16話 四日目: まさかのお刺身

 四日目の朝が来た。 


朝焼けの空はピンク色。 今日も晴れそうだ。


 沢から少し登り開けた場所に作られた拠点。


万一の増水にも対応でき、落石の危険も少ない場所だ。




「ふぅ……こんなもんかな」




 いつもながら少ししか眠れなかった。


余った時間は焚き火の番をしながら、道具を作っていた。


釣竿と、石製の手斧とノミ、それにナイフも作り直した。 今回は材料を選んでしっかりしたものを作った。 平たい燧石を研いで鋭くしたものだ。


釣竿は竹が見つからなかったのでよくしなる枝を選び、針は蛇の骨を加工して作ってみた。 


「ふふ、釣れるかな?」




「かゆい……」




 他の者達も起き出した。 背の高い草を倒して草のベットだなどと喜んでいたが、虫に食われたのだろう。 痒そうにしている。 噛まれれば毒だったり、激しい痛みを伴う虫もいる。 できるだけ寝床は地面から離した方が懸命だ。 




「山田さん、おはようございます! 昨日の薬のおかげで、すっかり治りました!」




 朝から爽やかな笑顔だ。 無精髭すら生えないのはイケメン補正か?




「おう、よかったな」




「はい!」




「朝食を食べたら早めに出発しよう。 予定外の一泊だったからな、心配してるだろ」




 そう言うと、イケメンは顔を曇らせる。




「そうですね。 ……大丈夫かな、理子……」




 また水浴びに行った彼らを残して、昨日設置した仕掛けを見に行く。






「おぉ!」




 掛かっていた。 一匹だけだが。




「なんだろう? マスかな……?」




 大きさは三十センチほど、アゴはしゃくれている。


ちょっと黄色が強い体色と大き目の黒点があり、イトウにも似ている。


 なんにせよ釣れてくれたのだ。 いただくとしよう。




「一匹だけだからなぁ、俺だけでたべちゃお!」




 魚一匹を十一人で分けるのも寂しいものがある。


ここは内緒にしておこう。




 だいぶ弱っている魚を掴み岩に押し付ける。


頭を昨日作ったノミで叩いてシメる。


新しくなったナイフの切れ味を試しながら、左手に魚を持ち腹をスッと裂く。


 内臓を取り出し、血合いもこそいで、近くの岩の上で三枚おろしに。




「結構切りやすいな、やっぱ素材が重要か」




 皮もなんとか取り、腹骨も削ぎ落としたら身を切り分ける。


大き目の葉っぱが無いかなと探すと、いい物を見つける。


 ちょうど木の間で、朝日を浴びている植物。 ススキに似た細長い緑の葉。




「レモングラス」




 皿としては使えないが、香辛料として使える。


根元を叩いてフレッシュなレモンの香りを楽しむのだ。


 薬効も素晴らしいので、多めに採取しておこう。




「ふ、これでイケメンより匂いは爽やかだな」




 丸めて胸ポケットに入れればポージーに。


風呂にまともに入らなかった昔のハワイアンは、ハーブの束で誤魔化したらしい。


 ちゃんと水浴びしているけどね、加齢臭対策にね……!




「お刺身、お刺身〜」




 サーモンのようなピンク色の身がとれた。 今朝見た朝焼けよりもピンク色だ。




「海と繋がってるのかな?」




 まだ下流の最後まで見に行っていない。 バナナ林の先がどうなっているのか、また探索の楽しみが出てきた。


 生の刺身と言えば、怖いのはアニサキス。 寄生虫だね。




「ま、これだけ薄切りにしたし、大丈夫だろう?」




 おっさんアイで確認するが見えない。 見えないものはいない。 


半ば自己暗示にも似た確認を終え、いざ実食。




「っ! 美味い!」




 脂が乗っててとろける美味しさ。 味はサーモン。こってりサーモン。


ちょっと臭いがあるけど、それもまた俺は好きだ。


 さらに叩いたレモングラスを乗せて一口。




「ふふ、これはまた」




 思わずニヤケてしまう。 醤油もいいけど、さっぱりとした風味がこってりと中和して最高である。 


  


「ふぅ、食ったなぁ……」




 水だけでも数週間は生きられるというけれど、やっぱり食べられるときに食べておくのは重要だ。 省エネタイプの人間でも徐々に力は無くなっていく。


 自然の恵みに感謝しつつ、拠点へと戻ろう。






◇◆◇


 


 


 砂浜の木陰に、二人の女性は座っている。




「おっさん、帰ってこなかったなぁ……」




「やっぱり、心配ですか?」




 白と黒。 イケメンの彼女とギャルは仲良くなっていた。


タイプではまったく違う二人のように思えるが、不思議と話は合う。




「……それは、あたりまえでしょ?」




「ふふ、ごめんなさい」




 可愛く笑うお嬢様に、少しムッとするギャル。




「ふん……。 笑ってるけど、気を付けないとイケメン君だっておっさんに襲われてるかもしれないよ?」




「ふふふ、そんな訳ないじゃないですか?」




 どちらかと言えば、中性的なイケメン。 芯が細く、守ってあげたくなるようなイケメンだ。 そんな爽やかイケメンの必死に頑張る姿に、多くの女性たちのファンができてしまっているのだ。




 おっさんの趣味は分からないけど、一夜の過ちを犯している可能性も無いわけではない。




 まったく理解していないお嬢様には、ギャルはこれ以上の説明は控えるのだった。




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