3ー9
「彼らは俺達に任せてくれ。運び終わったらなるべく早くそっちに向かう」
「うん。お願い」
ルウクと他数名はエクトプラズムの成仏を終えた元
何故実力のあるルウクではなく俺が追跡を任されることになったかというと、俺が奴に詳しいから──という訳らしい。適当か。
とはいえ運び終えれば戦線に戻るので問題はない。だからこれを了承した。
デトロイアに一時帰還する馬車を見送らず、俺はグラトニオンの追跡を再開。行き先の検討は付いている。
これは俺の憶測に過ぎないが、奴は人を捕食対象としているのかもしれない。事実、デフィルの森やステータスの説明から察するにそれは間違いない。
だが何故、普通の動物ではなく人なのか。それは恐らく『魔力』があるからだろう。
メイのMPが半分以下だったのは、グラトニオンに魔力を食われたから。魔力が無くなって不要になった人は
このことから奴の餌はタンパク質とかじゃなく、魔力である可能性が非常に高い。
魔力を狙って人を襲うなら、町が襲われるのも道理。そして、デトロイアに近く、それでいて人が多く住んでいる場所に一致するのが──!
「トランの町……!」
ほんと、最悪だな。しかし、俺とてそこまで手が回らない訳でないさ。
もしもの場合に備えて隣町の冒険者を頼るために作戦前にメイを送っている。グラトニオンやその弱点といったことも伝えるようにしているので、仮に襲われてもすぐに対処出来るようにしてある。
それでも奴はかなり強力な存在。情報を伝えてあるからといって、過信は禁物だ。
「頼む、持ってくれよ……ってか、
思い入れのある町の心配をしつつ、俺は馬車を操──れなかったので、しばらく悪戦苦闘することになったのは秘密だ!
†
何とかして馬車を動かすことに成功して、やっとトランの町が近付いてきた。やはり、俺の予想は的中したらしい。
グラトニオンはトランの外壁にもたれかかり、今にも破壊してしまいそうだ。早く引き剥がさないとデトロイアみたくなっちまう。
おそらく、この騒ぎでは町の中には入れないので馬車は途中で乗り捨てておく。後で回収するから大丈夫。たぶん。
俺は全速力で壁の下まで行き、デトロイアと同様にエネロープとトランスタッフの組み合わせで壁をよじ上ろうとした時である。
ふと視線を逸らした先に二つの人影が壁の縁ぎりぎりに立っているのを目撃する。その真下にはグラトニオン。おいおい、一体何をしようってんだ……?
空が暗くなってきてるせいで顔は分かんねぇな。何にせよ、いつ壊されるかも分からない以上、あそこにいるは危険過ぎる。よってこの俺が止めねばならぬ……と、思った矢先のこと。
二人の影は壁の上から飛び降りた。
「えぇっ!?」
その行動に当然驚く。だが、それが杞憂に終わることになるとは思わなかった。
落ちてきた者達の存在に気付いたグラトニオンは触手が伸ばすも捕まらない。それどころか、二つの人影はどういう原理なのか重力に反するように空中を移動し始めた。えっ、どういうことなの……?
レフカといい敵といい、この世に生きとして生ける存在は皆、空を飛ぶのが必須スキルなん?
いや、違う。薄暗くて見づらいが、よく見ると二本の糸らしき物を使っているな。なるほど、
まるで鏡合わせでもしているかの如き息のあったコンビネーションは、グラトニオンを翻弄させる。あんな実力者がトランに居たとはなぁ……。
あの動きに見とれていた俺は、壁を登るのを再開。何とか登りきると、壁上には数名の人達があの二人を見守っており、俺の存在に気付いてか近付いてくる者が。
「あ、メイ!」
「フウロ。ようやく来たか」
俺の方に寄ってきたのはデトロイアから派遣された冒険者、メイだ。
ということは、この集まりはギルド関係者ってことか。なるほど、どうやら俺の意図は伝わっていたみたいである。
「それよりも、あれはどういうこと? あの二人は? ってか弱点突かないと倒せないこと知ってるだろ!?」
「落ち着け。彼女らはこっち側の切り札を用意するまでの時間稼ぎとして働いてもらっているだけだ。到着までもう少しだから待てって」
「き、切り札ぁ……?」
切り札、とな? そんなものがトランにあるのか。ともかくあの冷静さを見る限り心配はしなくてもいいみたいだ。
なので俺もここにいる人と同じように下の戦いを見てみることにする。あと、さりげなく二人の性別も判明した。
二人の影はグラトニオンの拘束攻撃をするりとかわしていくが、こうして見ると中々にひやっとする光景である。
何分、相手は二十メートルを越え、魔法も炎熱系しか効かない強敵。それが無数にある触手をうねらせながら捕まえようとしているのだ。俺が時間稼ぎの役に選ばれたら速攻で拒否るわ。
そうこう考えていると動きが。人影の一つが自身の重さと勢いによって得られる円運動のスピードを駆使し、奴の触手に高速で糸を巻き付け始める。そして──
「えっ、うっそだろぉ!?」
ぶちっ──とその触手を断ち切ったのだ。
剣や魔法も通じず、炎熱を使って初めて対抗手段を得れたのに、僅か数時間の内に切断というダメージを与えるとは……。
これにはグラトニオンもたまらず後ろに倒れ込む。うわっ、真上からだと裏側はアワビみたいに見えるな。所謂腹足類っていうやつか?
何はともあれ奴に外傷を与えることに成功してしまうとは、あの人物は相当の手練れとと見た。一体何者なんだ……?
「ギルマス! 例のアレの用意が出来ました!」
「よし、二人を下げて早速発射準備だ。整え次第撃つぞ!」
どこからか叫ぶような声に、禿頭で髭面の中年が返事をする。どうやらあの男がここトランのギルマスのようである。
会話の内容は、どうやらこっちの切り札とやらが到着したという。どれ、それが何なのか拝みにいこうか。
すると、どこからかギギギギギと錆っぽい音を立てて何かが近付いてくる。何かと見た先にはレールの上を走って運ばれて来る対城兵器バリスタが。やべっ、めっちゃカッコいい。中二心が疼くな!
反対方にも同じのが来たことから、この二つを使って狙い撃つつもりらしい。
「これが切り札か……」
「ああ。普段はこんなの使わないからたった今調整を終わらせたってところだ」
思わず見とれる俺にメイが説明をしてくれた。まぁ、こんな大型兵器を普段から使う訳ないよな。仮にそうだったらどんな世紀末世界だよって話だ。
バリスタに弾を入れ終えると、奥にいるトランのギルマスが合図を送る。下で戦ってる二人を呼び戻すのか。
さてさて、一体どんな人なんやろなぁ?
ちょっと緊張気味に待っていると、ちょうど俺に近い所にトゲトゲしいフックが縁を捕らえた。そして、そこから這い上がってきた女性を見て、俺は驚きを顕わにする。
「ふぅ、結構疲れますね。流石は大型A級個体」
「あっ! あんたは確か……!」
「ん? もしかしてあなたは先日の旅人の方では?」
辺りは若干暗いながらも分かる派手な緑色の頭髪! 服装こそ違うものの、一度見たら忘れない。これとほとんど同じ顔の人がこの町にもう一人居ることを!
俺が転生初日に留置所から釈放してくれたギルドの双子の代表者。その片割れじゃないか!
「てか何!? あんたってあんなに強かったの!? 上から見てたよ、あの触手切ってたの!」
「お褒めに預かり光栄ですが、グラトニオンの触手を切ったのはあちらにいる姉の方で、私は何もしなかった方です」
そう訂正しつつ指さす方向を見ると、確かにあそこにはオレンジ色の髪をした同じ顔の女性、彼女曰く姉がいた。
にしてもまさかギルドの職員がグラトニオンの引きつけ役に出ていたとはな。しかも強いっていうんだから、世界ってやっぱり広いんだなって思う。
「……そろそろバリスタでの攻撃が始まりますね。あまり近いと発射音で耳が痛くなってしまいます。みんながいる方へ行きましょう」
ふむ、近いと耳をやられるのか。なら移動するのが得策だな。
ここで不意に俺の手に柔らかい感触が。えっ、これは……?
「ふぇっ!?」
「どうしましたか? もしかして撃つところを間近で見たいとか?」
もしかして自覚してないのか、この娘は。
安全な場所に誘導してくれるのはいいが、その方法である。だって俺の手を直接繋いでるんだぞ!? レフカですら最初の握手はガントレット越しだったのに、いきなり素手でさも当然とばかりに握ってくるからびっくらこいたわ!
あ、でもよく見るともう片方の手でメイとも繋いでる。無自覚確定ですわ。
くそぅ、前世ではあなたのような人のことを童貞殺しって言うんだぞ……! ありがとうございます。
……いやいや、こんな状況で青春感じてる余裕なんて無いわ。解脱解脱。
何はともあれ俺らも移動してこの迎撃戦の行く末を見守ることにする。バリスタの一撃が奴にどこまで通じるかは分からないが、切り札として使うのだから期待はしておくべきか。
俺達もトランのギルマスがいる場所に移動すると、橙色の髪色をした姉方と数日ぶりの対面となる。彼女とも少しだけ会話したがここは割愛。
「あっ、腹は狙わないでくれ! 中にまだレフカが……人がいる!」
「安心しろ。その話はすでに聞かせてる」
体内に囚われている者のことも、メイは伝えていたみたいだ。
壁上に固定されたバリスタから起動に伴う金属音が鳴り始めると、どんな原理か装填された弾が赤く発熱し始める。そして──
「バリスタ、発射!!」
トランの町の切り札がグラトニオンに標準を合わせ、撃ち出された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます