6話 二日目: ココナッツ
一夜明けた。
無人島生活二日目の幕開けだ。
『ぐ〜〜〜』
腹が減った。
やはりあれだけではダメだな。
ブロックタイプの栄養補助食品に手をつける。 凄く喉が渇いた。 コクリと、温い水を少し飲む。
「ふぅ。 あんまり眠れなかったな」
木のベットの寝心地は最悪。
痛いし狭い。 けれど、下で焚火をしていたおかげか虫はそれほどでもなかった。 ただ少し、日焼けで肌がヒリヒリする。
「やば……」
火傷の一度の状態だ。 日焼けって火傷だからね。
早急に対策をしよう。
「あのぉ、日焼け止め貸してくれない?」
「……持ってないんで、近づかないで?」
「おなじく」
こいつらは悪魔や。
近くにいた女どもに聞いたら誰も持ってないとぬかしやがる。
塗ってるのにね!
「くぅ……。 とりあえず化粧水塗っておくか、ん?」
自身の好感度の低さに絶望しながら歩く。
砂浜の木陰に良い物を見つけた。
トゲトゲした緑色の肉厚の葉。 アロエ様だ。
アロエエキスは火傷に効果があるし、中身の透明なゼリー状の部分は食べることもできる。 ヌルヌルのアロエ汁をゲットし塗っておこう。
そこまで酷い日焼けじゃないから十分だろう。
空を見上げる。
青空と高く育ったヤシの木が見える。
ヤシの木と言えばココヤシ、ココナッツで有名だ。
命の実とも呼ばれるヤシの実を採取しよう。
「久しぶりだな……」
ヤシ酒造りが有名な場所で仕事をしていたとき、強制的に登らされたことがある。 あれは怖かった。 この木よりも遥かに高い。 何十メートルもの高さで命綱なしの綱渡りをするのだ。
実を取るのではなく樹液を集めて発酵させる。 ココヤシとは種類の違う木だったな。
ココナッツを取るには三つ方法が考えられる。
一つ目は登って取る。 危険だけど確実。
二つ目は落ちている物をぶつけて落とす。
三つ目は落ちている物を拾う。
喉が渇いてイガイガするおっさんが狙うのはヤングココナッツ。
まだ熟しきる前の緑色の物だ。 ココナッツウォーターとして飲むのはこれだね。 熟した物のほうが甘いのだが、カリウムやマグネシウムが多く下痢になる場合がある。 そうなったら、もうね。 脱水症状マッハなので止めたほうがいいだろう。 そもそも含まれる水分もほとんどないし。
「よっしゃ、いくか」
道具など不要。 本当は何かあったほうがいいけど、俺の体には便利な器官があるのだ。それは足の指、タコの様に長い、タコ足だ!
キモイと呼ばれた身体測定。 トラウマは蘇る。
「ふっ!」
太くない幹を選び、両足の裏で幹をしっかりと挟む。 左手は高く右手は胸の前。 両腕に体重を預けて、跳躍する。 素早く屈伸を繰り返し登っていく。 両足の裏が凄く痛い。 縄などを掛けてもっと面積を増やした方がよかった。 あまりタコ足関係ないっ!
「はぁ、はぁ、はぁ……。 疲れた……!」
それでもなんとか、ココナッツに手が届く位置まで来た。
両足はしっかりと踏ん張り、片腕を伸ばして実を捻る。
まだ若いココナッツを手に入れた。
とりあえず五個落として降りよう。 降りる時も登った時と同じようにして降りる。
「いてて……」
足の裏が痛い。 幸い皮は剥けていないようだ。
両腕をぶらぶら。 次はココナッツの殻をむかないと。
鉈や包丁は無いし、石のナイフじゃたぶん無理だろう。
硬くて丈夫な流木を探す。 先を石のナイフで尖らせる。
先は広くてもいい、まだ若いココナッツは外皮は柔らかいのだ。
「お、いけそう……」
暑さから逃れるため木陰に入り、尖らせた木を地面に突き刺す。
体重を掛け、外皮を削ぐように。 一箇所剥ければ中の種子に沿って木の先端と体重を利用してサクサク進む。
チャプチャプ。
手に持った種子は重く、揺らせば水の音がした。
後は石のナイフで削って穴を開ける。
額に浮かぶ汗を拭って、穴に口をつけた。
「うま……」
ほんのりとした甘さ。 カラカラの喉を潤し、体に水分が染み渡るようだ。
さすが命の水と言われるだけのことはある。
天然のスポーツドリンクを堪能し木陰で休んでいると、誰かきた。
「おっさんなにしてるの〜?」
昨夜のギャルだ。 こいつとこいつの彼氏のせいで俺の評判は最悪だというのに。
――よく顔を出せたものだな!
「……休んでるんだよ」
「ふーん。 あっ! いいなっ、ねっ、リサにもそれちょうだい?」
殻をむいたココナッツを指さすギャル。
「……ダメ」
「はぁ!? おっさん激ボン? そんなんじゃモテないよぉ〜?」
激ボン? 良く分からないがプリプリしだすギャル。
「彼氏にとってもらえよ」
「……あいつとはもう別れた。 リサのダチとヤグってたの! しかも問い詰めたらずっと前からだって……」
ミスった。 彼氏の不満をガンガン喋り続けるギャル。
止まらない、ゆで卵好きの元野球選手並みに止まらないっ。
「おーけー。マジ彼氏チョベリバなんだろ? 落ち着け、落ち着け」
「チョベリバって……。 あぁ、喋ったら喉渇いたなぁ〜?」
岩に腰かける俺に、しゃがみながら近づくギャル。
キャミソールのような物を着ており、胸元がチラチラと見える。
俺は仕方がないなぁと、鼻の下を伸ばしながらココナッツに穴を空けて差し出してやる。
「やったぁ!」
ギャルは両手で持って真上に掲げる。
ゆっくりと落ちるココナッツウォーターを、喉を反らせ口を大きく開けて待っている。
よほど喉が渇いていたのか、最後は直接口をつけて吸い付く。
空気と水の混ざる音。 ギャルは口を窄めて吸い付く。
零れる汁が小麦色の肌を濡らす。 俺はその光景をただただ眺める。
「はぁ……。 美味しかったぁ。 ありがと、おっさん」
彼女の『おっさん』に悪気はないのだろう。
「もっとちょうだい……!」
遠慮も無いようだ。
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