4話 機内

 透き通った美しい海。

 穏やかな風は頬を撫でる。

海の匂いはあまりしない、魚が多いのだろうか。


「暑い……」


 磯ではナマコは取らず、フジツボとカメノテを採った。

どちらも見た目はアレだが、食べられると聞いたことがある。

 フジツボは日本でも高級食材だし、カメノテは国よってはキロ数万で取引される場所もある。

 まぁ、少しだけしか取れなかったけど。 岩肌にへばりついて、とるには力が必要で大変だったのだ。 数だけは沢山あったから、乱獲するなら道具を作ろう。


 魚の姿も確認できたけど、ヒレとかに棘のある魚もいる。 無理すれば怪我をする、銛を使うべきだろう。 もしくは釣るか。 やっぱり道具は必要、人間らしくいこう。

 カニもいた、岩の下に隠れてしまったけど。 小学生の頃は平気で手を突っ込んだりしたなぁ、今はもう無理だ、何がいるか分からなくて怖い。 

 未知への恐怖ってやつかな?


 食器や調理器具も持ってない。 一時期、機内食用のカトラリーがプラスチック製になったけど、最近ではまたステンレス製に戻った。 こっちのほうが好きだね。

 フジツボをほじくり出すのにフォークが欲しい。 あと、鍋も必要。


「鍋あるかな?」


 飛行機のギャレーを覗きに行こう。

機体は三分の一ほどになってしまった。 残っているのは前方にあったギャレー一つだけのようだ。

 傾いた機体の周りには、機長を始めCAらしき人物たちが荷物を取り出していた。


「他に飲料は? 本当にこれしかないのか……」


「ありません。 貨物室にあった荷物は全部海の底ですよ、機長」


「どうするんです?」


 上着を脱いだCAさん。 汗でシャツがピッタリとくっついている。

なかなかの美人、スタイルもスレンダーで胸もいい具合で眼福である。

『ぐぬぬ!』

 そんな顔の機長を横目に飛行機に侵入する。

 横の入口から普通に入れる。 

 でもこれって、よく考えると変だ。

機体をよく見ると、理由は下部分が無いからだと分かった。


「怪我人すらいないとか、ありえるのか……?」


 改めて思う、なにかがおかしいと。

しかし、現状では考えてもしょうがない。 ギャレーを覗いてみよう。



「何もねー」


「ちっ、よく探せよ! 財布でも腕時計でも、なんでもいいからよぉ」


 ガラの悪そうな男二人。

食器を探してるようには見えない。

 機内は海にダイブでもしたかのようにずぶ濡れだった。

ギャレーも同様で、ガラスが散らばり荒らされていた。


「アルミホイル、ポットにコップと、あとカトラリーもゲット」


 残念ながら鍋は見つけられなかった。

何かで代用するしかないようだ。

 機内を出る時に二人組に睨まれるが、無視、シカト。

大丈夫だ、ソマリアで海賊に囲まれた時に比べれば屁でもない。

 独立後のスーダンに行って来いと言われた時から、俺はただの恐怖を忘れた社畜である。


「はぁ……」


 昔を思い出し、トリップしている場合ではない。

鉈もナイフも使わずに今日の寝床を作ろう。



「ん? なんで点かない……?」


 イケメン君が女の子に囲まれて、火を起こそうとしている。

使い捨てのヤスリライターを擦って、火を直接地面に置いた細い枝に当てて。

 火種はもっと小さい物を選ばないと、この湿度じゃなかなか点かないのではないだろうか。


 女同士の火種を燃え上がらせるのは上手いのに、焚火を点けるのは下手なようだな!


 イケメン君の醜態に思わずニヤケながら、ベット作りに必要な素材を探す。

火はイケメン君が頑張って点けたものを、こっそりと頂くとしよう。


「くふっ!」


 ついついその光景を思い浮かべ、先にニヤケてしまった。

取り巻きの女どもめ、これぐらいで変な人を見る目をするのはやめて欲しいね。


「なに、アイツ? きもっ」


「胸元覗かれてたわよ!」


 ゴミムシを見る目はやめてほしいね。



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