23話 浅瀬
コバルトブルーの海。
砂浜から浅瀬はあまり多くないようだ。
「よう、無事か?」
「……おっさん!」
自分で張った鳴子に引っかかることも無く、ギャルに近寄る。
ギャルは驚いたように振り返り呟く。 ギャルの瞳は少し赤く、それに顔も疲れているようだ。
「大丈夫か?」
「……うん、ちょっと眠れなかっただけだよ」
これは、今日は移動は止めておくか。
海の向こうに大きな積雲が見える。 強い雨が降るかもしれない。
移動は明日でいいだろう。
「今日はゆっくりしとけ」
「うん……」
もう少し栄養を付けさせるか。
水着に食い込む肉が無くなられては困る。 細すぎはタイプではないのだ。
海で獲物を獲る。
魚を狙ってみようか。
「このぐらいのでいいか」
森のまだ若い木。 なるべく真っすぐの物を選ぶ。
長さは二メートルほどがいい。 手斧で根本付近から切る。
何度も打ち付け削るように切っていく。
ノコギリや斧があればいいのだが。
樹皮も剥いで余分な枝も落とす。
「む……終わりそうだな……」
火をおこして炙ろうと思ったのだが、ライターのガスが終わりそうだ。
使い捨ての安物だからしょうがないか。 使い道があるので大事にしまっておこう。
太陽がしっかりと出ていれば火をおこすのは割と簡単だ。
水を張った眼鏡や水を入れたペットボトルなどで太陽光を収束して火を点ければいい。
節約しておけばよかったな。
炙って硬くした先端を削り銛を作る。 きちんと返しもつけよう。
二メートルほどだと少し長すぎる気もするが、ゴムが無いので投げつけるように重めに作ってある。
「よし、行くか」
無人島で初の海へ。
磯ではなく海だ。
「ふぁ!? お、おっさん? な、なにしてるの!?」
「なにって、脱いでるんだけど?」
俺はおもむろにギャルの前で服を脱ぎ始める。
服を着たまま海に入るのは危険だ。
もちろんダイビングスーツや足を守るマリンシューズがあれば着るけど。
ないなら全裸だ。
こうすれば海から上がった後、すぐに乾いた清潔な服を着れる。
海で濡れて塩だらけの服なんてごめんだ。
「えぇ、パンツも!?」
とうぜんだ。 決して俺に露出趣味があるわけではない。
いざボクサーパンツを脱ぎすて、大海原へ。
砂浜をゆっくりと歩き、太陽に肌が焼かれるのを感じながら、徐々に足先に感じる水の感触。 押し寄せる波は脚を撫でる。
「おふ……」
腰までつかる。 思ったより水が冷たい。 冷たすぎると言うほどでもないが。
ゆっくり入水して顔をつける。 そのまま一潜り。
「気持ちいい……」
背泳ぎでプカプカと。
ただ浮いて波に揺られているだけなのに、心地よい。
「ぷっふうーー!」
銛突きは上手くいかない。
海の中の視界は悪く、息は長く続かない。
手による銛突きは水の抵抗が大きくコツがいりそうだ。
やはりちゃんとした道具がないと、魚突きは効率が悪いかもしれない。
それでも素潜りを続ける。
徐々に体は慣れ、潜れる時間は増える。 視界も瞳孔を狭くしピントを合わせる。
『――シッ!』
隠れ潜む獲物に銛を突き込む。
泳ぐ魚を突くのは無理だ。 小さい魚もダメ。
ならば隠れ潜み獲物が通りかかるのを待つ、待ち系の大物を狙う。
海底の砂と同化したその体に、長い銛を突き込んだ。
暴れる。 舞う砂底。 しっかりと押し込み、逃がさない。
「ぷふっう……! よっしゃ!」
銛に突き刺しまま浮上する。
五十センチ台の大物。 砂の保護色に平べったい顔。
頭部に小さい棘があるので危ない。 見た目はあまり美味しそうではないが。
「こいつの刺身は最高だぜ……!」
涎が出てきた。
早く戻って調理をしよう。
俺は戻る。 獲物を突き刺したままの銛を片手に。
逆の手は腰に当て、意気揚々と。
何故か迎えてくれたギャルが赤面していた、……惚れたか?
「おっさん! もう服着なよ!?」
「ああ」
そう言えば裸だったな。
体をタオルで拭き、ココナッツオイルをぬりボクサーパンツだけはいた。
魚を捌くから汚れても嫌だしね。
遠くにあった積雲が近づいている。
サクサク済ませてしまおう。 まずは危険な棘と背びれを取り除く。
頭側は骨が多いので半分に折る。 首まで切れ目をいれ逆海老にしてパキリと。
内臓を取り出し、刺身にするのは背の部分。 頭ははココナッツミルクで煮込んでしまおう。 内臓も食べられる。 湯が沸いたら茹でて食べよう。
「すごぉ……!」
葉っぱの皿に盛られた綺麗な白身のお刺身。
薄切りにフグ刺しのように盛り付けてみた。
皮も旨いのだ、ココナッツオイルで素揚げにするのもいいな!
「旨めぇ……!」
まずは一口お刺身から。 甘みと独特の風味が最高。
薄くしたのは失敗だったかも、何枚も一気に取って食べちゃう!
「ああっ、私も、いい?」
「おう、食え食え」
そして肉を維持するのだ。
「美味しい!」
喜び向ける笑顔。
魚突きの疲れも吹き飛ぶね。
しかし、ポツポツと雨が降ってきた。
「移動するか」
「うん」
屋根のある寝床へ。
火も寝床近くの小さめの場所に移した。 他の調理はかなり時間が掛かりそうだ。
刺身を食べ終わるころには雨は強まり、風も激しくなってくる。
「寒くないか?」
「ちょっと……」
屋根はあるが壁はない。 簡易の拠点だから仕方ないのだが。
風邪をひくとマズイ。 だから仕方ないのだ。
「ほら、来い」
「え。 ええ……!?」
膝を広げて座れと指で指示する。
ギャルから漏れる困惑と若干の不審の目。
やっぱ、惚れてないな……。
「風邪ひくぞ」
「……分かった」
分かっちゃった!
ギャルはゆっくりとおっさんの足元に入る。
大丈夫、レモングラスの匂いとココナッツオイルで加齢臭はしないはずだ。
「ん……」
ゆっくりと背を預けてくる。
ギャルの体温と匂いが伝わって来る。
「あたたかい……」
強い雨と風の中。
そう言ったギャルを、背から抱きしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます