1ー9

 宿泊場所に戻った俺は、鍛冶士の兄妹に作って貰った棒の使い心地を確認兼練習中だ。


「確か映画ではこうやって……。あ痛っ」


 流石はプロ加工。頭に軽くぶつかっただけでかなり痛い。

 うーん。いくら身体能力が底上げされた身体とはいえ、流石に一度見た動きなどのトレースは付いてないみたいだ。

 もしかしたら、あの時の偽呂布神の質問を最後まで聞いていれば、一度見た動きを完璧に再現出来たり、身体の一部の能力を限界突破させられることも出来たかもしれない。能力のキャンセルは不可。残念。


「そういえば、こういうアイテムのステータスとかってあるのかな? 試してみっか」


 そんなふとした疑問は、すぐに実行だ。ステータス、オープン。


『規格外の槍柄(強化レベル1) 武器種:不明 所有者:フウロ 威力:20 他詳細』


 おおっ、読める。読めるぞっ! どうかなとは思っていたが、きちんと武器でもステータスはあるみたいだ。

 名前の隣には強化レベルなる表記があるな。さっきの加工がレベル1の強化だというのは分かる。

 武器種は不明……。まぁ、元々槍の柄として作られた物に加え、廃棄前の規格外品。仮に名がつくとしたら、素材かスペアみたいな武器以外の種類名を与えられるだろう。

 後は所有者の欄に俺の名前。威力は20か。他詳細も確認すると、HPバーと同様の形をした耐久力を示すケージとステータスの大きな空白があった。もしかしたらスキルみたいなのが付くのかもしれない。


「それにしても『規格外の槍柄』か。名前にしては酷いよな。リネームは……あ、出来るな。やったろ」


 一通りの確認が済み、改めて名前を見ると残念極まりない名前である。いつまでも規格外なんて名前は俺自身としても嫌だからな。名前は変更だ。

 半透明のキーボードが出現するも、手は止まる。ネーミングは大事だ。後からでも変えられる訳ではあるのだが、そう何度も変更するのも面倒臭い。今、ここで良い感じを名前を付けなければ。


「うーん、やっぱり棒の武器だから『如意棒』が無難かな? でも伸びたりはしないしなぁ……」


 思えば棒という武器をメインに戦う主人公なんて西遊記とそれモチーフの作品以外に知らない。カンフー映画の棒を使うアクションも臨機応変な対応で咄嗟に武器にするみたいなシチュエーションばっかりで、主力として使うのも見たことがないな。

 さて、これは困った。棒……棒じゃ何となくチープな感じがする。棒と似た意味を持つ杖にしよう。杖と言えば、日本には杖術という武術があったな。

 俺が今後しばらくのメインウェポンにしようとしているこの棒も、使えば杖術に入るんだろうか。


「突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀……だったか。うーむ……」


 そんなネーミングに悩める子羊の部屋に、その人物は突如としてやって来る。


「フウロォ! 居るかァ!?」

「えっ、何、どうした!?」


 扉をぶち壊しそうな勢いで開かせたのはレフカだ。

 あれ、何だかお怒り気味……否、マジで切れてる。眉間のしわとか切れ長の目に浮かぶ怒りの色が凄まじいぞ。一体何があったんだよ。


「一緒に来いっ! もう流石に腹が立った」

「おいおいおいおい、待て待て待て待て。要点を押さえて簡潔に理由を話せって──ああああ痛い痛い痛ァい!?」


 駄目だこいつ、怒りで加減を忘れてやがる。掴まれて引っ張られてる腕が引き千切れそうだってばよ。

 このままでは腕に甚大なダメージが生じてしまうのは避けられない。やむ終えまいが、些か荒療治ではあるものの、俺自身のためにこの暴走を止めるには致し方がない。

 赦せ、女騎士よ!


