたココナッツの甘さと塩が効いてて美味い。

 山登りで疲れた体に最高だ。


「はぅ……!」


「……食べるか?」


 近い。 ココナッツより甘い香りが、近づきすぎた亜理栖からしてくる。


「ありがとですっ、山ピー!」


 ココナッツのボウルを持って嬉しそうに食べる亜理栖。

肉も食べてるけど、蛇肉だと分かっているのだろうか?

 久々の蛇肉はやはり美味しかった、少々骨が多かったけど。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無人島パラドックス――我、無人島にてイケメンに勝利せり―― 大舞 神 @oomaigod

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