1ー4
まさかのフェイントによって捕まってしまった俺は、先ほどの服屋に連れ戻された。
そして、店主が用意したと思われる椅子に座らされ、尋問のお時間となる。
それにしても。何故彼女にチャームが効かなかったのだろうか。門番の時は上手く発動出来たのに対し、この女騎士には一瞬の沈黙までしか効果を発揮しなかった。となると、二人に何か決定的に違う物があると考えるのが妥当だろう。
「おい」
「は、はいっ!?」
独り思考に耽ようとした時、女騎士の声が俺の思考を遮ってきた。
ちなみに、女騎士は俺の尋問相手となっており、店主はカウンターから俺らをつまらなそうに傍観している。
「ん……そうだな、まずは自己紹介からだ。お前の名は何という?」
「お、俺はフウロ。ただのフウロ……」
「ん、フウロか。私はレフカ。ただのレフカだ」
レフカ、と名乗ったこの女騎士。もしかすれば偽名なのかと思った俺は、ステータスを確認する。
『レフカ・エオ・ガイヴィナンド 17歳 女 職業:旅人 状態:普通 精神:緊張(小) 他詳細』
おお、如何にも貴族っぽそうな名前。年齢も意外なことに俺の一つ下だ。
ん? つまり俺って年下に走力で負けて手首を折られそうになったってことか……?
まあいい。偽名ではないことに越したことはない。それにしても、ステータスをチェックしても門番に有効でレフカに無効だった決定的な違いは無い様に見える。ふむ、さっぱりだ。他詳細を開けば、もしかすれば分かるかもしれないが。
「本題の前に少し訊ねたいことがあるんだが」
本題、というのは勿論アレのことだろう。門番の件だ。しかし、その前に一つ俺に訊きたいことがあるらしい。
やっぱり、この服のことだろうか。珍しいからね、仕方ないね。
「さっきの魔法……もう一度見せてくれないか?」
「は? さっきのって、チャームのことか?」
おろ? 意外や意外。レフカの申し出とは、先ほど使った洗脳もとい服従魔法についてだった。
「ああ。私が見た限り、お前は一切の詠唱をせずに発動していたからな。無詠唱で魔法を扱える者はそう多くない。魔法の効果も改めて知っておこうと思ってな」
つまり俺は無意識に俺TUEEE要素をしてしまったらしい。魔法を発動させる前に詠唱が必要らしいこの世界では、俺が創った魔法は魔法名のみで発動出来る故に無詠唱魔法に分類されると思われる。
それはともかく、この女騎士、その魔法をもう一度見たいと言ってきた。効果を知りたいそうだが、先の通りレフカ自身に当てても何の効果も現れなかったのだが。
実際に見せろと言われても、店主に向けるなんて出来ないので、口頭で説明することに。
「この魔法は当てた人を軽い支配状態にして、ある程度の命令を聞かせることが出来る魔法だ。何故かお前に使っても何の効果も無かったがな」
「命令を聞かせる魔法……なるほど。つまり、門番もお前の魔法に掛かっていたという訳だな」
「ああ。もっとも、これ以上この魔法を悪用するつもりはないけど」
とりあえず、チャームの効果や門番の件に関しては正直に告白しておく。変に嘘をついても身が危うくなるだけだからな。
そんな俺の話を聞き、レフカは顎を摘んで何やら考え事をしている。使いようによっては人の人生を狂わせられる魔法だからか、考えに慎重なのかもしれない。
「面白いな。気に入った」
ん、何? 殺すのは最後にしてやる? 後にそんな台詞が飛び出そうな聞き覚えのある言葉がレフカの口から聞こえた。
えっ、何? 怖い怖い。
「そうだ。フウロとか言ったな。お前、これから何をするのか決めているか?」
「何をするか……?」
次に訊ねられたのは、おそらく俺のこれからの生活についてを指しているのだろう。
思えばちゃんとした計画を立てていなかったことに気付く。この町へ来たのも服などを売って当面の資金を稼ぐために入っただけなので、目的を達成した後のことなどぼんやりとでしか考えていなかった。
