27話 めめたぁ!


 爽やかな沢の流れをBGMに、俺はイケメンの彼女――黒髪巨乳(陥没)パイパンお嬢様に土下座をしていた。




「……ふぅ。 分かりました、……許します。 事情も理解しましたし、ワザとではないようですし……?」




 膝が痛い。 ゴツゴツと小石の敷き詰められた場所の上での土下座とか、なかなか鬼畜な要求をしてくる。


見下ろす視線は沢の水よりも冷たく、完全に疑いが晴れたわけではないようだ。




「はぁ……こんなことなら、英斗君を無理矢理……。 あぁ、ダメ、そんなはしたないっ……!」




「……」




 『清楚なお嬢様は隠れビッチ』


 やりかけのエロゲアプリを思い出した。


 なんだか前に見た印象とだいぶ違う。 おっぱい揉んでも笑って許してくれそうなお嬢様に見えたのに。 


 やはりイケメンとおっさんでは態度が変わるのだろうか。




「英斗君も英斗君ですよ! どうして、どうして何もしてくれないんですか!?」




 俺は小石の地面に正座したまま、岩に腰かけるお嬢様の愚痴を聞いていた。


早く帰って寝床を作りたいのに、ギャルが待っているのに……。




(お!)




 食料だ!


正座する俺の目の前を、カエルが横切る。


拳よりも大きい体躯。 きっといい肉がついているに違いない。




「聞いてるんですか!?」




「あぁ、もちろん。 良い肉感だ」




 プリッとしたもも肉を想像すると涎が出てくる。


しかし、カエルには毒がある場合も。 大体派手な色をしているようだが……確実ではない。 今横切って逃げようとしているのは、茶緑色のまだら模様をしている。




「美味そうだ……!」




「っ! 馬鹿にしてるんですかっ!?」




 馬鹿になどしていない。


蛇とカエルは貴重で美味なタンパク源だぞ?


大真面目である。


 エスカルゴ同様にフランス料理でも食べるしね!




 カエルは草むらの方に跳ねていく。


そちらのほうから沢に小さい小川が流れている。 小さな池でもあるのだろうか。




「きゃ!?」




「おっと!」




 逃がさない。


ピョンピョンと、逃亡するカエルをダイビングキャッチ。




「クケケケケケ!」




 頭と足を持って確保。 捕まえられたカエルは奇妙な鳴き声を上げる。


素手で捕まえたが、とりあえず即効性の毒は持っていないようだ。


ヤドクガエルのような毒なら、俺はもう死んでいる。




「ひっ!」




 何をそんなに怯えるのか。


黒目の大きな可愛いらしいつぶらな瞳。 押しつぶされて真一文字になる口元など、最高にキュートである。 食べるけど。




「よしよし、今夜は御馳走だな」




 とはいえ、一匹では物足りない。


ギャルの分もとらないと。


沢の横へと視線を向け、痺れる足を持ち上げる。




「いてて……」




 草むらに隠れる小川。 その先にしばらく行くと、カエルたちの隠れ家を連想させる池があった。 森の木々に囲まれ透明度は高く水質は非常に綺麗だ。 池と言うより、泉と呼ぶのがふさわしいほど幻想的な光景である。 大きさはそれほどでもない。 水でも湧いているのだろうか?




「キャビアだ……」




 間違えた。 カエルの卵だ。


泉の淵に大量のカエルの卵が産卵されている。


透明なゼリー状の物に包まれる卵。 ゼリーの部分は卵を乾燥から守り、おっさんのような外敵からも守るのだ。


 


「……何をしているのですか?」 




 カエルの卵の塊を袋に詰めていたら、変人を見る目で質問された。


カエルの卵の袋詰めに見えないだろうか? タイムセールを争うおっさんに見るかね?




「珍味だぞ?」




 生でもいける。




「ふぇ!?」




 ゼリーの部分は周りの水を吸収して膨らんでいるのだ。


つまり周りの水質に左右される。 綺麗な透明な水だから平気だろう?


 毒が含まれる場合もあるので気をつけないとダメだが。




「おふっ! これは、なかなか……」




 噛み切れない卵を飲み込むと、つながったゼリー部分が喉を撫でる。


繋がっている。 噛み切れないゼリーに咽そうになる。 




「美味しくない……」




 微妙な苦みもあるし、生はやめたほうが良さそうだ。


ココナッツミルクで茹でたらタピオカミルクみたいになるんじゃないか?


もちろん、見た目だけだが。




「うぇ……」




「おい! 吐くなら水場の近くはやめろ!?」




 ついてきた来たお嬢様が吐きそうになっている。


まぁ吐いても虫たちの餌になるだけか?




「おっ! カエル!!」




 やっぱり肉厚のカエルの方が好きだ。




「ヘビっ!!」




「っ……!」




 カエルのいるところ、ヘビありってか!?




