51話 覗きは犯罪です ②


 そこは楽園だった。




「うー冷たいっ」




「うきゃっ!? 急にかけるなぁ……!」




 夕暮れの迫る水場近くの沢。


無防備な乙女たちはキャッキャウフフしている。


 無造作に脱ぎ捨てられた衣服が近くに落ちている。


誰だあんなエロい下着の持ち主は、要チェックだ。




「ほう、あいつもなかなか良い胸だ」




「…………」




 俺とイケメンはベストポジションである岩場の影から覗いている。


ダメダメっ、と言っていたイケメン君も楽しんでいるようだ。


 その証拠に、スゥイートバナナは大きくなっていた。


なよなよしていても、やっぱり男の子なのだろう。




「……やっぱりダメですよぉ」




 恥ずかしそうに手で前を隠す。 その顔は赤く呼吸も速い。


緊張で鼓動も速くなっているのだろう。


 裸で女性達の水浴びを覗き息を荒くしながらアソコを大きくする。




――イケメン君も立派な変態だな!




「そろそろメインディッシュにいこう」




「えっ?」




「少し上に行くぞ」




 気づかれないように慎重に。


俺たちは移動する。


 草むらを、木や岩陰を利用し移動していく。




「あっ」




「大丈夫か?」




「は、はい」




 コケそうになるイケメンを支え、裸の男二人は上流へと向かう。


沢から水が横に流れ、二本の小川のようになる場所。 そこで以前お嬢様と偶然遭遇した。


 さきほどの場所にはお嬢様もギャルもいなかったから、きっとそこにいる。


お嬢様の裸を見せればイケメン君も元気になるに違いない。




「よし、静かにな……」




「――ぁ!」




 予想通り。


お嬢様たちはいた。 それに、亜理紗と黒髪短髪に知らないのが二人も。




「ダ、ダメです! 見ないでください」




「うお!? や、やめろ。 押しつけるな!!」




 俺の目をふさごうと密着するイケメン。


硬い何かが俺の尻に押し付けられる。


 あたたかく、硬い、そんな何かだ……。




「英斗君の次はおっさん〜〜? その体使って、おっさんに取り入ってるんでしょぉ? ほんと嫌らしい牛乳だねぇ」




 目をふさがれ聞こえてくる音に耳を傾けるしかない。


沢の音、木々の揺れる音。 それに乙女たちのさえずりが聞こえてくるはずが、どうにも違うようだ。




「ちょっと、邪魔」




「あっ――ん゛!?」




 なにやらキャッキャウフフではなくキャットファイトの予感。


俺はするりとイケメンの呪縛から逃れ、逆にイケメンの背後をとり口を押さえ手を拘束した。




「んん゛〜〜!」




「良い所だから、おとなしくしていろ」




 相変わらずお嬢様の超巨乳は陥没している。


ギャルのしなやかな肢体も惜しみなく披露されて、亜理紗と黒髪短髪は少し離れている。


 そんなお嬢様とギャルに相対するのは……誰だ?




「英斗君の次にあんなおっさんて……英斗君に失礼でしょ!?」




 おっさんに、俺に失礼だよ。




「ほんと可哀想ぉ〜〜英斗君。 だけど、あんたがいなくなってせいせいしてたよぉ……?」




「あはは! みんなで可愛がってあげてるから、心配しないでぇ?」




 おお。 随分とぶっ飛んだ奴らだ。 狂気を感じる。 




「ふぉぼして……」




 イケメンが何か呟いたがよく聞き取れない。


しかし真剣な表情で、その眼差しは彼女たちのやり取りを見守るようだった。




「いい加減にしなよ? あんた達みたいな性格ブス、イケメン君が相手にするわけないでしょ?」




 ギャルがぶった斬る。


お嬢様を守るように前に出た。


 小麦色の肌は髪を滴る雫を弾く玉の肌だ。 俺のココナッツオイルを使ったマッサージのおかげだろうか。 こんな生活なのに最初に会った時よりも肌は潤っている。


 そして怒りに頬を染め、上を向く形の良い巨峰はその声のように凛としていた。




「はああ!? おっさん趣味のヤリマンギャルは黙ってなさいよ!!」




「ヤリマンじゃないし……。 あんた達こそ、理子ちゃんに嫌がらせするし、彼女のいる男に言い寄るクソビッチじゃないの」




 一糸纏わない女たちは一触即発の雰囲気。


地面が泥なら放っておくが、小石の落ちてる地面だ。


はたして、助けに入るべきか?


