46話 評価

「はぁ……」




 溜息が漏れた。


ジメジメとした天気のように、僕の気持ちも晴れない。


 情けないな……。 


砂浜に行かなくていいと言われて、ホッとしてしまった。


そんな自分が情けない。


 これじゃ理子に愛想をつかされても仕方がないよね。




「英斗君、ご飯の準備できたよ」




「はい、ありがとうございます」




 凄い。


イイ匂い。




「わぁ! 美味しそう!!」




「ふぁあ……涎、たまんないわぁ……」




 女の子たちも今日の夕食に目を輝かせている。


ジュっと音を立てて肉が焼ける。 そんな光景に。




「美味しそうですね……」




 山田さんと田中さんがとってきたお肉だ。


あの鬱蒼とした森にたった二人で入って、食料を調達してきた。


お腹を満たしてくれただけじゃない、憂鬱としていた皆に笑顔をもたらしたんだ。


 僕が足にマメができたと、何もしないでいる間に。




「……っ」




 噛みしめたお肉はやっぱり美味しくて、溢れる肉汁の様に涙が溢れてくる。




「英斗君……」




「……」




 見ないで欲しい。 こんな姿は見られたくない。


必死に見せないようにしていた僕の弱さは、こんなにも簡単に見つかってしまう。


僕のメッキは剥がれていく。




「すみません。 ちょっとトイレに……」




 一人になりたい。


小雨の降る中、僕は逃げるように焚き火を離れた。






◇◆◇






 イケメンが雨の降る夜の闇に消えた寝床。


女性陣の本音トークが始まる。




「泣いてたねぇ……」




「うーん。 ちょっと頼りないね……」




 他の男達と比べると肉体的に、精神的に。


ルックス面では圧倒的なんだけどな、と取り巻きの女子は呟いた。




「おっさんとか、どう?」




「どうって、何がよ?」




「頼りになりそうじゃない?」




「それはそうだけど……」




 見た目が……。 と面食いな彼女たちは溜息を吐いた。




「すごいマニアックなプレイを要求されそう」




「性欲強そうだよね〜。 一人で二人も相手してるみたいだし」




 二人とは、ギャルとお嬢様のことだろう。


水辺の寝床は視界が遮られ、妖しい艶めかしい声も聞こえてくる。


すでに彼らの関係はそう思われても不思議ではない。 


 実際はただのマッサージなのだが。




「ギャルも牛乳も寝取り? どんだけ〜。 絶対むりぃ〜〜」




 おっさんの評価はまだイマイチのようだ。




「じゃあさ、田中はどう?」




「田中ぁ? あの奇声あげてた小太りの人?」




「そう、このお肉手に入れたの田中らしいよ!」




 実際はおっさんだが。




「えぇ、ほんとに? 実は凄い系なのかな?」




「でもメタボかぁ。 顔もオタクっぽいし、ねちっこいセックスしそう……」




「ぶふっ。 ねちっこそう!」




 田中の評価はねちっこそう。




 その後も女性陣の男性陣評価は続いていく。






◇◆◇






 おっさんの帰ってこない寝床。




「おっさん帰ってきそうにないし、食べちゃおう」




「そうですね」




 おっさんの無断外泊にもなれたギャル。


お嬢様と二人で食事を済ませる。


 非常に顔色の悪かったお嬢様も、少しずつ良くなってきている。


やはり精神的な負担が減ったからだろうか。


食事もまたおっさんが取ってくる物を分けてもらい改善されている。


 


「……山田さんが帰ってきたら、……揉ませてあげたほうがいいでしょうか?」




「ふぇッ!? な、なな、なんでぇ!?」




 自分の体調のこと。 お嬢様は分かっていた。


故に恩人であるおっさんに恩返しを考えると、揉みたがっていた自分の胸を揉ませるくらいしかできない、そんなことを考えていた。




「いえ、凄くよくしてもらってますし。 それに、あんなに悲しそうに去っていきましたから……」




 悲しそうというより悪戯がバレた子供のような表情、もとい逃げっぷりだったけど。


ギャルはお嬢様の予想外の申し出に困惑した。




「いやいや、そんなことさせたらダメだよぉ? イケメン君が悲しむよ!」




「ですが……」




「じゃさ、帰ってきたら二人でマッサージしてあげよっか! いつもしてもらってるしね」




「……そうですね!」




 おっさん無念。


お嬢様の超巨乳はギャルによって阻止された。


そんな会話をしていると、雨の降るなか誰かがやってきた。


簡易な草と木の扉を開ける者。 おっさんかなとギャルが笑顔になるが、訪問者は女性だった。




「亜理紗……見なかった?」




「……見てないよ」




 疲れた顔をした黒髪の女性。


背は低いが端正な顔立ち、髪型は短めで格好もジーンズに半袖の黒のTシャツ。


 ぱっと見では男性にも見えるクール系の女性だ。




「いなくなってしまったんですか?」




「……あぁ。 昼からずっといないんだ。 ……フラフラどこかに行ってしまうこともあるけど、不思議と道は覚えててちゃんと帰って来るんだけど……」




 この黒髪の女性と亜理紗と呼ばれた探している人物は水辺では少し目立っている。


悪い意味で。 なのでギャルとお嬢様も誰を探しているのかすぐに理解した。




「うーん。 今日は見かけてもいないかな」




「そういえば、昼間に沢の方へ向かうのは見ましたよ?」




「やっぱり……。 他の人もそう言ってたんだけど、帰ってきたのを見た人はいないんだ……」




 凄く心配そうな表情を見せる女性に、お嬢様は提案する。




「皆に声を掛けて探してもったほうがいいのではないでしょうか?」




「……したさ。 だけど、流されたんじゃないのぉ? と嗤われたよ!」 




「「えっ」」




 予想以上に嫌われているらしい。 特に今はイケメンと機長以外は男性がいない。


機長は体調不良。  女性陣には特に嫌われているのだろう。




「男のケツでも追いかけていったんだろうってさ……!」




「あ……」




 男のケツ。


そう言えばおっさんも沢の方に向かってたなぁと、ギャルは思い出した。




「どうかした?」




「ん、いや、おっさんも沢のほうに消えたなぁと、たぶん上流のほうに行ったんだと思うけど」




「なっ!? クソ、上流だねっ!?」




 ギャルの言葉に血相を変えたクール系は、雨の夜に向かって走り出そうとする。




「ちょ、ちょ!?」




「今からじゃ無理ですよ!!」




 二人は必死に引き止めた。


帰ってきたら玉を潰す、玉はダメとそんな口論が続いていく。


 おっさんのいない寝床は賑やかだった。




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