 テンションの上がったおっさんにドン引きするお嬢様を無視して、俺は食料確保に勤しむ。






◇◆◇






 水場の拠点へと戻るとギャルが心配そうに待っていた。




「おっさん、遅かったねーって……、なんで理子ちゃんと一緒?」




 女連れの俺を一瞬睨むが、相手を確認すると驚きの表情に変わる。




「偶然アッタダケダヨ」




「なんで片言?」




 さっと俺の横を抜けたお嬢様はギャルの手をとった。




「リサちゃん! よかった。 心配したんですよ?」




 俺に裸を見られたことなど無かったかのように、いや、誤魔化す様に元気よくギャルと話し出す。 




「ん、私も心配だったよ? てか顔色悪いけど、大丈夫……?」




「……はい。 ちょっと気持ち悪い物を見まして……」




 それはおっさんの生卵食いがグロテスクだったってことですか?




 話し始めた二人は放っておいてギャルの寝床を作ろうと思ったのだが、すでに作ってあった。




「自分で作ったのか?」




「ふふ、結構自信作だよ」




 そう言った寝床は砂浜で使っていた物と同じAフレームで作られている。


大きな葉を使って屋根も作られ、まだ木を縛るのは少し緩いが、いい出来栄えだ。 




「頑張ったな」




「う、うん!」




 ギャルは褒めたら素直に喜んだ。 僅かに頬を染める笑顔についこちらも頬が緩む。




「……いいですね」




 お嬢様が何か呟いた気がしたが、良く聞こえなかった。


俺たちを見つめる表情が寂しげだったのは分かったが。






「ひぇえ!?」




 カエルを捌く。 火はギャルが貰ってきてくれていたので、ありがたい。


バックからカエルを取り出すとギャルの悲鳴が聞こえた。


 まだ後六匹いるけど、リアクション持つかな。 蛇も一匹いるし。




「可愛いいだろ?」




「はぁあ!?」




 おっさんの美的感覚って……。 とブツブツ呟くギャル。


構わず調理を始めよう。


 先ずはカエルの足を持ち、スナップを利かせ岩に頭を叩きつける。




――パァン!




 不思議な擬音は聞こえず、乾いた音と共にカエルを絞めた。


腹を裂き皮を剥ぎ内臓を取り出す。 特に毒液のような物もでず美味そうだが、生はダメだ。


 よく焼いて食べよう。




「焼くか……いや、素揚げもいいな」




 残った物は燻製にしよう。


そう言えば、他の奴らは何を食べているのだろう。


 気になる。




「ちょっと火を見ててくれるか?」




「……あい」




 拠点ではそこらで煙が上がっている。


数人で別れて調理しているようだ。


一番人の多い焚き火、イケメン君の場所だ。




「彼女を放って他の女とイチャコラとは……な?」




 男一人に女八人。


ハーレムってやつですか?




「……」




 お嬢様もついて来ていた。


こんな光景を見たらどんな表情をするのかと、少し楽しみに覗くと驚くほどに無表情だった。 




(……怖ッ!)




 長い黒髪に怜悧な顔立ち、それに青白い肌。


無表情と合わさり、呪いの日本人形のようだった。




「いや、わ、私はお腹いっぱいだから! え、遠慮するよう!」




 大きな声がした。


イケメン君が取り巻きの女性に葉っぱで包んだ何かを渡したようだが、断れている。




「私も……バナナでお腹いっぱいだなぁ。 残念だなぁ……」




「ダイエット、ダイエット中なの!!」




 何故か断る女性陣。 水浴びでは腹が減ったと言っていたのが聞こえたような気がしたが、気のせいだったのだろうか。




「わた、わたしは……」




 少し落ち込んだ表情のイケメン君。




「私は、食べるよ!! 英斗君が作ってくれたんだもんね、絶対美味しいよ! そう、美味しいに決まってるッ!!」




 そんなイケメン君を気づかってか、女性は葉の包みを受け取った。




(バナナの葉で何かを包んで焼いたのかな)




 リボケと呼ばれる調理法だ。




「うひぃ!!」




「見た目は悪いですが、タンパク質が豊富なんですよ! 味もクリーミーで美味しいって何かで見たことがあります!!」




 包みを開けた途端女性は顔を引きつらせ悲鳴を上げる。


力説するイケメン君の言葉も、届かない。




「やっぱ無理っ!!」




 葉の中身は幼虫だった。 何の昆虫のものか分からない幼虫がギッシリ。 


葉で包み蒸し焼きにされ茶色い体から中身は飛び出し、なかなかに食欲をそそらない。


 最後の一人の女性に断られ意気消沈するイケメン。 取り巻きの女どもはそそくさと去っていく。




「戻らないのか?」




「……鬼ですか?」




 今戻ったなら、きっと食べなくてはならないだろう。




「寝床、私の分も作ってください。 じゃないと、……リサちゃんにバラしますよ?」




 脅迫か。


別に寝床くらいすぐ作れるからいいけどさ。




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