5話 DQNカップル

 さて、目を覚ましてから結構な時間が経過したわけだが。

一向に救助がくる気配は無いようだ。

 とりあえず、今晩の寝床を簡単に作ってしまおう。


「ヤシの木の下は自殺行為……か?」


 落石ならぬ、落ヤシの実。

 ヤシの実が落ちて当たれば、たぶん死ねる。

重さ三キロほどに加え、メチャクチャ硬いのだ。

とある島では専用の注意看板があるほど。

 豆腐の角よりは確実だろう。


 砂浜から少し離れた、開けた場所に決める。

テントはもちろん、ナイフもロープすらない。

 さて、どうする?


「虫に這われるのだけは、勘弁だなぁ」


 最低でも地面から離した寝床。

その為の材料に木の棒とツルを手に入れよう。

 海岸に打ち上げられている流木で良さそうな物をチョイス。


 太い木を二本交差させて縛る。

それを二組作り、長めの木材を二本、ツルで縛る。

 A型フレームなんて呼ばれる台が完成する。

ツルをベット代わりに巻きつけ、ヤシの葉を敷けば完成だ。


「屋根は後でいいかな。 移動するかもだし」


 夕暮れが近づき、やっと火も点いたようだしね。


「つ、点いたぁ〜!」


「わぁ、凄ぉいー!」


「お疲れ様ぁ! ほら、飲んで飲んで! こっちで一緒に休みましょう!?」


 火が点いただけで、イケメンの周りの女子たちは狂気乱舞である。

いつの間にか、上半身裸で汗だくの汁イケメンに進化しているからだろうか?

 ライターを使い切ったのか、木を擦って火を点けたらしい。


「頑張るねぇ……」


 こっそりと火を頂きベットの下で焚火をする。

潮が満ちて濡れたら嫌だし煙を焚いておけば蚊除けにもなる。

 乾いた小枝を細かく折って、ヤシの茶色い繊維も細かく裂いて火付けに使う。

 書類を燃やしてもいいのだけど、いや、燃やしちゃうか。


「ヒヒヒ、燃えろぉ、もっと燃えろおお……」


 大きな枝も三角形になるように並べる。

こうしたほうが酸素がいきわたりやすい。


 ちょうど腹の虫が鳴る。

ポットに水を海水をいれて煮立たせる。 カメノテとフジツボも入れてみよう。

 どっちも見た目はヤバイ系。 

 特にカメノテ、名前のまんま亀の手みたい……か? どちらも貝のように見えて甲殻類、つまりカニとかの仲間だ。

 爪の部分の緑色の所を持ち、茶色の部分を引っ張ると白い貝柱みたいなのが出てきた。 

 さて、どんな味か。


「……ん、美味い」


 味はエビっぽいようなカニっぽい。 プリッとして貝のような食感。

海水で茹でたから塩気も効いていて、非常に美味い。


 お次はフジツボちゃん。

殻ごと茹でたものを取り出し、中身をほじくり出す。

 うむ、見た目は鳥のフンみたいだけど大丈夫、匂いは良さそう。


「んん! ウマッ!!」


 一口で放り込めば口の中に旨味と風味が広がる。

口の中を蹂躙する。 独特の食感が癖になる。

 カニに似た味、しかもかなり濃厚な味だ。 


「何食べてるのおっさん?」


「ん? 食うか?」


 大学生っぽいギャルの女が声を掛けてきた。

肩ぐらいまでの明るい茶髪。 小麦色の肌、きつすぎない赤い色の水着が少し肉に食い込む。 顔もなかなか素材は良さそう。 化粧の濃さはあれだが……。 

 そんなギャルに、俺は親切にもフジツボの中身をほじくり出し、進めてやった。


「うへぇっ!? まじ、ない。 ないわぁ。 おっさんきもっ!」


 いやいや、見た目に騙されるな!

味めっちゃうまいからっ、食べてみてちょうだいよ!?


「へへ、いいから食べてみろよ。 おら、口開けろ」


 へたりこんだギャルの女。 俺は立ち上がり食べさせようと近づく。

ギャルの尻が砂浜に線を描く、悪ノリした俺はぐいぐい迫る。

 嫌がるギャルに少々、萌える。

 ザッザッとした足音に、怒声。


「オイ、コラ! おっさん、俺の女になにしてんだよ!?」


「うえぇ、助けてヒロキぃ……。 おっさんが無理矢理たべさせようとするぅ!」


 金髪オールバックの海パン一丁の男。 

 DQNきたこれ。

彼氏なのコレ? もうちょっといい男選べよ?


「死ねっっ!」


「ぐはっ!」


 誤解だと弁明する前に、腹パンして去っていった。

腰の入っていないパンチなど大して効かない。

しかし、その後すぐに誤解されたままの噂は広まるのであった……。



「露骨に嫌われたな……」


 俺の寝床の近くには誰も近づかない。

ならばチャンスと、ナイフを作ろう。

 石のナイフ。 小さな物でいい。 あると何かと便利なのだ。


「これが良さそうだな」


 なるべく平らな石を選ぶ。

脆い石は論外、硬すぎても加工が大変だ。 今はとりあえずでいい。

 もう一つ硬いハンマーとして使う石を選ぶ。

ハンマーストーンを左手に持った平らな石の端に打ち付け、欠いていく。

 心地よい音がする。


コン、コン、コン、コン。


 辺りはもう真っ暗。 焚火に薪を足し明かりを絶やさない。

救助は来ることなく、一日目の夜は更けていく。

俺を除いた皆はイケメンを中心に集まり、談笑している。


「英斗君って、○○大学なの!? 凄ぉい!!」


「きゃ! 偶然。 私もそこの近くに住んでるの。 ……ね? 無事に帰れたら一緒に食事に行きましょう? もちろんその後も……」


 耳を澄ませばそんな会話が。

当のイケメンはグイグイと迫られ困った顔をしている。

 女に囲まれて困った顔とか、何様だよ?


――イケメン様か!!


「はぁ、寝よ……」


 他には大学生のグループが騒ぎ、火の周りで静かに過ごす者が大半。

すでにちょっとしたグループ分けが自然とされていた。


 ちなみに俺は一人。 無人島ボッチ。




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