1ー5

「似合ってるじゃないか。何というか、さっきの異邦人風から庶民らしさがぐんっと上がった様な気がするぞ」

「それは褒めてんのか貶してんのかどっちだよ」


 レフカの妙に毒突いた言葉にツッコミつつ、俺達は服屋を出る。

 そんな今の俺の服装は先ほどの現代的な衣服ではなく、この世界に沿った如何にもファンタジーな麻の服を身に纏っている。値段は銅貨四枚分だ。

 正直、着心地は悪い。幸いにもインナーシャツは残していたので、体の全面が服の内側の毛羽立ちで擦れることはないので肌荒れの心配は幾分か軽減されている。

 ちなみに、今からこの町を簡単に案内してくれるそうだ。彼女もまだこの町に来てから日が浅いそうなので、レフカ自身が教えられる場所は一通り案内してくれるとのこと。


「大銀貨四枚で旅用の装備を一式揃えられるぞ」


 というので、ここと言わんばかりの案内で道具屋に到着。

 道具屋のイメージはポーションやら薬草やらを売ったり、手持ちのアイテムを買い取ったりするというイメージがあるが、これは日本という国がねじ曲げた空想である。

 現実、それもこの異世界ではそれは違う様で、実際にはアイテムを買い取るということはしないらしい。おまけにポーションらしき物はあっても薬草などの生物なまものはほとんど置いておらず、その代わりマッチ的な火を簡単に起こせる道具やランタン、瓶や便箋他、様々な雑貨が充実していた。


「意外と品揃えは豊富なんだな」

「そりゃあ、道具屋だからな。物が無くてどう経営するんだ。ちなみに私がおすすめするのはこのランタン。点けると焚き火並の光を持ちながら移動出来る。それとこの瓶。安価な上に丈夫で、採取した物を入れて運ぶに最適だ」


 俺のイメージにあった異世界とのギャップに感心してる中で、レフカは次々と旅路に必要なアイテムを購入しまくっている。大銀貨は偉大か。

 そんなこんなで、買う物を全てレフカに任せた結果。まぁまぁな量の荷物となった。

 旅には欠かせない野営道具一式に虫やモンスター除けの粉末。これは焚き火に入れて使うらしい。

 ポーションは体力からスタミナ、魔力の他に状態等に回復効果がある物を全四種、各十個。容器は意外にも小さく、持ち運びに楽な上安価という仕様。

 後は安い保存食をいくつかと縄、ナイフ、皿、瓶他の雑貨数種。そして、これらを収納する大きめのバッグパックを購入し、合計で大銀貨四枚丁度。ぴったりだ。


「重っ……」

「男だろ。文句は言うな」


 誰が俺に持たせたんだよ、と心の中で思いつつ、背中の重量バッグパックを背負って次の場所だ。

 その間、少しだけレフカと話をしてみたりする。例えば、先の服屋の店主が以前からの知り合いだったり、この町の簡単な情報だったりと色々だ。

 そんな中で、ふと訊ねた疑問によって、レフカの足が止まることとなる。


「なぁ、レフカ。お前って何で旅なんかしてんだ? 目的とかってあんの?」


 若干早足だったレフカがいきなり歩を止め、俺は少しだけ驚く。

 もしかして、触れちゃいけないタイプの質問だったか? 最初はそう思ったのだが、すぐに歩くのを再開させた。

 しかし、少しだけ歩くスピードが下がったのを、俺は見逃さない。


「そうだな。理由と目的か。無いわけではないな」


 ほんの僅か遅くなった足取りによって、少し先を歩いていたレフカは俺のスピードに合わせる様に横へと並び歩き出す。

 町の喧噪の中、彼女は静かにそれを語り始めた。


「少し、実家に居ることが嫌になってな。ほぼ家出当然の様に飛び出してこの有様だ」

「家出したってことは、貴族かなんかなのか?」

「よく分かったな。身分上、私は貴族だ。もっとも、田舎の貧しい領主の娘だがな」


 まぁ、ステータスに載ってた長い名前からしてそうだとは思っていたが。

 そうか、一応貴族なのか。貴族って世襲とか階級差が厳しいイメージだからな。家督とかの問題で混乱して逃げ出したくもなるわな。余計な穿鑿せんさくはマナー違反。故にこれ以上訊ねるのは止めておこう。

 意外と言えば意外な過去を聞いた後に、また新たな疑問が一つ。


「訊いたのは俺からだけどさ、そんな自分の身分をそうぺらぺらと話して良いのかよ。知り合って一日も経ってないのに」

「ふっ、どうなんだろうな。だが、強いて理由を挙げるなら、お前に話しても大丈夫な気がしたんだ。我ながら不用心にも程があるな」


 まるで自虐するかの様な回答に、俺は少しばかり嬉しさを感じてしまった。

 要は彼女にとって俺は信用に値する人間であるということ。何故そう感じ取れるのかは定かではないにしろ、そう言われて嬉しくない訳がない。


「ん、着いた。宿屋だ」


 そんなこんな話している内に、次の目的地だ。

 泊まる所は前もって確保しておかねばなるまい。宿を借りるのは当然か。

 中へ入り、店主に俺の宿泊部屋を案内して貰う。代金は先払いで食事無し銅貨五枚分。これがリーズナブルな値段なのかは未だに分からん。

 店主の案内で連れてこられたのは112番号室。ちなみに、レフカはこの店を寝床にしているので部屋は別の所にある。


「部屋に荷物を置いていっても構わんが、貴重品は常に持って歩いておけよ。稀に部屋荒らしが来て持ち物を根こそぎかっさられることがある」


 まあ、何て異世界らしい犯行。鍵は店主から借りているが、ただ掛けただけでは意味は無さそうだ。

 とりあえずバッグパックは部屋に置き、最低限の持ち物を持って部屋を出る。きちんと鍵は閉めて確認は怠らない。


「んで、お次はどちらへ?」

「そうだな……。冒険者ギルドでも覗いてみるか」

「ななななな、何ですと!?」


 冒険者ギルドとな!? あの冒険者ギルドだな!? 今、冒険者ギルドって言ったよな!?

 さも当然の如く発言されたテンプレ単語に、俺のラノベ脳が刺激を受ける。

 冒険者……。この世に蔓延る多くの異世界ラノベのおおよそ九割に登場するテンプレ職業。誰もが簡単に入れ、施設のクエストボードに貼っている依頼をこなして生計を立てる夢のジョブ!

 それが案の定、この世界にもあるという。それも、名称そのままに!


「行きたい! 行きたい行きたい行きたい! そこはどこ!?」

「お、おう……落ち着け。そんなに興味があるなら連れてってやるさ」

「やったぜ」


 俺の興奮ぶりに若干引かれてしまったが、この提案は可決の模様。

 まさか、ギルドがあるなんて思わなかったぜ。いくら異世界とはいえ、流石にそこまでテンプレ世界では無いのだと内心考えていたが、良かった良かった。

 つまりは今日から俺も冒険者! ランクを一気に駆け上がって世界最強の異世界無双への片道切符を手にすることとなる!


「テンション上がる~っ! フウーッ! ギルドッ!」


 全身を使って嬉しさを表現する俺だが、その一方でレフカの目は冷ややかというか、そこはかとなく申し訳無いという感じの視線を送っている。

 その理由は、次なる目的地『冒険者ギルド・トラン支部』にて明らかとなった。

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