1ー2
町までの道のりは、特に何事もなく普通に辿り、何の障害も無く到達してしまった。
モンスターは少ないとは聞いていたが、これでは生前の世界と何ら変わりないではないか。折角魔法が使えるんだから、せめてスライムの一匹くらい出てもいいだろうに。
「まぁ、無傷ならそれはそれで良いけどさ……」
俺は悔しさ半分の気持ちを抱いたまま町の門まで足を運ぶと、門番からじろりと怪しい目を向けられてしまった。当然であろうな。うむ。
スニーカー、ジーパン、パーカーという現代的な衣装を身に纏っている俺。異国の文化として見ても、ファンタジックな世界からすれば異彩そのものに違いない。
「そこのお前。少しいいか」
「あ、はいはい」
「見慣れない格好をしているな……。どこから来た?」
俺を呼び止めたのは、推定年齢四十後半と見られる壮年の男性。ここの門番として長年過ごしてきたのがオーラで分かる。
おそらくだが、商人として来たというテンプレは使えないな。第一持ち物が無いし、そもそもこの男の目では物が有っても一瞬で嘘だと見透かされてしまうに違いない。
てか言葉は通じてるっぽいな。神様側からの何気無い配慮、ありがてぇ。
「あー、俺は……アレだ。遠くの地方から家を追い出されて、泣く泣くここまで歩いて来たんだ。証拠にほら、持ち物はすっからかんだぜ」
まぁ、嘘なんですけどね。
今はこれで突き通すしかない。せめてモンスターの一匹でも倒して素材でも持って来れれば少しは違う言い訳が出来たかも知れなかったが。
「……………………」
あっ、怖い。この門番さん、間違いなく俺の嘘に気付いてるわ。
三白眼の双眸は俺を凝視したまま離さない。生前でもこんなに人に見られたことはないぞ。
と、ここで俺はこの男のステータスを見ることにする。
自分以外のステータスがどう見えるかの確認も含め、現状を切り抜ける打開策を模索するに丁度良いと思った故だ。
『ミグナ・ダイ 47歳 男 現職業:門番 状態:通常 精神:警戒 他詳細』
おお、出て来た。俺のとほとんど同じ形で名前や年齢、職業や現在状態などの様々な情報がミグナという名の門番の右隣に表示された。
ただ、レベルの表記は無いみたいだ。もしあったら実力差を調べるのに便利だったのだが、無い以上は諦めよう。残念である。
「家を追い出された、か……。言い訳にしては苦しいな」
「ですよね……」
「比較的脅威が少ない地域とはいえ、この辺りでも人を殺せる程度のモンスターは現れる。門番として、これまで様々な人物を見てきたが、お前ほど軽装で来た奴はいない」
『精神:警戒(強)』
「で、デスヨネ──!?」
やばい。これはやばいぞ。ステータスの警戒が括弧付きで強まってしまったぞ。門番としてこの上無く優秀なお方だ。これでは賄賂も受け取らない質だろう。渡す賄賂も無いが。
このままでは町に入れない。それ即ち、装備不十分で野宿ルートまっしぐらだ。
初日にして危機的な状況に陥ってしまうとは、これではチートもクソもありゃしないぞ。
「ん? チート……?」
そうだ。俺には魔法を創り出すチートがある。つまりは、そういうことだ。
「何だ」
「あ、ちょーっと待ってて」
そう良い宥めて、俺は早速作成に取りかかる。望みの効果はイメージ通りに。
手のひら。ピンク色の炎エフェクト。対人用。命令。弱めの支配。これらを想像して、創造する!
「『ビルド』!」
作成の詠唱と共に、手のひらからピンクの炎が前方に向かって発射した。
見事命中したそれは、一瞬にして門番ミグナの体に纏わり、すぐ様効果を発揮する。
「俺をこの町に入れてくれ! 流石に野宿はしたくないから!」
「あー……。まあ、男とはいえ……、若者の未来を、潰す訳には……、いかないか……。通っても、良いぞ……」
「あ、やった。成功した。ありがとう、門番さん」
今し方創った魔法は、対人用の魅了魔法だ。当たれば軽い支配状態になり、詠唱者の言うことをある程度実行させるという物。
無論、まだレベル1の制限があるため、そこまで強い効果は無い。
『新しい魔法を創造しました。ネームを決定して下さい』
「おっ、そうだった。そうだな……、じゃあ『チャーム』で」
意味としては「魅了」が正しいのだが、まぁ、そこは解釈の違いということで。
やはり出現したキーボードに新しい魔法の名前を記入。ステータスに二つ目の魔法が登録された。
まだチャームの魔法に支配されているためか、門番としての誇りを忘れた様な酷い顔つきとなっている。だが、決して強い魔法ではないはずなので、これが解けてしまう前にさっさと門の奥へと入ってしまおう。
もし、町に入るのにお金が必要なら服を売った資金で後払いだ。
そそくさとその場から逃げる様に俺は町へと入る。やはり人が生活するだけに、中は様々な人の賑わいを見せていた。
「さてと、まずは服屋だな」
喧噪と痛い視線を避けるため、ここに来た目的の一つを完遂させるべく、俺は衣服を専門に取り扱う店の捜索に当たる。
そして、その条件に合うと思われる店はすぐに発見出来た。
「ごめんくださーい」
扉を開けたら、からんころんと鈴の音が鳴り響いた。俺以外の客は居ないものの、沢山の服が揃えられており、ファンタジー世界の中とは思えないほど店らしい。
俺の存在を察した姿の見えない店主の声が「いらっしゃい」と歓迎の挨拶をしてくれる。
「すいません。ここって、服の買い取りとかってしてたりする?」
「ああ、やってるさ。何を売りに──って、ぬぬ!?」
カウンターまで近付くに従って、ここの店主も顔を出してくれた。白髭が特徴的ないかにも紳士的な風貌だ。そんな店主は俺の姿を目にした途端、その表情を一気に変貌させる。
「君……。珍しい服だね。材質は絹でも麻でもない。まるで竜の産毛で織られた様な……。ズボンの方も革にも似てるが、ここまで絶妙な色落ちた青は初めてだ」
「この服を売りたいんだけど、何円……じゃなくて、いくらで売れる?」
ふむ。やはり異世界の人にとって、科学合成繊維で作られた服は珍しいという認識があるらしい。ありきたりではあるが、むしろ好都合だ。
俺は早速交渉を持ち掛けることにする。店主の発言から推測するに、この世界では再現不可であろう珍しい材質で作られた服を高値で買い取ってくれるやも知れん。
「そうだね……。上着を大銀貨三枚と銅貨四枚、ズボンを大銀貨四枚でどうだね?」
うむ。貨幣の価値が全然分からん。だが、『大』銀貨という言葉が普通の交渉で大きい付加価値になっていることは容易い。
「じゃあ、それで。あと、脱いだら裸になるから新しい服も買いたいんだけど」
「分かりました。ではお客様に似合う服も用意しておきましょう」
これで交渉は終了だ。指定された硬貨を受け取る。公平な交換となったかは不明だが、今はこれで良しとする。
店主は俺の新しい服を選ぶためにカウンターから出て品物を物色し始める。プロの目なら俺に似合う新しい一張羅もすぐに見つけてくれるだろう。
グッバイ、パーカー&ジーパン。生前からの遺物。俺の旧一張羅。この世界で生き抜くために、俺の資金源となってくれ。
そんな湧かない愛着に別れを想っていると、この服屋に俺以外の客がもう一人入店してきた。
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