17話 話し合い


 太陽の位置は高く、今日も日差しは強い。




「あ、帰ってきたぞ!?」




 砂浜へと帰還した。


おっさん分隊十一名全員だ。




「つかれたぁ……」




「もう、一歩も動けねぇ……」




「はぁ……はぁ……」




 重い荷物を降ろし、その場に座り込む男たち。


全員二十代前半くらいだと思う、同い年ぐらいの奴もいるか。 俺よりも年上で志願していた人もいるが、遠慮してもらった。


 帰り道は疲労もあるし、運搬する水の重さものしかかる。 弱音を吐くのも無理はない。


 ヘトヘトのイケメンに群がる女ども。




「英斗君!!」




「理子!!」




 一人の女性がイケメンを抱きしめた。


凄い巨乳だ。 ……羨ましくなんかないぞ。




「おっさん、おかえりー。 ……大丈夫だった?」




「おう、……ただいま」




 俺にもお出迎えが! 家が嫌で遠くの大学に行ってブラック企業に勤めて海外を飛び回り独り身の俺には、「おかえり」なんて言ってくれる相手は久しぶりだ。


 しかも巨乳なんだよなぁ、このギャルも。




「なに?」




「ああ、いや、なんでもないぞ? ほら、お土産」




 大きな葉っぱで包んだ蛇の卵。 蛇肉串もあるのだが、苦手そうだったから先にこっちから食べさせよう。 さっさとギャルを連れ込み寝床に戻りたい。 少し疲れた。




「あ! 山田さんっ、ありがとうございました!」




 真面目だなぁ。 一応手を挙げておくか。


なぜかイケメン君の彼女らしき巨乳に変な目で見られたが。


 運んできた水と蛇のお土産を置く、ちゃんと自分たちの分は確保し離れる。




「おっさん、山田っていうんだ? 普通だね〜」




「……」




 そう言えば名乗ってなかった。


普通ってなんだよ、全国の山田さんに謝れ。




「私は……リサって呼んでいいよ。 やっちゃん? やっさん?」




「……おっさんでいい」




 つまんない、と横を歩くギャル。 少し頬が赤い。




「ちゃんと水、飲んでるか?」




「……うん、ありがと」 




 やはり足りなかったかな。 ギャルは渡したペットボトルをコクコクと飲む。


ちゃんと煮沸はしてある。 おっさんと違って普通の人は繊細だからな。




「なんか、……イイ匂いする?」




 おっさんの汗の臭い。 ではなく、レモングラスの匂いかな。


虫よけにもなる優れもの、爽やかな香りで好感度アップってか。




「ティータイムにするか」




 採りたてハーブで淹れたハーブティーをココナッツの器でいただく。 おやつは蛇のゆで卵。


なにか果物も欲しいな。 ココナッツの果肉はあまり果物という感じではない。


 バナナは今回は荷物が多かったので断念した。 次は少し果物を探してみよう。






◇◆◇




 


 パチパキと焚き火から音がした。




「今日で四日が過ぎる。 未だ救助は来ない、しかし、食料も水も不足している。 特に水は深刻だ。 海水や青草から取るには限界もある。 だから一部の者達には、水場へと移ってそこで救助が来るまでなんとか凌いで欲しい」




 ザワザワと集まった者達は騒ぐ。




「森って……」 「危ないだろ?」 「虫とかやばいでしょ」




 どれも否定的なものだ。


 


「……その一部は、どうやって選ぶんですか?」




「任意だ。 不安に思うこともあると思うが、すでに二度、有志の者に行ってもらい安全を確かめてもらっている。 沢の側にはバナナ林もあるそうだから、こちらよりも食料は得やすいだろう」




 すでに彼らの手持ちの食料は無い。 どうにかして救助がくるまで食料を確保する必要がある。 砂浜で取れるのは落ちているココナッツと貝ぐらい。 海に潜り魚を取ろうとした者もいたが、無駄に体力を消耗して終わった。 




「でも巨大な蛇がいたって言うじゃないかよ!? 他にも危険な生物がいるかもしれねぇよ……」




「たしかに、そうかもしれない。 しかしもう次の行動に移らなければならない、待つ時間は終わってしまった。 私たちは救助が来るまで、命懸けのサバイバルをしなければならいのだ」




 機長の強い言葉に静まる場、それを切り裂くように怒声は響く。




「ふざけんじゃねぇよ! だったらお前が行け!! 俺たちの為に水を汲んで来いよっっ!!」




 男の怒りは伝播し、集まった者達は叫んだ。


汚い罵りの言葉を浴びても機長は押し黙り、彼らが静まるのを待った。




「……分かった。 私は水場へと行こう。 そのほうが上手くいくかもしれない……」




 そう呟いた機長は去っていく。 その背中は寂しげだ。






 砂浜では大きな焚き火が二か所で焚かれていた。


そのうちの一つ。




「ダメでしたか?」




「ああ、やはり我々が動かなければならないようだ」




 出迎えたイケメンは機長の表情に話し合いは上手くいかなかったと悟る。


先程まで機長が話していたのは反感を持っているグループ。


機長たちの予想通り、彼らは森に向かうことには拒否を示した。




「まったく……。 まずは協力して生き延びることでしょうに……」




 彼らの気持ちが分からない訳でもないが、それを言ったところで始まらない。


妙齢の女性の言葉に焚き火を囲む者達は頷く。




「彼らを残していくことにもかなり不安はあるが、我々は明日ここを離れよう。 人数が減れば今ある道具だけでもしばらくは持つだろう」




 焚き火に薪をくべながら機長は続ける。




「水場に行く私たちも当然危険だ。 賛同してくれた君たちに感謝を」




 そう言って機長は頭を下げた。




「山田さんも来てくれると心強いけど……」




 ここにはいないおっさんを思い出し、イケメンは頼りになる背中を思い出していた。






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