「一旦落ち着け、レフカ! 『水塊』!」

「──っうぁぶ!?」


 俺は水の塊を生成する魔法を唱え、それを殴る様にレフカの怒りの形相へと叩きつける。

 その衝撃はさほどでは無かったものの、この怒りを一時的に和らげるには十分だったみたいだ。


「……何をするんだ」

「そりゃこっちの台詞だ。どうした。何があったんだよ?」


 顔面水浸しとなったレフカは、顎先に水を滴らせつつ俺の攻撃に問い掛けてきた。お前を止めるためだと心の中で解答はしておこう。

 そんな訳で高ぶっていた感情の抑制に成功した俺は、レフカの怒りの原因を聞くことが出来た。


 何でも、この町に来てからとあるパーティーのしつこい勧誘を受けていたらしい。あまりにもしつこすぎたことに怒ったレフカは、思わず自分が別のパーティーに入っているとつい嘘を吐いてしまったのだという。子供か。

 そして、それを相手側につけ込まれ、その仲間を呼んでこれたらもう勧誘はしないという約束を取り決めてしまったらしい。


「お前……案外馬鹿なんだな」

「くっ。あの時は頭に血が昇っていてだな、冷静じゃなかったんだ……」


 そんな理由もあって、俺というちょうど良い人材が見つかり、実際に旅路の仲間として俺を勧誘。準備も済ませて話をつけに行ったが、そこでまた煽りを受けて激怒。先ほどの状態にまで至るという訳らしい。

 煽られて衝動に駆られるなんて騎士としてあるまじきだな。うん、こいつはやっぱり筋肉頭でも天然でもない正真正銘の馬鹿だ。


「まぁ、用件は分かったよ。要は俺も一緒について行ってそのグループと話をつければいいんだろ?」

「すまん……」


 こいつにはスルースキルを鍛えて貰わないと今後が危ない。また今回の様な出来事に俺ごと巻き込まれないためにも、厳しい指導が必要そうだ。

 しかし、その前に今の問題を解決しないと後々面倒になるだろう。正直、面倒ではあるのだが、覚悟を決めなければ。


「ほら、早速話つけに行くぞ」

「あ、ああ」







 場所を移動して、集会酒場という異世界版居酒屋に来た。

 ここはその名前からして分かっていると思うが、ルイー自主規制の酒場みたいな所である。非常に多くの人々が行き交い、酒を飲んだりしながら話をしたりと、ずいぶんと楽しそうだ。


「あいつらだ」

「どれどれっと。うわ、何だあいつら。マジであんなのが居るのかよ。お前も災難だな」


 レフカの指差しで示された場所を見ると、四人の男達が一席を囲んで馬鹿笑いしているのを見た。もれなく不衛生に見える程の醜男ばかり。うーん、これは流石に同情せざる負えない。

 しかし、装備の隙間から見える薄汚れた皮膚の隆起加減を見るに、元々傭兵職にでも就いていたのだろうか、全員がかなりの筋肉量を持っているのは一見で見破るのは容易かった。

 レフカには申し訳無いが、いくら身体能力が底上げされているといえども、正面から挑んで勝てるイメージがあんまり沸かない。


「……諦めて仲間に入ったら?」

「ば、馬鹿言うなよ! あいつら、絶対に私の身体狙いに決まってるだろ!? あんな奴らに貞操を乱されるくらいなら実家に戻って好きでもない相手に嫁ぐ方がマシだ!」


 まぁ、そうだろうとは察してたよ。俺は輪姦シチュはあんまり好きではないからな、ここは一肌脱ぐしかあるまい。


「じゃあ、俺はあいつらと接触を計る。合図を出したら、そうだな……」


 俺は耳打ちで作戦の内容を伝えると、レフカは目を見開いて驚きを露わにした。


「そんなことするのか? 第一にお前、ぱっと見だと細いから舐められると思うが……」

「お前だってあいつらを殴りたい気持ちの一つはあるだろ? 心配すんな。俺にはチャームの魔法がある。もし、暴力沙汰になりそうになったらそれを使って仕返しでも何でもするさ」


 正直、成功する自身はあんまり無い。生前の俺のコミュニケーションといえば、親しい友人と共通の話題で盛り上がるくらいしか無かったから、いきなり見ず知らずの男達に話しかけるのは流石に勇気がいる。

 ましてや異世界。俺の常識が通じるとも限らない。


「ま、何とかなると思っておかないとな」


 だが、俺には精神の神様から『勇気』という能力を授かっている。これが何なのかは未だに分からないが、きっとこの作戦で役立ってくれるはず。

 俺は深呼吸で気持ちを落ち着かせて、出会ったばかりの仲間を守るために勇気を振り絞った。

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