44話 働き蟻

 男は私の働き蟻。




「真理ちゃん、これ食べて! 美味しいよ!!」




「わっ、すっごぉい! 美味しそうなお刺身ぃ〜。 どうしたの、コレぇ?」




 いっぱい褒めて慰めてあげたら、なんでもしてくれる私の働き蟻。




「真理ちゃんの為に海で取ってきたんだ!」




 自慢げで可愛いね。 結構使えそうな奴だったから、優しくしてあげて良かったな。




「マリ……嬉しいっ!」




 少し大げさなぐらいに喜んであげる。


男は女に喜ばれるのが一番嬉しいんだ。 


 まぁ若くて可愛い娘限定みたいだけど、私みたいに。




「へへ……。 さっそく食べる? それとも、……少し二人にならないか?」


 


 ちゃんと分かってるわ。 私はリサみたいに馬鹿じゃないの。




「うん。 二人っきりになろっか?」




「やった! じゃ向こうに行こう! 良い場所見つけてあるんだ」




 フフ、嬉しそうな顔。 ほんと扱いやすい男って大好き。


でも早く助けが来てくれないかしら。 


少しでも可能性があればと、助けに呼びに行く案をだしてみたけれど、筏で海に行くなんてほんと馬鹿よね。


 


「働き蟻が減っちゃった……」




「え? 何か言った??」




「ん、お刺身楽しみだなって♪」




 私は男の手を握る。


大事な私の働き蟻。 助けが来るまでしっかり働いてね?


 役に立つ間はいっぱい優しくしてあげる。




「あら……」




 ヒロキ……。


リサの後はあんな子? 地味そうな女と一緒にいる。


やっと別れたみたいだから、私のモノにしようと思ってたのに。


 面白くない。 どうしましょう?




「真理ちゃん、こっちだよ!」




「わぁ、凄いね!」




 手作りのテーブルに飾れた色鮮やかな花、ココナッツジュースに果物も。


それにしっかりとしたベットまで作ってある。




(頑張りすぎでしょ)




 苦笑しそうになるのを作り笑顔で誤魔化す。




「とっても美味しい。 マリのためにありがとっ」




 パンが食べたいわ。


甘いケーキも食べたい。 魚に貝は食べ飽きたの。


 


「お礼に、綺麗にしてあげるね?」




「ああああっ、真理ちゃんッッ!!」




 バナナも食べたいな。 あのバナナは甘くて美味しかった。




(しょっぱい……)




 温かいシャワーで体を流したい。 塩でベタついて最悪なの。


水でもいいわ、私も水辺にいったほうがよかったかしら? 




「ふぁあああ!!」




 こいつ使えるけど声が大きいのよ、女の子みたいだわ。


はぁ、どこかにもっと使いやすそう男働き蟻いないかしら?




「ふぉおおお! ああっーー!!」






◇◆◇






 絶景だ。


目指していた上流の湖へとたどり着いた。




「わぁ……」




 小さく呟いた亜理紗も、その光景に目を奪われている。


風が無いためだろう、湖面は静かで周りの風景を映し出し僅かに昇る霧が神秘さを増している。 湖の中央に浮かぶ島、小さな島は大きな亀の背に森が茂っているようだ。




「思ってたより大きいな」




 狼煙台を置いた山頂からでは全部は見渡せていなかった。


山の影に隠れた部分も湖となっており、イノシシもどきのいた森へと向かう支流も見える。 最初の砂浜とは逆側に向かうものもあり、探索をするならそこから行けば歩きやすいだろう。




「綺麗ですぅ……」 




 開けた場所も多く、草地も背が低い。


蒸し暑さも多少は軽減されている。


 なにより、湖の上の開放的な空間が癒しを与えてくれる。




「少し大変だが、拠点を移してもいいかな?」




 しかしここまで来てしまうと、狼煙台から遠くなりすぎて機長たちは反対するかもしれないな。 反対側まで行けば、逆側の監視という名目は立つかもしれないけれど。


 それにバナナ林も見えない。 何かメインとなる食材がないと、魚やカニばかりになってしまう。




「まぁ、少し散策してみるか」




 大きな湖を眺めながら、辺りの散策を始める。


青い湖は透明度が高く、湖面まで見渡せる。


 大きな魚がのんびりと泳いでいく。 後で釣りでもしよう。




「おっ」




 綺麗な花が咲いている。 少しつまもう。


パクリと口に頬張る。




「ほえっ!? なにしてるんですか、山ピー!」




「なにって、ムシャ、食べてる」




 たしか、食べられる花だ。


苦みもなく、癖もない。 ビタミンCが豊富なので摂取する。




「あぁっ、可愛いお花さんっ! 食べちゃダメですぅ……!!」




 野菜はよくて花はだめなんて、おっさんは差別はしないぞ!


ムシャムシャ。




「ああああーー!」




 虫も喰っちまった。


一石二鳥だね。 止めさせようとした亜理紗が抱きついてきたから一石三鳥か。




「雨か……」




 雨が降ってきた。


ポツポツと静かな雨だ。


 亜理紗は元気そうだが、雨の沢下りは危険だろう。


今日はここで野宿かな。




「今日はここに泊まろう」




「ふぇ? ……泊り、お泊り? 山ピーと二人でお泊りデート……アワワ! 亜理紗はもう襲われちゃうんですね!? 美紀ちゃんが泊りを強要してきたら絶対に気を付けろって言ってました。 でも、もう気を付けようがないですぅ……山ピーは策士ですぅぅ……」




 なんだそれは。


そんな上半身下着姿で乳を揺らしてて今更だな、おい。


 危機感とかないのかね? 




「冗談を言ってないで、拠点を作ろう。 手伝ってくれるだろ?」




「はうう……。 二人の共同作業、愛の巣作りですねぇ。 もう、山ピーのケダモノさんっ!」 




 どうした? いきなり脳ミソピンクになったのか?


それともやっぱりキノコに変な成分でもあったのだろうか。 淫乱成分とか。




「霧が……」




 雨の影響だろうか。


湖面に僅かにあった霧が濃くなってきた。


 急いで拠点を作ろう。 今日はもう二回目だ。


途中の拠点で火をおこした炭火を携帯している。


 簡単な雨よけを作った寝床を作ろう。 


雨から避けるため屋根付きの焚き火台もつくった。




 黒い雨雲は濃くなり、辺りは急に暗くなる。


亜理紗とせまい寝床に寄り添う。 互いの体温と息遣いを感じる距離で、二人きりの夜が訪れる。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る