「……まだ何も決めてない。今の俺は一文無しだからな。この服を売ってから考えようとしてたから」
「じゃあお前自身に問題は無いな。では、本題に入ろう。単刀直入に訊くが、私の旅路に同行する気はないか?」
「……はい?」
おいおい、この女騎士は一体何を言っているんだ。てか旅って何だよ。
シチュエーションとしては願ったり叶ったりだが、それでも頭沸いてるんじゃないかと疑ってしまう。
何せ俺は転生からわずか数時間も満たない正体不明な存在。この町に入るに人一人操っている危ない人物だというのは十分に理解しているはずだ。
「馬鹿言うな。俺は男だぞ。夜中に気を起こして襲っちまうかもしれねぇんだぞ?」
「そう忠告する奴に限ってそんなことはしないからな。それに、チャームとやらは私には効かないみたいだし、そもそもお前くらいの体つきの男なら素手で三人同時に倒せる自信がある。その辺りは心配するな」
その憎たらしいドヤ顔が俺を見たところで、少し分かったことがある。それは、この女は見た目美女騎士の、中身体育会系の筋肉頭だということだ。
まぁ、確かに見た目だけは生前出会った女性も含めて、ずば抜けて高いのは納得せざる負えない要素。余程のことが無い限り、一緒に居ることが苦痛になることはなかろう。
それにしても、まさか俺を憲兵に突き出すものだと思っていたのだが、旅の同行とは予想を遙か斜めを逝く意外さだ。
「う~ん、本人が心配ないなら、別に良いけど……。後悔するなよ?」
「ふっ、後悔は先に済ませる
と言い、レフカは俺の前に手を差し出して俺に握手を求めた。
無論、きちんとその手に応える。経緯はともあれ、仲間が出来たことは悪いことでは無いし、俺もいつまでもこの町に居れる訳でもない──実質不法侵入だからな──ので、この提案には素直に受け入れよう。
鎧籠手に包まれた手と転生したての素手は、がっちりと友好の握手をした。
そして、相手が力加減をしなかったせいで俺の手はまたバキバキと不吉な音が鳴ってしまったのは言うまでもない。ちくしょう、痛えよ。もう旅先が不安になってきた。
†
「あー、ちょっと良いかね?」
そう言って俺達の間に割って入ったのは、ここの店主。そういえばすっかり忘れていた。
思えば服の買い取りの真っ最中。レフカの威圧に負けた俺が逃げ出したから、服選びも中途半端になっていたままだった。
「ああ、すいません。買い取りの件のこと忘れてた。今、渡します」
急いでいた俺は、さっさと上着を脱いで店主へと手渡す。何せすでに硬貨は受け取っている。逃げ出したせいで泥棒紛いのことをしてしまっているので、少しでも早く受け渡さなければならない。
そのままの勢いでジーパンまでキャスト・オフ。下着一丁となった俺はその存在の性別をすっかりと頭の隅に追いやっていたことを知る──。
「こぉんの野郎ォ!」
「えっ何……ぞげぶっ!?」
痛い。痛いよ。頬が痛い。まるでハンマーで思いっきり殴られた──ってか、鋼鉄に守られた拳で本当に殴られてた。
殴ってきた相手が女性だとは思えない強烈な一撃によって吹っ飛んだ俺は、下着姿のまま商品棚に激突。派手な倒壊音と埃を巻き上げ、衣服の雪崩に巻き込まれた醜態を晒すのであった。
「お、おおおおお前! わわわわ私は女だぞ! そ、そんないきなり人前で肌を露出させるなど不敬極まりないぞぞぞぞぞ!?」
何言ってるか全然分からん。だが、意図は理解出来た。
大量の服の下敷きとなっている俺は、あっちの方で恥ずかしそうにどもどもとしているこれからの相方(?)に対し、一言。
「こ、この喪女が……。うっ」
ちーん。ご臨終です。俺。
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