 いや、無理だ。 裸で来たことが仇になった。 バナナたってるし。 おっさん変態すぎて無理だ!




「やめてください……! リサちゃんも、いいんです。 私がいないほうが英斗君が楽になるのは確かですから……」




「理子ちゃん……」




 お嬢様の雪のような白い肌が、雲から零れる夕陽に照らされる。


そして、頬を伝る涙。 押さえつけるイケメンの拳に力が入った。


 昔の光景を思い出し、今と比べ、自分の不甲斐なさに憤る、そんな表情を浮かべている。




「そうよ! あんたなんて、いなくなった方が英斗君の為なのよっ!!」




「っ……」




 歓楽街の夜王と呼ばれていたころ。 あんな感じの外国人の女に刺されそうになったことがあったなぁ。 ステファニーやジョアンナは元気にしているだろうか……。






「いい加減に――っ!?」




「理子……ごめんね」




 昔を思い出していた僅かな隙に、イケメン君がいなくなっていた。


女たちのもとに向かう、決死の尻が俺の目の前を通過していく。




「はぁっ!? 英斗君っっ!?」




「――え!?」




 場は混乱した。 いや、混沌と化したと言うべきか。


今にも爆発しそうだった女たちは、現れたイケメンに時を奪われる。




「英斗君……?」




 信じられない物を見た、とどこか呆けたような表情を見せるお嬢様。




「気づいてあげられなくて、大切にしてあげられなくて……」




 ちゃぷ、ちゃぷと、水の音を立てながらイケメンはお嬢様に近づいて行く。


背後に見える深い森に、雲の隙間から注ぐオレンジ色の光柱が突き刺さる。


 どこか神秘的で幻想的な、お伽噺に出てくるような光景だった。




「あの日。 夕陽の見える屋上で、君に言えなかったことがあるんだ」




「……」




 二人の距離はすでに互いに手を伸ばせば届く距離だ。


真剣な表情のイケメン。 流石だ。 素っ裸でも滑稽に見えない。 




「――僕は君をずっと大切にする。 何よりも、誰よりも、ずっと……ずっと! 君が嫌だと言っても、僕は君をずっと、――一生大切にするよ!!」




 お嬢様に向かって一気に言葉を紡ぐ。


言い終えると、イケメンは一歩近きお嬢様の左手をとり片膝をついた。


 


「……僕と付き合ってくれませんか?」




 突如吹く爽やかな風に、お嬢様はもう片方の手で艶やかな黒髪を押さえながら答えた。




「……はい」




 とてもシンプルな答えに、イケメンは爽やかに破顔した。




 あっけに取られる二人組の女達。 ギャルは何故か泣いている。




「なんだか良く分からんが、めでたし、でいいのか?」




 覗いていたことは闇に消えたのだろうか。


俺は今のうちにドロンしておいたほうが、懸命だろうか?




「ふぇぇ、山ピー……何してるんですか??」




 しかし、遅かった。


相変わらず気配を断って近づく亜理紗の接近に気付けなかった。




「覗きだ……」




 俺は素直に答えた。 亜理紗なら意外と許してくれるんじゃないだろうか。




「ええぇ!? 覗きは犯罪ですぅ! 犯罪ですぅぅ――ふぎゅ!?」




 大声を出す亜理紗。 つい口と体を拘束してしまった。


さきほどまで水浴びをしていたようで、素っ裸である。


 これでは俺が変態強姦魔みたいじゃないか……?




「亜理紗ぁーー!?」




 後方から黒髪短髪の咆哮が響いた。


俺はイケメンを残し、その場を逃げるように後にするのだった。




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